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32 ゲームスタート

短め

 新年早々から騒がしい!


 まさか自分の口からこんな言葉が出る日が来るとは思いもしなかった。心の中で小さくぼやきながら、ぼんやりと状況を整理しようとする。


 それはそれとして、確か先程まで自室のベッドで寝ていたはずだ。寝返りを打った瞬間、いつもの天井ではなく、何か明るい光景が目に飛び込んできた。


 気がつけば、見覚えのある場所に立っていた。


 場所は雲の上――いや、正確には雲の「上空」にあるような場所だ。足元には柔らかな白い雲が広がり、その感触はふわふわとして現実味に欠ける。空気はひんやりとして澄み渡り、周囲には淡い光が満ちている。まるで浮遊する島の上にでもいるかのような、不思議な光景だ。


 ここは間違いない。以前訪れた、あの胡散臭い神がいる場所だろう。


 視線を巡らせると、やはり周囲には同じように困惑した表情を浮かべている人々がちらほら見える。おそらく彼らも転生者(多分)だろう。顔ぶれは様々だが、どことなく緊張感が漂っている。


「久しぶりだな、旧きものよ」


 突然、頭上から声が降り注ぐ。その声はどこか軽薄で、無遠慮な響きを持ちながらも、やけに通る音色だった。


「昨日でやっと全員の転生が終わった。今日に至るまでウォーミングアップの時点で何人か脱落した者もいるが……元気そうで何よりだ」


 声の主――物語の神――の姿はやはり見えない。だが、その存在感だけは圧倒的で、雲の上全体に満ちているように感じられる。


「さて、それでは明日からゲーム開始だ」


 神の声は明るく軽やかだが、その言葉が告げる内容は明らかに穏やかではない。その場にいた全員の背筋が自然と伸びる。


「何か聞きたいことはあるか?」


 神がそう問いかけると、場は一瞬静まり返る。全員が顔を見合わせ、誰かが口火を切るのを待っているようだった。


 そんな中、沈黙を破ったのは、桃色の髪をした少年だった。目立つ色合いの髪が、雲の白さの中でやけに鮮やかに浮かび上がる。


「こんなことやったら地球が壊れるんじゃないか?」


 少年の声は軽い調子だったが、確信を突いた質問だった。確かに、この脆い世界で能力を駆使してやり合えば、地球そのものがもたない可能性だってある。


「その点については問題はない」


 神はあっさりとした口調で答えた。


「戦闘が開始されたとき、別の次元に移動される。現実の地球には一切の影響を与えないから安心しろ」


 さらりとした説明に、場の緊張感は少しだけ和らぐ。それでも、まだ不安そうな顔をしている者は少なくない。


「他に何かあるか?」


 神が再び問いかけるが、今度は誰も口を開かない。先程よりも沈黙が長く続く。


「それでは、いってらっしゃい」


 神の声がそう告げた瞬間、視界が一気に真っ白に染まった。



***



 次に目を開けると、そこは自室だった。見慣れた天井の模様が目に飛び込み、布団の柔らかな感触が体に戻ってきた。だが、それは一瞬だけ。違和感がすぐに襲ってきた。


 ――目線の先に、見慣れない人影があった。


 ベッドから体を起こすと、視界には一人の老人が立っているのが見えた。白髪で背は少し曲がり、手には木製の杖をついている。衣服は古びた和装で、どこか懐かしい雰囲気を醸し出していた。しかし、それ以上に奇妙なのは、どうやってこの部屋に入ってきたのかまるで分からないという点だ。


 部屋は鍵をかけていたはず。それなのに、目の前にいるこの老人――。


 ――いや、そんなことを考えている場合ではない。


 少し警戒しながら声をかける。


「……お前が、あの手紙の主か?」


 老人は深く頷き、静かな声で答えた。

「そうじゃ。儂の名前は、讃岐造(さぬきのみやつこ)じゃ」


 どこか懐かしい響きの名だ。しかし、目の前の老人は至って普通の人物に見える。理事長が「普通ではない」と警告していたが、その言葉がどうもピンとこない。


 ――本当にこの老人が何かをしでかすのか?


「それで、何をしに来たんだ?」


 問いかける声に、わずかに警戒心が滲む。


 老人は杖を床に軽く突き、こちらをまっすぐ見据えた。その瞳には穏やかさと冷徹さが奇妙に同居している。


「いきなりで申し訳ないが、お主には死んでもらう」


 ――何だと?


 その言葉を耳にした瞬間、体が硬直する。冗談にも聞こえない。いや、むしろ、その声には何かしらの決意が込められていた。


 次の瞬間、周囲の風景が一変した。


 布団の感触が消え、部屋の壁や天井も跡形もなく消えていた。目の前に広がるのは、限りなく広がる真っ黒な空間――暗闇だけの無機質な世界。


 足元には何もないはずなのに、なぜか立っていられる。しかし、上下左右の感覚すら曖昧になり、どこを見ても終わりのない虚無が広がっていた。


 ――一体何が起きているんだ?


 目の前の老人――讃岐造は、変わらず静かに立っていた。ただその姿は、どこか圧倒的な威圧感を放っている。


「さあ、始めるとしようか」


 讃岐造の声が静寂を切り裂き、暗闇がさらに深さを増していくように感じられた。

もうストックが尽きてしまったで、投稿が出来ない日がくるかもしれません。

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