21 トリックオアトリート
満月の夜――
地面は月明りに照らされ、十月の寒い日に彼らは動き出す。この世ならざる者として生まれ、人間社会に紛れ込む化け物。
それを人々は『吸血鬼』と呼ぶ。
「それで、奴らは見つかったのか?」
吸血鬼の王、ネクロス・シルヴァーレインが言った。
そこにいるのは三人の吸血鬼、原初の吸血鬼とも呼ばれる。その内の一人が言う。
「はい。当初の予定通りに作戦を実行しようと思います」
***
「最近、日本各地で原因不明の死亡事故が発生しているらしいわよ」
突拍子もなく、かぐやは俺に話しかけてきた。
「そうなのか。知らなかったな」
「死亡者全員が血が青くなっていたらしいわよ」
それはまた奇妙なことだな。どう考えても転生者の仕業だろう。
「吸血鬼だろうな」
「吸血鬼?」
かぐやは首を傾げる。
「ああ。吸血鬼は一般的に血を吸うだけの者だと思われているが、それは間違いだ。吸血鬼は主に血を吸うだけであって、相手の血をいじることも、魔法を使ったりもする。少なくとも俺がいた世界ではそうだった」
「何の為に殺すの?」
確かに吸血鬼は人間を嫌ってはいるが、好戦的ではないため人間を殺すようなことは滅多にしないはずだ。それとも他の世界では好戦的なのか?
「さあな。何か目的があるのかもしれぬ」
かぐやと話していればイザベルが俺に話しかけた。
「なあ。明日、これに行かねえか?」
そう言いながら、俺達に一枚のポスターを見せてきた。そこに書かれているのは仮装大会だった。
「いいだろう。お前はどうする?」
かぐやの方に促せば、彼女は頷いた。
「いいわよ」
鈴花も誘っておくとするか。
俺は鈴花に『思念伝達』で話しかける。
⦅少しいいか?⦆
⦅大丈夫⦆
⦅明日、仮装大会があるらしいのだがお前も行くか?⦆
⦅……行く⦆
⦅そうか。なら、あとで詳細を送っておく⦆
***
後日、俺達四人は仮装大会の開かれる場所である、町の大広場にやってきた。そこにはたくさんの人が仮装をしていた。
「これが仮装というものか」
俺が感心したように言えば、かぐやが不服そうに言ってくる。
「なんで仮装してるのが私だけなの」
「俺は仮装大会とやらが分からなかったからな」
俺がそう言えばかぐやはつっこむように言う。
「馬鹿なの!? なんで知らずに参加するわけ!?」
イザベルが俺に続けて理由を述べる。
「俺は仮装する衣装がなかったな」
「なんで仮装大会に参加しようと思ったの!?」
最後に鈴花が淡々と理由を述べる。
「……仮装は苦手」
「仮装に苦手も得意もないでしょ!」
「そんなに不満があるのか?」
俺がそう言うと、かぐやは少し顔を赤くした。
「別に不満があるわけじゃないんだけど……私だけ仮装しているのは恥ずかしいわ」
「そうか。ならば、全員同じ仮装をすればいいのだな」
俺は自分を含め、全員に魔法陣を構築する。
魔法が発動すれば、全員の衣装が変わっていた。白い服、黒いマント、黒いズボンを着た姿になっていた。個人差はあれど、『吸血鬼』の衣装と似ていた。
「何よこれ?」
「これぞ、吸血鬼の衣装だ」
「それは分かるわよ。使った魔法の話だよ」
「そっちか。『変装』の魔法だ。教えて欲しいのか?」
「そういうわけじゃないわ。ただ魔法の勉強もしとかないと思って……」
「それは良い心がけだ」
俺は周囲を見渡した。先程から何か嫌な気配がする。人が多くてどこにいるのかが分からないがこのまま放っとけば、面倒なことになりそうだな。
次の瞬間、あたりが真っ白となり、その場には俺達四人だけになった。そして、物語の神の声が響き渡る。
「君たちに最後の試練を与える。吸血鬼の王、ネクロス・シルヴァーレインを殺せ。彼はルール違反をした」
くははは、と俺は笑う。
「それはもちろん……断る」
「なっ!? 君たちに拒否権はない。この試練をクリアしなければ、ゲームオーバーだ」
「俺にそんな脅しは効かんぞ。殺すかどうかは俺が決める。お前の意思でうごくような俺ではないぞ」
俺がそう告げるとともに白い空間は消えていき、元の空間に戻っていた。
「どうするのよ? ゲームオーバーになったらどうなるのかも分からないのよ?」
「どうなるかはもう分かっている。ゲームオーバーになれば、誰かが殺しに来る。現に吸血鬼の王ネクロスがそうなっているようにな」
「確かに……って、それって私たち死んじゃうじゃない!!」
「何を言っている? 殺しに来る者がいるのなら返り討ちにしてしまえばいい」
かぐやは呆れたような表情をこちらに向けた。
「はぁ。……なんでこうなるのかしら……」
鈴花が大通りの方に指をさしながら、淡々と言う。
「あそこに何かがいる」
俺には視えなかった嫌な気配が鈴花の目には映っているのだろう。
「行ってみるか」
俺達は人混みをかき分けながら、大通りの方へと向かっていく。近づけば近づくほど嫌な気配が増していく。
そして、突如として霧の中に包まれた。周囲を見渡せば、誰もいなかった。どうやらはぐれてしまったらしい。
霧の奥から愉快な音楽が聞こえる。耳を澄ませば、不吉な音にも聞こえるし、心地の良い音にも聞こえる。不思議な気分にさせられる。
気が付けば俺の足元に一つの手紙が落ちていた。
トリックオアトリート
その一言だけが書かれていた。
俺は『思念伝達』を使い、他の者と連絡を取ろうとしたが何も起こらなかった。この空間は完全に別次元になっているようだ。
「無駄だ。貴様にここはぬけられん」
低い声が霧の中に響いた。放つ言葉にはそれ相応の気迫があり、只者ではなかった。
しかし、俺も舐められたものだな。
俺は魔法陣を構築し、魔力を流す。そして『魔花畑』を発動させる。この霧を花畑で上書きをしようとしたが、上書きするどころか、干渉すら出来なかった。どうやらこの霧は魔法ではない力のようだ。
「お前は誰だ? なぜ、俺を狙う?」
俺がそう言えば、霧の中から返事が返ってくる。
「貴様に話す必要はない。我の目的は貴様ではない」
俺以外のだれかが標的ということか。そうなれば、別次元に隔離しただけで攻撃をしてこないのにも納得だ。
「誰が狙いだ」
「貴様に話す必要はない」
簡単に話してはくれなさそうだな。なかなに用意が周到な奴だ。
「お前がネクロスか?」
「そうだ。我こそが吸血鬼の王、ネクロス・シルヴァーレインだ」
ということはこの霧は吸血鬼の独自の能力というわけか。前の世界でもおとぎ話程度でしか聞いたことが無かったのだが、まさか本当にいるとはな。
「お前は転生者か?」
「そうだ」
「最近、起こっている原因不明の死亡事故はお前ら吸血鬼の仕業か?」
「答える義理はない」
「ならば質問を変える。お前はなぜルール違反をした?」
「何のことか?」
「俺はお前を殺せと物語の神に言われている。そのときにお前はルール違反をしたと聞いている」
少し間が空き、霧の向こうから声が聞こえる。
「そこまで知っていたか。あの死亡事故は俺が独断でやったものだ」
腑に落ちぬな。どうしてそんな愚かなことをすのか。何か裏があるように見えてならぬな。
「何故殺したのだ?」
「人間が憎いからだ」
とてもそうには思えないな。人間が憎いのならもっと殺しているはずだ。それに人間が憎いようには聞こえぬな。
「そうか。それで俺の配下を狙うのはなぜだ?」
「それを貴様に教えるはずもない」
やはりどうしてもそれだけは言えないのだな。ここから早く抜け出さねばロクな事にならなさそうだ。
昨日、一章が終わるのは後4話と書いてあったと思いますが、正しくは今回のも含めて残り8話です。
(これを投稿しているときには修正されてると思うけど…)
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