13 三つ目の試練
廃棄工場の中に入ると元は倉庫だったのか、広々とした空間になっていた。
更に奥に進むと、一つの扉があった。
鈴花はそこで立ち止まり俺の方に振り返った。
「……この先にいる」
「お前は行かないのか?」
「……ん。私が行くと足手まといになる」
淡々と彼女は答えた。
合理的な判断だが、俺が助けに行っても、妹は怖がるではないか、という疑問を抱きつつ、扉を開ける。
「お前はここで待っているということでいいんだな?」
「……ん」
「では、行ってくる」
「……気をつけて」
俺は扉の向こう側に行き、扉を閉めて、一本道を進む。
今のところ俺の魔眼には人らしきものは映っていない。
⦅かぐや、イザベル、少しいいか?⦆
俺は『思念伝達』を使い、かぐやとイザベルに連絡を取った。
⦅どうしたんだ?⦆
⦅うぅ……まだこの魔法を使うと頭が痛いわ……⦆
かぐやとイザベルから返事が返ってくる。
かぐやの方はまだ慣れていないが、やり取り自体にはあまり支障がないので大丈夫だろう。
⦅少し面倒な事になったかもしれぬ。場所を送ってやる。来れるなら来て欲しい⦆
⦅分かったぜ⦆
⦅分かったわ⦆
俺は『送憶』で二人に詳細と場所を送る。
⦅ところで、何で呼び方変えるの?⦆
⦅かぐやと言われるのは嫌か?⦆
⦅……別に……嫌って、わけじゃ……⦆
⦅別に俺をノエルと呼んでもいいぞ。ただ、人前では呼ぶなよ⦆
⦅そ、そうい事じゃないわ! ……でも、せっかくだから、そう呼ばせてもらうわ……ノエル⦆
⦅くくく。人の名前を呼ぶのは恥ずかしいことではないぞ⦆
⦅……べ、別にそんなことないわ⦆
⦅そうか⦆
⦅俺がいること忘れてないか?⦆
待ちくたびれたのか、イザベルが一言入れてきた。
⦅ははは。そんなわけないだろう⦆
⦅そ、そうよ!⦆
⦅まあ、また何かあったら連絡する⦆
俺は『思念伝達』を切り、再び、細い一本道を歩いていく。
曲がり角になった所で俺は止まった。
曲がった先に見えるのは外に出るための扉だ。
この工場は少し、作りがおかしいな。倉庫と出口を繋ぐのにこんな通路を作る必要はあったのか?
何か、あるかもしれんな。
俺は魔眼で壁をよく見る。すると薄っすらと空間らしき所が見え、ぼんやりと人影が見える。
これほど近くまで行かなければ見えないということは、転生者が絡んでるのかもしれんな。
鈴花も転生者なのかもしれん。
俺は壁を殴り、その部屋に行こうとしたが、壁はびくともしなかった。
なかなか頑丈だな、と思いつつ今度は魔法陣を浮かべる。魔法陣に魔力が注がれ、『物質変形』が発動する。
壁がゴゴゴ、と音を立てながら、変形し、人ひとり分入れるくらいの穴が出来た。
俺はその穴の中に入り、広々とした空間に入る。
俺はそこに立っていた人物を見て、腹を堪えて笑う。
「はははは。なるほど、そういうことだったか。久しぶりだな、死神。お前が主犯だとはな」
「どうかねぇ。私はただこの空間を神域に変えて欲しいと頼まれただけだねぇ」
前は姿、形が見えなかったが、今回ははっきり見える。
黒いワンピースに黒い帽子、背は俺とあまり変わらず、不気味なオーラを出している。
「ふむ。お前でなければ、物語の神と言ったところか?」
「正解だ」
物語の神の声がこの神域に響き渡る。
「これは三つ目の試練。この試練は君達三人で挑んでもらう。この神域内に一人の子供がいる」
三人ということは俺とかぐやとイザベルの三人ということか。
「その子供を探せと?」
「違う」
物語の神が真っ向から否定した。
その言葉に続けて言った。
「その子供は死神人形だ。そいつを明日までに倒せば合格だ」
倒すだけならば、問題はないが、この神域で探すのは苦労しそうだな。
「死神、お前は俺の邪魔をするのか?」
「どうかねぇ。それは答えられない質問だよぉ。ちなみに私の神域はこの廃棄工場全体だねぇ」
まあ、邪魔をされたとしても問題はないが、鈴花は俺をここに連れてくるための役割だったという訳か。
俺はかぐやとイザベルに『思念伝達』を飛ばす。
⦅かぐや、イザベル。三つ目の試練が始まった。内容は廃棄工場内の死神人形を探し、倒すことだ。おそらくその死神人形は強いかもしれぬ⦆
⦅分かったぜ⦆
⦅分かったわ⦆
⦅もしかすると、死神が邪魔をしてくるかもしれん。その時は俺に連絡して、逃げろ。今のお前たちでは敵わぬ⦆
⦅おう⦆
⦅分かったわ⦆
俺はゆっくりと元来た道を戻っていった。
今のところ襲う気配はない。案外、本当に神域を展開するために来たのかもしれぬ。
倉庫に繋がる扉を開けるとそこには鈴花が待っていた。
「妹はいないようだな」
「……ごめんなさい」
彼女は頭を下げ、謝った。
「気にすることはない。それより、お前も転生者か?」
鈴花は首を縦に振った。
「……けど、記憶はない」
転生に失敗し、記憶が消えたか。まあ、無い話ではないな。
「お前の試練は俺をここに連れてくることか?」
「……ん」
それで嘘を吐いたという訳か。
「ついてくるか?」
鈴花は首を横に振った。
「……足手纏いになる。私はここで待つ」
「遠慮することはないぞ。何かあったら俺が何とかしてやる」
「いいの?」
「ああ」
「……じゃあ、ついて行く」
俺が前を歩くと、鈴花はついてきた。
これから死神人形を探すと言っても、どんなものか分からぬ以上、探しようがないな。取り敢えず、この工場を出てみるか。
「死神人形の場所は聞いてたりしてるか?」
鈴花は首を傾げた。
どうやら死神人形のことは知らぬらしいな。まずは、死神に聞くのが得策か?
俺は死神のいた場所まで戻っていた。すると、そこには死神がぽつんと座っていた。
「何用かねぇ?」
「死神人形で教えてもらえることはないか、と思ってな」
「これを見ることだねぇ」
死神はそう言って、一つの封筒を渡してきた。
俺はその封筒を受け取り、中身をみると、そこにはこう書いてあった。
冷たい壁に囲まれた場所、
昔の音がまだ響く、
鉄の心臓が眠る場所、
影に隠れた微笑みを見つけて。
月に照らされ、悪魔が落ちる。
「暗号か。これを手掛かりに探せということか……」
「それはどうだろうねぇ」
そんな場所はどこにもない気がするがな。まあ、時間はまだあることだ、ゆっくり考えるとするか。
「鈴花。これはどこを指しているか分かるか?」
俺がそう質問すると、鈴花は考え始める。
「……機械の中?」
「確かにそうかもな」
だが、そうなると探す範囲はたくさんあるな。一つずつ調べていくしかないのか? そう考えると他の答えがあるかもしれん。
「機械と言ってもたくさんある。他に何か思いつかないか?」
鈴花は首を横に振り、淡々と言った。
「……分からない」
俺達は取り敢えず、倉庫まで戻っていった。
扉を開けようとして時、足元に一つの紙が置いてあることに気が付いた。
引けば戻る。
押せば進む。
意味が分からぬな。
「……扉を押すと倉庫じゃ無くなる?」
「確かにそうかもな」
普通に扉を押しても開かぬ。かといって、扉を引いて開ければ進展がない。つまり、とる行動は一つ。
俺は扉を限界まで開けた。
「……何をしてるの?」
「この暗号に書いてあることだ」
鈴花は首を傾げ、不思議そうに見つめた。
俺はそれに気にせず、扉を力強く推した。すると、少しずつ、少しずつ扉が動くようになり、やがて、通路が現れた。
カラクリは簡単だ。扉を引けば、現れるはずの通路が現れず、扉を推せばその通路が現れる。こちら側からは引くことしかできず、向こう側からは推すことしか出来ぬ。つまり、通路が現れても見ることは出来ない。
「……すごい」
「簡単なからくりだ。押せば通路が出来るのだから、扉は180度動くということだ」
「……どういうこと?」
「終わったら、じっくり教えてやる。先を行くぞ」
俺と鈴花は現れた通路を進んで行った。
かぐやとイザベルから『思念伝達』が届く。
⦅着いたぜ⦆
⦅着いたわよ⦆
⦅二人は一緒か?⦆
⦅ええ⦆
⦅少し待っていてくれ。今、謎解きで忙しくてな⦆
⦅分かったわ⦆
いつも読んでいただきありがとうございます。
魔王は強いだけでなく、頭も冴える……(羨ましい……)
皆さんもぜひ謎解きに挑戦してみてください。
答えが分かった人は良ければ感想蘭に↓