36 対月華七聖人②
「『魔黒雷』」
俺の掌から放たれた黒い雷は、裂けるような轟音とともに空間を焼き焦がし、一直線に敵へと迫る。
白い服を纏った男は、冷静に杖を前へと差し出した。その動作と同時に、透き通るような魔法障壁が空間に展開される。
次の瞬間、雷と障壁が激しくぶつかり合った。
雷鳴のような衝撃音が辺りに響き渡り、雷は障壁を削るように押し寄せる。しかし、障壁もまた、それに負けじと耐え続けていた。
やがて、互いの力が拮抗し、黒い雷は弾けるように消滅する。
「ほう、なかなかの魔法だな」
白い服の男は微かに眉を上げ、興味深げに俺を見つめる。
「だが、それではこの壁は破れんぞ」
確かに、ただの魔法障壁ではない。俺の雷を正面から受け止め、完全に相殺するとは、相当な使い手だ。
だが――
「ならば、貫くまでだ」
俺は新たな魔法陣を構築し、さらなる魔力を練り上げる。
俺の周囲に新たな魔法陣が展開される。
先ほどのものよりもはるかに複雑な紋様が浮かび上がり、そこから黒い雷が迸った。
「『魔黒雷槍』」
黒雷が槍の形を成し、轟音とともに一気に敵へと迫る。
白い服の男は再び障壁を展開しようとする。しかし、俺の雷槍は先ほどの魔法とは異なる。単なる魔力の塊ではなく、貫通力を極限まで高めた一撃だ。
雷槍が障壁に突き刺さった瞬間、弾けるような衝撃波が発生する。
「……っ!」
白い服の男は杖を強く握りしめ、必死に耐えようとするが――
「貫け!」
俺が雷槍にさらに魔力を込めると、障壁に亀裂が走る。そして、雷槍はそのまま男の肩を貫いた。
「ぐっ……!」
白い服の男が苦悶の声を上げる。
その直後、赤と白の服を着た男が俺の背後に瞬時に回り込み、鋭い斬撃を繰り出してきた。
「『断絶障壁』」
俺は反射的に防御魔法を展開する。
剣が断絶障壁にぶつかり、火花が散る。だが、その一撃は思った以上に重い。俺の防御を打ち破るほどではないが、まともに受け続けるのは得策ではない。
「少しはやるようだな」
赤と白の服の男がニヤリと笑う。
「貴様の実力、試させてもらうぞ!」
そう言うが早いか、彼は地を蹴り、一瞬で間合いを詰めてくる。
速い――!
俺は即座に回避行動を取るが、彼の剣圧が周囲の空気を裂き、頬に一筋の切り傷をつけた。
「くっ……」
俺は再び距離を取る。
だが、赤と白の服の男はそれを許さなかった。
地を蹴ると同時に、まるで影のように俺の懐へと入り込み、鋭い連撃を繰り出してくる。
俺はそれを最小限の動きでかわしながら、反撃の隙を伺う。しかし、奴の剣は寸分の狂いもなく俺の急所を狙ってくる。
単なる速さだけではない。経験に裏打ちされた剣技と、圧倒的な殺意が込められている。
「どうした? 先ほどの威勢はどこへ行った?」
奴は剣を振りながら、挑発するように言った。
「舐めるなよ」
俺は瞬時に魔法陣を展開し、爆発的な雷の衝撃波を周囲に放つ。
「『雷滅』!」
激しい雷鳴とともに炸裂した雷撃が、赤と白の服の男を強引に吹き飛ばす。
「ぐっ……!」
奴は地面を滑るように後退し、剣を突き立てて体勢を立て直した。
その隙を逃さず、俺は更なる魔法を放つ。
「『黄鎖』!」
無数の雷の鎖が空間から生まれ、奴の両手足に絡みつく。
「ちっ……!」
奴は素早く抵抗を試みるが、雷鎖が絡みついた瞬間、強烈な電流が駆け巡る。
ビリビリと痙攣するように体が震え、一瞬だけ動きが止まる。
「終わりだ」
俺はすかさず雷を纏った拳を握りしめ、奴の腹へと叩き込んだ。
「『魔黒雷』!」
炸裂する雷とともに、男の体が弾き飛ばされ、無惨にも地面に転がる。
俺は一歩前へと踏み出し、倒れた男を見下ろした。
「次は、お前の番だな」
そう言いながら、白い服の男に向き直る。
戦いの終焉は、もうすぐだった。
奴は肩を押さえながら、それでもなお鋭い目で俺を睨みつけていた。
白い服の男は肩から血を流しながらも、未だ戦意を失っていない。
「……なるほど。お前がただの魔王ではないということは理解した」
彼はそう呟くと、杖を地面に突き立て、魔力を一気に解放した。
瞬間、周囲の空間が歪み、俺の足元から無数の魔法陣が浮かび上がる。
「『神域結界』」
その言葉とともに、空間全体が光に包まれた。
次の瞬間、俺の体が急激に重くなる。
――これは、抑圧系の結界魔法か!
まるで重力が数十倍に増したように体が動かしにくくなる。さらに、俺の魔力の流れが鈍くなり、自由に魔法を発動できない状態にされる。
「……なるほどな」
俺は苦笑する。
「やはりお前らは、魔王である俺を抑え込むための手段を色々と用意しているわけか」
白い服の男は、わずかに口元を歪めた。
「当然だ。お前は脅威なのだからな」
「だが……これは決め手にはならんぞ」
俺は深く息を吸い込み、体内の魔力を極限まで圧縮する。
結界が俺の魔力の流れを鈍らせているとはいえ、俺の魔力を完全に封じることはできていない。ならば――
「『魔花畑』」
俺は一瞬にして体内の魔力を爆発させる。
その衝撃によって、抑圧の魔力が弾け飛び、俺の体を覆っていた結界の圧力が一気に弱まる。
「なに……!?」
驚く白い服の男を尻目に、俺は一気に間合いを詰める。
彼は急いで新たな魔法陣を展開しようとするが――
「遅い」
俺の拳が、彼の腹へと突き刺さった。
「ぐっ……!!」
白い服の男の体が大きくのけ反り、そのまま吹き飛ばされる。
だが――
「……くっ……!」
彼は寸前で空中に魔法陣を展開し、衝撃を和らげると、地面に着地する。
「やはり、甘くはないか」
俺は小さく呟きながら、再び構えを取った。
白い服の男は荒い息をつきながらも、まだ戦う意思を見せていた。
――この戦い、長引きそうだな。
一方、造の方はどうなっている?
俺は一瞬だけ視線を向ける。
そこには――
両腕を血に染めながらも、なお戦い続ける造の姿があった。
黒い鎧を着た男と漆黒のマントを纏った男を相手に、決して引かず、果敢に斧を振るっている。
「まだまだ、儂も捨てたもんじゃないぞ……!」
その声は、まるで失った誇りを取り戻すかのような、強い意志に満ちていた。




