二章のプロローグ ~最後の贈り物~
今日から二章に突入!!
二章は竹取物語(かぐや姫)をモチーフです。
楽しんで頂けると嬉しいです。
平安時代。
この時代で知らない人はいないというほどの絶世の美女がいた。
名を、なよ竹のかぐや姫。
「ごめんなさい。もう月へと帰らなければいけません」
時刻は深夜。外は暗く、何も見えず、ただ月明りが地上を照らす。
少し肌寒いなか広々とした空間に二人、かぐやと帝がいた。
帝はゆっくりとかぐやの手を握る。
「僕はまだ君との約束を果たしていない。それまでは待ってくれないかい?」
かぐやはゆっくりと首を横に振り、帝の手を優しく振りほどく。
「……それは出来ません。月からの使者は間もなく来ます」
帝はゆっくりと外の方へと歩いていく。それに続くようにかぐやも後ろを歩く。
「言ったはずだよ。僕が約束を果たすまで何があっても君を手放さない」
帝がそう言うとかぐやはゆっくりと口を開く。
「どうなさるつもりで?」
帝はかぐやの方に視線を移し、その瞳を見つめる。
「説得する」
「出来なかったら?」
「武力を持って追い返す」
かぐやは涙目になりながらも、首を横に振る。
「……それはいけません。私はあなたからたくさん貰いました。もう十分なのです。……ですから、戦うことだけは辞めてください」
「たとえ、負けると分かっている戦いがあったとしても僕は君との約束のためなら挑む。君は退屈な毎日を幸せな毎日に変えてくれたんだ。この命に引き換えても約束は守るよ」
かぐやは諦めたのか、涙を手で拭い少し微笑む。
「……ありがとうございます」
帝は外で待っている武士に声を掛ける。その声はとても戦をしたことがない声ではないほどの迫力がある。それだけ、この戦いにかけている想いが大きいのだ。
「武士の皆、よく集まってくれた。この戦いは完全な私情。抜けたいものは抜けてもいい。この戦いに勝ったあかつきにはそれ相応の報酬をだそう」
その言葉は心に響く。一つ一つの言葉に揺るぎない想いが含まれており、それは誰が聞いても分かる。それが原因なのか、誰もこの場から去ろうとはしない。
「相手は月の使者。未知の相手だ。全力で挑むぞ!」
「「「「おーーーーーーー!!!!!」」」」
帝の言葉は今この瞬間、どんな武将よりも武将らしかった。それに応えるように約千人の兵が声をあげる。
そのときであった。一人の見張りが鐘を鳴らす。その鐘の音は屋敷中に響き渡る。空を見上げれば、満月、そしてそれに照らされた人影が見える。
「人間よ。姫は返してもらう。直ちに姫を引き渡せ」
天から舞い降りるように地面に着地する。よく見れば、白い服を纏い、杖をついている。誰もが怯える中、帝だけがゆっくりと前線へと歩いていく。
「僕はこの国の帝、松本義輝。少し、話しをしたい」
月の使者は彼を睨み、険しい表情をする。
「人間と話す価値はない。さっさと姫を返せ」
「どうやら、話には応じてくれないらしいね」
義輝はゆっくりと手を挙げ、鋭い視線が月の使者を捉える。手を振り下ろせば、屋敷中に聞こえるように大声で言った。
「今だ!!!!」
その合図と共に屋敷の近くに潜んでいた武士達が月の使者に向かって突撃しにいく。
「これだから、人間というものは愚かなのだ」
月の使者は手を前に出し、魔法陣を構築していく。その魔法陣は月明りに照らされ、白色の魔法陣が黄色く光る。
「月華の秘術――『万月』」
魔法が放たれた瞬間、武士たちは次々と倒れていった。外観に傷のようなものは見られない。全員が眠りに就いたかのようだ。だが、呼吸はない。
月の使者は険しい顔をする。武士たちが全員倒れている中ただ一人、義輝だけが立っていた。
「……なかなかしぶとい人間だ」
義輝は警戒するように手元にある刀に手を当てる。月の使者は義輝の目をまじまじと見つめる。
「……太陽の子か」
義輝は首を傾げる。
「太陽の子? 何のことだい?」
「知らぬとは愚かな事だ。古くから伝えられし、月の者の天敵であり宿敵。知らぬのなら、せめて楽に殺してやる」
月の使者は先程と同じ魔法陣を構築し、魔力を込める。そのときだった、義輝を庇うようにかぐやが前に出る。
「やめてください。ちゃんと戻りますから。この人は殺さないでください」
「かぐや。僕は――」
かぐやは後ろを振り向き、微笑む。
「いいのです、これで。あなたはまだ死んではいけません」
月の使者は殺気の籠った声を放つ。
「姫。その者は我らの宿敵、太陽の子。ここで滅ぼさなければ、後悔することになる」
「どうかお願いします。この人は私の恩人なのです」
月の使者は呆れたように手を頭にやる。そして落胆したような声で言う。
「……分かりました。姫がそう言うのでしたら――」
かぐやの足元に魔法陣が構築され、それが黄色く光る。
「——思い出させてあげましょう。姫の取るべき行動を……月華の秘術・禁呪『終焉の月』」
魔法が発動されれば、かぐやは白い光に照らされる。意識を失い、倒れたかと思えば次の瞬間には消えていた。
そして上空の方から美しい声がする。
「私は月の姫。太陽の子を生かしてはならない……」
その言葉と目には感情がない。義輝はゆっくりとかぐやの方へと向かって歩いていく。
「かぐや、僕は君との約束は破らないよ」
瞬間、地上だった場所が宇宙空間のようなところへと変わった。かぐやの後ろにあった蒼月によるものだった。
かぐやは義輝に一つの壺を渡した。
「その壺の中には蓬莱と呼ばれる不老不死の薬が入っている。それを飲めば永遠の命を手に入れられる。その代償として太陽の力を失う」
義輝はそれを受け取った。
「私との約束を果たしたいのならそれを飲んで生きるといい。私は戻ってこれるか分からないけど……」
「僕はそんな力に頼らないよ。永遠の命なんかいらない。死ぬ覚悟でこの戦いに挑んだんだ」
彼は壺を投げ捨てた。
次の瞬間、目の前にいたかぐやは消え、義輝の腹に彼女の月で出来た槍が刺さっていた。義輝の腹からは血が流れる。
「……そう、か。やっと、思い、だした。僕は太陽の子、君の宿敵だ」
義輝は何も抵抗せずにただ微笑んだ。
「……だけど、君との約束は絶対に守るよ。たとえ僕が死んだとしても」
かぐやはゆっくりと槍を抜き、屋敷に向かって投げる。屋敷は崩壊し、その中に居たものは全員死んだ。無論、彼女を育てた両親も。
「これでも約束を守る?」
「……君がどんなに悪い事をしても、僕の考えは変わらない」
義輝はかぐやを真っすぐ見る。そして優しい声を放つ。
「……遠い昔に僕の弟がいる。僕が約束を果たせなくても、弟は僕の約束を果たし君を助ける」
彼はかぐやの手を強くに握る。
「これが僕からの最後の贈り物――」
義輝はかぐやの体内に魔法陣を構築させる。その魔法陣は赤く光る。
慌ただしく月の使者がそれを止めに行こうとする。
「貴様!!! やめろ!!!!」
「——陽華の秘術『新生の太陽』」
周囲はかぐやを中心に赤く光り、この場にいる三人を呑み込んでいく。
かぐやは涙を流し、義輝に抱き着く。
「……ごめんなさい。私は酷いことをしてしまった」
義輝は微笑みながら、首を横に振る。
「君のせいじゃない。僕が君を正しく産ませられなかった。今度は正しく、産ませるよ」
そのときだった。月の使者が最後の余力を使って投げた壺をかぐやに投げた。壺は割れ、中身がかぐやにかかった。
「……思い、通り、には、させん。太陽の――」
宇宙空間のような空間は赤い光に吞み込まれ、それと同時に三人は消えていった。
後にこの事件は作者不明、成立年代不明の日本最古の物語、『竹取物語』として後世へと受け継がれていく。




