02 新たな日常
転生して二ヶ月が経ち、俺は新たに通うことになった学校に向かう日がやってきた。
この世界には学校というものがあるらしく、それがどんなものか、前世で学び舎のようなものがあったことを思い出しながら少し興味を持った。しかし、この世界の学び舎は、前世で見たものとは比較にならないほど充実しているという話だ。
魔族と人間との戦争があったからこその変化なのかもしれない。
高校というものが何を学ぶ場所か、正直よくわからないが、どうやら大変な場所らしい。子供たちの話を聞いていると、皆それなりに苦労している様子だ。とはいえ、僕は慣れていないだけだろうと、気にすることもない。
「藤塚高校」と呼ばれるその学校の名前は、地名と学校名がただ組み合わさっただけで、特に面白みもない。だが、今のところその名前にこだわる理由もないし、そんなことよりも目の前の状況に集中しなければならない。
制服を着るのは、前世では経験がなかったことだ。だが、この世界ではなんとも格好良く感じられる。それが些細なことでも、少しだけ嬉しかった。
黒いジャケット、白いシャツ、そして赤いネクタイ。それらがぴったりと自分の体に合っているのが何とも心地よい。
この二ヶ月間で、俺はこの世界について多くのことを理解してきた。日常の流れ、動く絵やアニメーション、食べ物の美味しさ、人々の文化。
それらに触れることで、生活にはそれほど困難を感じることなく、むしろ暇を持て余しているくらいだった。何をして過ごそうかと考える日々が続いている。
「もうすぐ八時か。そろそろ出発しなければ」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
母に軽く挨拶をして、家を出る。少しの風が肌を撫で、清々しい気分になる。今思えば、転生してからの生活は、意外と穏やかで楽しいものだ。
悠太の魂が以前のように主導権を握れないせいで、今の家の中での主導権は完全に俺にある。できる限り悠太の性格や声に近づけようと努力はしているが、どうしても疲れるものだ。
感情の表現をしっかりと合わせようとするのが難しいのだが、まあ、仕方ない。母にはあまりそれを感じさせないように気を使っている。だが、学校ではその必要はない。
だって、悠太にはまだ誰かと直接関わるような知り合いもいないからだ。
しかし、思い出してみれば、学校は四月から始まるのではなかったか……今は九月だというのに、なぜ今日学校に行くのか疑問に思う。
(なんでだ?)
(僕たちは転入生だからね)
転入生? そんなことを聞いた覚えはない。
(転入生って何だ? すごいことなのか?)
(すごいわけじゃないけど、途中から学校に通う生徒のことだよ)
なるほど、そういうことか。
疑問を解決したところで、学校に到着。自分で作った魔王城と比べれば、はるかに小さいが、それでも立派な建物だ。周囲には広い敷地があり、桜の木が並んでいる。その木々が季節ごとに美しい花を咲かせることを想像するだけで、少し心が躍る。
校内に入ると、早速、担任の先生が俺を待っていた。
「こんにちは」
「こんにちは。藤條 悠太君だね。私は君のクラスの担任、片山理江。案内するからついてきて」
黒髪のロングヘアを持つ優しげな口調の女性教師が、俺を案内してくれることになった。
穏やかな表情に安心感を覚える。教師という職業には、やはりそれなりの深みと優しさが必要だろう。
職員室に向かい、そこで大きな袋を渡された。
「悠太君、これが君の教材だよ。家に持ち帰って、中身を確認してね。何か問題があったらすぐに連絡してね」
「はい」
教材が入った袋を受け取ると、ふと思った。今日は学校が始まる日ではなかったのか?
(今日は教材を受け取って帰るって言われていたけど……)
(そうだったっけ?)
(確か、来週の月曜日からだよ)
思い違いだったか。まあ、そんなこともあるだろう。
教材を受け取った後、家に帰ることにした。
家路を急ぎながらも、街並みの変化を見て楽しんだ。街の人々は忙しそうに歩き回り、所々で賑やかな笑い声が聞こえる。その光景に、少しだけ自分が異世界に来ていることを実感した。
「ただいま」
「おかえり」
自分の部屋に向かい、教材がきちんと揃っているかを確認する。現代の国語、数学Ⅰ、数学A、化学基礎、言語文化…。全部揃っているようだ。
これで一安心だが、次に何をしようかと考える。暇な時間をどう過ごすべきか。
「外に散歩でも行こうか」
特に目的があるわけではないが、気分転換に少し歩いてみることにした。思い切って、普段は行かない道を選んでみるのもいいだろう。
山道を歩きながら、数分後、すぐに飽きてしまった。どうしても、この世界の山には特に面白いものがない。前の世界では魔物や遺跡、ダンジョンが点在していて、冒険の匂いが漂っていたが、ここにはそれがない。
(どこかオススメの場所はないか?)
(商店街に行けばいいんじゃない? なんで山の中を歩いているんだ?)
(散歩と言えば山が普通だろう)
(いや、そんな常識はないから)
(商店街か……)
そうだな、商店街にでも行って何か買ってみよう。そう考えて、商店街へ向かうことにした。
商店街はなかなか賑やかで、店が軒を連ねている。ここが商店街か、何だか新鮮で楽しい気分になる。
店先で色とりどりの商品が並び、そのすべてが目を引いた。何を買おうかと悩んでいるうちに、ふと、ある店に目が止まる。
歩いていくと、薄い生地に色々な具材が巻かれた食べ物を売っている店を見つけた。
(あれは何だ?)
(クレープだよ)
(クレープ……いいか?)
(わざわざ聞かなくても好きに買えばいいさ)
そうだな、気にせずに買ってみよう。
「これを一つください」
「420円です」
「え、420円……?」
「お金を払うんだよ!」
「あ、そうだった」
ポケットからお金を取り出し、指定された額を渡す。
「お待たせしました。イチゴチョコです」
受け取って、その場を去る。
手にしたクレープを見ていると、すでに香ばしい香りが漂ってきた。食べるのが楽しみだ。
食べてみると、これが想像以上に美味い。まさか、こんなに美味しい食べ物がこの世界に存在するなんて。母がいるため、外で食べることがほとんどなかったが、これは大ヒットだ。これからは頻繁に食べよう。
日が沈みかけた頃、もう一度道を歩いていた時、目に入ったのは「パフェ専門店」という看板。やはり勘が当たったようで、ここもきっと美味しいに違いないと直感が働く。
店内に入って、すぐに注文をする。
「マンゴーヨーグルトパフェを一つ」
「890円です」
支払いを終え、席に座って待つこと数分。店員が持ってきたパフェを見て、思わず目を見張る。その美しさと食欲をそそる香りに、期待が高まる。
食べてみると、これもまた絶品だった。やはり、この世界の食べ物はどれも美味しい。もうこの店の常連になりそうだ。
家に帰り、リビングでリラックスしながら、ふと気づく。何か大事なことを忘れている気がする。
(宿題、だったか?)
(宿題……まさか、それをやっていないのか?)
ああ、すっかり忘れていた。急いで宿題をやらなければ。
(あと二日だよ!)
悠太と協力して、何とか宿題を終わらせることができた。
「やっと終わったな。これで準備万端だ」
(そうだね。これからの学校生活が楽しみだ)
その言葉に、俺も自然とワクワクしてきた。クラスメートや教師との出会い、新しい授業、どんなことが待っているのか、とても楽しみだ。