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11 文化祭準備

 次の日の朝――


「……おはよう」


 学校の門の前で挨拶をしてきたのはかぐやだった。


「おはよう。随分としおらしくなったな」


「何か問題でも! 別にいいでしょ。私の勝手なんだから」


 かぐやは少し怒った表情で言ってきた。

 少し怒ってはいるものの、前みたいに鋭い視線を向けることはなくなった。


「ははは。確かにな。お前らしくていいな」


 少し不服そうにこちらを向いてくる。

 昨日は大変な事が起きたが、いつも通りの生活を送れて、一安心だ。

 悠太がいないことには寂しいが、どうにも今の俺ではあいつを助けることは出来ない。

 だが、やはり平和とはいいものだな。


「おはよう!」


 俺達が立ち話をしていると後ろの方から元気そうな声でイザベルが挨拶をしてきた。


「おはよう。お前は朝から元気だな」


「まあな。お前らは珍しいな。密会でもしてたか?」


 イザベルがそう口にするとかぐやは少し顔を真っ赤にして俺とは反対方向を向く。

 恥ずかしがることは何もないだろうに。


「いやいや、ただ、挨拶をしていただけさ」


 俺がそう言うと、かぐやは慌てたように口走った。


「そ、そうよ。ただ、挨拶してただけだわ」


 何をそんなに慌てているのか、俺にはわからんな。

 俺ももう少し平和な世界を学ばなければな。


「もう、行きましょう」


 俺達は校門を通過し、教室まで行って、席に着いた。


「なんで、あいついるのよ?」


 かぐやは光希の姿を見て不思議そうにしていた。

 昨日の夜中にこっそり、解放してやったのだ。そのままにしてもいいが、後々面倒なことになるのは御免だ。

 不思議に思うのも無理もない。


「昨日の夜、解放してやったのだ。ゲームと前の世界の記憶は消してあるから、安心しろ。まあ、思い出したら、また地獄を味わうことにはなるが」


 かぐやはドン引いた感じでこちらを向いてきた。


「……最後のは余計だと思うわ」


「そうか。なら、戻さぬ方が良かったか?」


 呆れた表情で言ってきた。


「やっぱり鬼畜外道だわ」


「ははは。ただの冗談だ」


 流石に鬼畜外道にはなりたくないな。

 発言には気をつけなければ。


「発言には気をつけた方がいいわよ。あなたが言うと冗談に聞こえないわ。皆、怖がるわよ」


 くぅ。今、俺が反省しようと思ったことを言われるとは。

 ここは一つ仕掛けるか。


「お前は怖がっていないだろう」


 俺がそう言うと、かぐやは顔を真っ赤にして、俺から視線を外した。


「……それは命の恩人だからよ」


 反撃成功だ。少しずつ、どういう時に恥ずかしがるのか分かって来たぞ。


「人間に命の恩人を言われるとは、これで二回目だな」


 かぐやは首を傾げた。

 一回目は誰なのかと聞きたいのだろう。


「一回目はこの体の宿主だ」


 かぐやは更に首を傾げた。

 今度は何に疑問を抱いているのかは分からなかった。


「あなたの体じゃないの?」


 確かにそう言われてみれば不思議なものだ。

 普通、転生する時は赤子に転生するはずなのだ。

 それが、俺のときは途中で割り込むように転生したのだ。

 出来なくはないが、それをするのは難しい。

 わざわざする必要性がないのだ。


「そうだな。俺もよく分かっていない。ただこの宿主は病気で死にかけだったのでな。蘇生をさせてみたのだが、どうやら上手くいかなくてな。二か月程度しかもたなかった」


「ふーん。不思議な事もあるもんだね」


 かぐやは俺の納得し、相槌を打った。

 まあ、今後、知ることになるだろう。



 ***


 

 六時間目が始まるチャイムが鳴ると一人の教師が入って来た。

 このクラスの担任、片山理江だ。


「じゃあ今日は一か月後の文化祭に向けて準備をするよ。文化祭委員を中心に決めてね」


 先生がそういうと文化祭委員が前に出てくる。


「よし、それじゃあ、まずは出し物を決めるので何がいいか近くの人と決めてください」


 教壇の前に立ったのは文化祭委員の女子生徒二人だ。

 その内の一人が指示を出した。


 当然、今の俺には近くに喋る人がかぐやしかいないのでかぐやに話しかける。


「何かいい案はないか?」


「少しくらい自分で考えなさいよ。あなたのことだから委員会の時のように意見を出すと思ったけど……」


「あの時とは訳が違ってな。あの意見は俺のものではなく、この体の宿主のものだ。こういうものに積極的に参加してみたいが、俺が意見を出すとしらけるかもしれん」


 俺の発言に呆れたのか、ため息をついて、かぐやは言った。


「そういうことね。確かに想像がつくわ。一応、意見を出してみて」


「ふむ。ならば、迷宮を創るのはどうだ? 楽しそうとは思わないか?」


「はぁ。本気で言ってる?」


 何がいけないのだ?

 前の世界では人間にも人気のあった場所なんだがな。


「大体、どうやって創るつもりよ。この世界は魔法がないのよ。魔法なんて使ったら大問題だわ」


 そう言われてみればそうだな。

 この世界には魔法をいう概念が存在しない。

 ちぃ。やっぱ駄目だったか。


「そうだな。ならば、クレープとやらを売るのはどうだ?」


 これならば、何も問題はないはずだ。

 そう思ったのだが、かぐやが固まってしまった。

 何がいけなかったのだろうか?


「何か問題でもあったか?」


「い、いや、何もないわ。ただ魔王が甘いものが好きだなんて意外だなと思って……」


 そこまで珍しくないと思うが。

 魔王だからと言って甘いものが嫌いだというわけではないだろうに。


「駄目だったか」


「いや、ただ、あんな鬼畜外道なところを見た後だから、想像がつかなくて……」


 なっ!? 鬼畜外道と見られると、甘いものを食べているのが変なのか。

 これは、早急に認識を変えさせなければ。


「まあいい。それで俺の案はどうだ?」


「……いいと思う。ただ……」


「ただ?」


「あなたが言うとクラスの雰囲気がしらけるわ」


 結局しらけるのかい。俺には向いていないのではないか?

 どうすれば、いいのだ?

 やはり喋り方を変えた方がいいのか。

 しかし、それではイザベルやかぐやになんで喋り方を変えたのと、問い詰めてくるかもしれない。

 まだまだこの世界になれるには時間が掛かりそうだ。


「じゃあ、話し合いはそこまでにして、意見がある人は言ってください」


 再び、教壇の前に立っている女子生徒が言った。

 すると一人の生徒が手を挙げて発言した。


「お化け屋敷がいいと思いますー」


 黒板にお化け屋敷と書かれる。

 その他にも、迷路、謎解き、喫茶店、縁日といった風に次々と意見が出てきて、黒板の半分が埋まった。

 俺は初めての文化祭なので何一つ分からないまま、どんどん進んでいく。


 多数決の結果、お化け屋敷をすることが決まった。

 お化け屋敷と言えば、人を怖がすものだったはずだ。

 それの何が面白いのかは分からないが、やるとなれば本気でやるしかあるまい。


「意見出さなくても良かったの?」


 かぐやがにやにやしながら、こちらに言ってきた。

 これは、完全に揶揄ているな。


「俺が言ったらしらけるからな。そういうお前は意見を出していないようだが?」


 すると、かぐやは少し焦ってように答える。


「べ、別に私はやりたいものがあるわけじゃないし」


「本当にそうか?」


 俺がじーっと見つめるとかぐやはこちらから視線を外した。

 図星だな。


「そういえば、いつの日のことか、お前は友達がいると言っていたが、本当なのか?」


 俺は更に揶揄うようにかぐやに言う。


「い、いるわよ」


 俺はかぐやとの距離を縮め、耳元でダメ押しの一言を添える。


「名前を言ってみろ」


 かぐやは顔を真っ赤にして、恥ずかしそうに言った。


「……あなただけだわ……」


 この勝負は俺の勝ちだな。

 ……ということは、昨日よりも前から友達だったというわけか。

 あの時の態度はとても友達とは呼べなかったがな。


「そうか。ならば俺の勝ちだな」


「何がよ!」


「俺はお前を含めて三人、お前は俺を含めて一人、俺の方が友達が多いという訳だ」


 かぐやは不服そうに言った。


「大して変わらないじゃない」

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