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01 魔王の転生

 目を開けるとそこには見知らぬ者が集まっていた。

 場所は雲の上だ。ふわふわとした雲が周囲を覆い、まるで浮遊する島にいるかのようだ。


 ここは、どこだ? 長年、生きてきたがこんなことは今までなかったな。

 あの魔法が失敗したとも思えないな。


「初めまして、旧きものよ。私は物語の神。君たちには今からゲームをして貰う。ゲームで最後まで生き残れば、望むものを一つやろう」


 いかにも胡散臭い話し方だな。

 それにその姿はない。いや、いないのではなく、()()()()()()()()()だけなのだろう。


「ゲームの内容はサバイバル。今から君たちには現実世界に転生をしてもらう。そこで君たちは殺しあいをし、一人殺せば、一ポイントゲット、殺されれば、ゲームオーバー。終了時にポイントが零だった者もゲームオーバーだ。期間はゲームスタートから一年。他の者と協力し合うのもいいぞ。それでは、頑張りたまえ」


 中々に面白そうなゲームだ。殺し合うところにはうんざりだが、まあ悪くないだろう。

 ゲームオーバーしたときにどうなるかは気になるが……。やるからには全力でやるのが礼儀というものだろう。


「……そういえば、そう」


 物語の神は何か思い出したように言う。


「期間外での殺し合いは違反判定となってゲームオーバーだ。ゲームオーバーになった後、どうなるかはお楽しみだ!!! それではいってらっしゃい」


 その言葉とともに辺り一面がいきなり暗くなり、何も見えない状態になった。

 そして意識も段々と保てなくなっていく——



 ***



 目を開ければ、辺りは真っ暗だった。


 ここは一体どこだ?

 本当に転生させられたのか?


「誰だい? 君は」


 後ろの方から優しく包まれるような声が聞こえたが、先程の胡散臭い神では無さそうだ。

 後ろを振り返るとそこには茶髪で不思議に感じさせる黒い瞳の青年が立っていた。


「俺の名はノエル・シルファー。魔族の英雄、魔王だ!」


「……」


 滑ってしまった。

 いや、そもそも笑いを取るつもりもなかったが、反応が無いのは流石に落ち込む。


「お前は誰だ?」


「僕の名前は藤條(とうじょう) 悠太(ゆうた)


「なるほど。では、ここがどこか分かるか?」


「僕にも分からない」


 体の持ち主がこいつなのなら今は死にかけだということだろう。


「なるほど。お前は死ぬ寸前だったというわけか?」


「そうだね。僕は生まれつき病気にかかっていて、寿命も長くなかったから」


 やはりか……。

 辛うじて生きながらえているが、死んでしまうのも時間の問題だ。

 俺はその言葉を聞き、目を凝らして悠太をよく見た。


「そうか。では、多分ここはお前の心の中だな」


「僕の心の中……?」


「そうだ。お前はまだ完全には死んではいない。死にかけていることには代わりはないが」


 俺は片手を前に出し、蘇生することが出来る魔法『死者蘇生(ヴァルケイン)』を使った。

 当分の間は生きながらえることができる。

 死んでしまっては、この世界では生きて行けそうにもないからな。


「今、お前を生き返らせた。死んでは困るからな」


「……」


 藤條は固まっていた。


 多分、何を言っているのか訳が分からないのだろう。

 それもそうか、この世界では魔法という概念すらなさそうなのだからな。


「説明には時間がかかるから、端的に言うと、よくわからん神にここに転生させられて、よくわからん事になっている別世界から来た魔王だ。取り敢えず、これからよろしくな」


「……よく分からないけどよろしく、でいいのかな?」


「よろしくな。……ところで、お前は驚かないのだな。この姿を見て」


 前の世界ならば俺の膨大な魔力に恐れていたのだが、普通に話せるとはなかなか面白い人間だ。


「どんなに怖そうな雰囲気がしても、その人の本性には影響しない。君の本性には歪みの一つもない。だから、驚くことはない」


 藤條の瞳が一瞬、鮮やかな青色のように見えた。


「面白い。まさか人間にもその目を持ったものがいたとは」


 俺はそう言うと胡散臭い神の声が聞こえた。

 先程の物語の神だ。


「今から、ゲーム開始までウォーミングアップをしてもらう。今後、君たちの周りには私の仕込んだ罠がたくさん張ってある。それらをゲーム開始まで回避してもらう。くれぐれも死なないよう――」


 俺は胡散臭い神が言い終える前に炎の玉を出す魔法『火炎砲(フレイム)』で攻撃した。


「熱っ! 貴様! なんてことをするんだ! 私は神なのだぞ!!」


「安心しろ。火傷しない程度で撃った」


「そういう問題ではないっ! 大体、なぜ私の位置が分かる?」


 別に位置を特定するのは視覚的情報だけではない。

 正直に喋ってもいいが、面白味がないのでここは一つ嘘をつくとするか。


「魔王の勘、というものだ」


「本当なのかどうかは怪しいところだが、まあいいだろう。今度はやるなよ!」


 物語の神はそう告げてこの空間を去っていった。


 しかし、あの神はどこにでも現れるな。

 いったい、どういう原理で出てくるのだろうか?


「……だそうだ。どうする?」


 悠太は考える素振りを見せて、何か思いついたように言った。


「君に任せるよ、全部。この体は君が自由に使って」


 俺は驚きを隠せなかった。

 何か裏があるのではないかというほどの答えが返って来たが、この青年に限ってはそれが本心なのだろう。

 どこまで信用されているのかは分からんが、少なくとも敵意はなさそうだし、大丈夫だろう。


「いいのか?」


「大丈夫。本当は僕、今頃は死んでたはずだし」


 生き返らせたのは俺が困るからなのだが……。


「そういうものか……」


 自分の体を他人に明け渡すとは理解しがたい。

 だが、面白い。

 この世界の人間は俺に何を見せてくれるのか楽しみだ。


 そして、俺は目を瞑った。



 ***



「悠太! 悠太!」


 意識が薄れている俺に先程出会った青年の名を呼んでいた。

 俺は段々と意識を取り戻し、声のした方を向いた。

 そこには一人の女性が立っていた。


(こいつは誰だ?)


(僕の母さんだよ)


(では、お前の母さんといるときはお前が対応しろ)


 親ともう話せなくなるのは流石に可哀想だろう。

 俺も振る舞いに困るものだしな。


(……分かった。そうしてもらうよ)


 俺は悠太に体の主導権を握らせた。


「……ゆ、悠太!良かった。もう駄目かと思ったよ。体の調子はどう?」


 悠太の母さんは悠太を抱きしめ、涙を流しながら言った。


「僕も母さんとまた会えて良かった」


 この世界はどうやら前の世界よりも平和なようだ。

 俺が居た世界でもこんなに平和だったのならどれだけ良かったものか。

 もしかすると両親に会えたかもしれないな。


「悠太、私がいるから大丈夫だよ。何かあったら、すぐに言ってね」


 悠太の母さんは微笑みながら言った。その笑顔を見ていると、俺の心の奥に何か温かいものが広がっていく。母親の愛情はどんな時でも心を安らげるものだ。


(悠太、母さんに会えてよかったな)


(うん。ずっと会いたかったから)


 しばらくの間、悠太は母親との再会を楽しんでいた。その後、少し落ち着いた様子で母親に訊ねる。


「母さん、僕はどうしてここにいるの?」


 母さんは一瞬驚いたような顔をした後、ゆっくりと答えた。


「あなたは病気で入院していたの。でも、今は元気そうに見えるわ。きっと奇跡が起きたのね」


 悠太の目が光る。彼は自分の運命が変わったことを理解したようだ。


(君の母親がそう思うのも無理はないな。だが、現実はもっと厳しいものだ)


(どういうこと?)


(ゲームが始まるまでに、俺たちは準備を整えなければならない。神が仕掛けた罠や敵が待ち受けているからな)


 悠太は少し考え込み、母親に向き直った。


「母さん、少し外に行ってもいい?」


「外? 大丈夫なの?」


「うん、少しだけね。すぐ戻るから」


 母さんは少し心配そうだったが、悠太の強い意志を感じ取ったのか、頷いた。


「分かったわ。でも、気を付けてね」


 外に出た悠太は、周りを見渡す。小さな町が広がり、青空の下、子供たちが遊んでいる姿が目に入った。何か懐かしい気持ちが胸に湧き上がる。


(こんな場所、なんだか久しぶりだ)


(ここが君の故郷なのか?)


(うん、ここでずっと育ってきた。病気になる前は、友達と一緒に遊んでたんだ)


 悠太は心に残る思い出を語りながら、少しずつ自信を取り戻していく。しかし、ふとした瞬間、彼の表情は曇る。


(どうした?)


(ゲームのこと、忘れちゃいけない。僕がここにいるのは、ただの奇跡じゃない。生き残るために戦わなきゃいけないんだ)


(その通りだ。まずは、状況を把握し、戦略を立てよう)


 悠太は一度深呼吸をして、街の様子を観察し始めた。彼は心の中で自分の気持ちを整理した。

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