42 隠し事と初めての文化
久々の投稿です♪
最近の鈴花の様子が、どうにもおかしい。
以前ならば、俺が断ろうが何しようが、登下校は無理やりついてきていたはずだ。それなのに、ここ最近は学校にぎりぎりの時間に到着し、終業後は誰とも話さずに一人でさっさと帰ってしまう。
もともと人付き合いが多い方ではないが、それでもここまで極端な態度を取るのは珍しい。
別に、鈴花がどうしようと俺の生活には直接関係ない。
だが、普段とは違う彼女の行動が、どうしても気になってしまう。
「なあ、鈴花って最近、何かあったのか?」
俺は昼休み、かぐやにそれとなく尋ねてみた。
鈴花と一緒にいることが多いかぐやなら、何か知っているかもしれない。
「さ、さぁー……分からないわ……?」
かぐやはわざとらしく目を逸らし、語尾を引き延ばしながら答えた。
――これは、確実に何かを隠している。
嘘がばればれだ。
かぐやは嘘をつくとき、声がわずかに上ずる癖がある。
さらに、普段なら堂々としている彼女が、今は落ち着きなく指をもじもじと動かしている。
「……お前、知ってるだろ」
「い、いや? 別にそんなことは……?」
余計に怪しい。
この反応は、絶対に何か知っているやつのそれだ。
「絶対なんかあるよな」
「そ、そんなことないってば! 鈴花はちょっと忙しいだけよ!」
「忙しいって、何で?」
「そ、それは……えっと……勉強?」
かぐやが目を泳がせながら言った。
完全に嘘だと分かる。鈴花は元々成績が良いし、期末試験もまだ先だ。
「ふーん、まあいいけどな」
「そ、そうそう! 深く考えなくていいのよ!」
かぐやは勢いよく頷き、話を終わらせようとしてくる。
どうやら、何かしら隠したいことがあるのは間違いないが、そこまで言いたくないのなら無理に聞き出すのも野暮か。
それに、鈴花自身が話さないということは、俺に関係のないことなのかもしれない。
だったら、わざわざ詮索する必要もないか。
「まあ、鈴花が元気ならそれでいい」
「ええ、そうね! だから、気にしないで!」
かぐやはやけに安堵した様子で頷く。
俺は少し腑に落ちないまま、それ以上追及するのをやめた。
***
バレンタイン――そんなものが世の中に存在していることを、俺は知らなかった。
それがどういう日なのか、何のためのものなのか、まるで分からないまま、その日はやってきた。
朝、いつものように学校へ向かうと、校門の前で見慣れた光景が広がっていた。男女の生徒がやたらとそわそわしていて、手には小さな包みを持っている者が多い。中には恥ずかしそうに顔を赤らめながら、意を決したように誰かにそれを渡している光景もあった。
「なんだ、今日は何か特別な日なのか?」
俺は隣を歩いていたかぐやに問いかけた。
「えっ? ま、まさか、知らないの?」
かぐやは目を丸くして、驚いた顔を俺に向けた。
「俺が知ってるわけないだろ。最近まで異世界にいたんだからな」
「あっ……そうだったわね」
かぐやは納得したように頷くが、なぜか口元を押さえながらクスクスと笑っている。
「何がおかしい?」
「べ、別に? ただ、バレンタインを知らないなんて、本当に面白いなって思っただけよ」
「だから、バレンタインってなんなんだ?」
「それは……ふふっ、知らなくても問題ないんじゃない?」
何か含みのある笑い方をして、かぐやはそれ以上教えてくれなかった。
まあ、大したことではないのだろうと考え、そのまま教室へと向かった。
しかし、教室に入ると、異様な空気を感じた。
女子たちは何やらそわそわしていて、男子たちはどこか落ち着かない様子で過ごしている。そして、机の上には明らかに普段とは違う色とりどりの小さな包みが置かれている。
「おはよう、ノエル!」
元気よく声をかけてきたのは、イザベルだった。彼もまた、机の上に小さな包みがいくつか置かれていた。
「お前もそれを貰ったのか?」
「ああ、まあな。今日はバレンタインだからな!」
「バレンタイン……」
やはり、それが今日のキーワードらしい。
「お前、もしかして本当に知らないのか?」
「そうらしいな」
「マジかよ! お前、学校生活エンジョイしてるくせに、バレンタインを知らねぇってのはもったいねぇぞ?」
「それで、バレンタインとは?」
「簡単に言うと、女の子が男にチョコを渡す日だな」
「チョコ?」
「おう! まあ、本命とか義理とかあるけどな」
イザベルが説明をしてくれるが、いまいちピンとこない。
「……それは、どういう意味があるんだ?」
「本命チョコは、好きな相手に渡すやつ。義理チョコは、まあ、友達とかお世話になってる人に渡すやつだな」
「ほう……なるほど」
ようやく、この日の意味が分かってきた。
「お前も貰えるといいな!」
イザベルが笑いながら肩を叩く。
「いや、俺は別に……」
言いかけたその時だった。
「……ノエル」
聞き慣れた淡々とした声が聞こえた。
振り向くと、そこには鈴花が立っていた。
「師匠、これ……」
彼女は少し俯きながら、小さな包みを差し出した。
「これは……チョコか?」
「……そう」
短く答えるが、どこかそわそわしているようにも見える。
「ありがとう」
俺が受け取ると、鈴花は満足したのか、すぐに席へ戻ってしまった。
「おいおい、やるじゃねぇか!」
イザベルが肘で俺の脇を突いてくる。
「……別に普通のことだろ?」
「いやいや、あの鈴花がわざわざお前にチョコを渡すってのは、相当なことだぜ?」
「そうなのか?」
「お前、ほんと鈍いよな……」
イザベルは呆れたようにため息をついた。
しかし、その直後。
「ノエル」
またしても聞き慣れた声が俺を呼ぶ。
今度はかぐやだった。
「これ、受け取ってちょうだい」
かぐやは優雅に微笑みながら、小さな包みを差し出す。
「お前もか?」
「ええ。気にしないで受け取ってちょうだい」
「……ありがとう」
俺が受け取ると、かぐやは満足そうに頷いた。
「ふふっ、ノエルは本当にバレンタインを知らなかったのね」
「まあな」
「でも、これで覚えたでしょう?」
「そうだな」
俺は包みを眺めながら、小さく頷いた。
バレンタイン――それは、俺にとって初めて知る文化だった。
そして、それが思っていた以上に特別なものだということも、少しだけ理解した気がした。




