10 圧倒的な実力
「殺して、やる」
左の方から憎たらしい声が聞こえた。
先程、俺の威嚇に気絶した光希だ。
振り向くと、そこにはゾンビのように立っている。
俺に怯えていたのにも関わらず、戦おうというのか。
「『犠牲大軍』」
巨大な魔法陣が浮かび上り、そこから大量のゾンビが現れる。
自身の死、そして来世への転生の可能性を無くす自爆魔法か。
それにより、膨大な魔力が宿り、無尽蔵にゾンビを生み出す。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
彼はそう叫びながら、ゾンビを次々と召喚し、こちらに向かわせる。
この魔法の効果が切れたとき、あいつは死ぬことになる。
「『時間逆行』」
俺は魔法陣の上に魔法陣を重ね、光希の構築した魔法陣を壊す。
正確に言えば、構築前の時間に戻す。
「……無駄だ。『犠牲大軍』」
再び、魔法陣を構築させ、魔法を発動させる。
そして、そこから再びゾンビを召喚する。
「『時間逆行』」
俺は先程と動揺に魔法陣を浮かべ、時間をまき戻す。
「無駄、無駄、無駄だ。『犠牲大軍』」
無駄なのはそっちの方だがな。
やはり頭が悪いのか?
「『時間逆行』」
浮かび上がった魔法陣が消えていく。
どんなに『犠牲大軍』を出そうと魔力が尽きるのはあちらの方だ。
ほかにまだ狙いがあるというのか?
「憎い、憎い、憎い、憎い、憎い憎い!!!!」
そう叫びながら、俺の元へとふらつきながら歩いてくる。
そして俺の手を掴む。
「『道連』」
そう叫んで魔法陣が発動し、魔法が行使される。
俺と光希の周りは光で包まれ、消えていく。
そしてその光と共に消えていく、はずだった。
「何!? なぜだ! 『道連』はどんな魔法も効かない。どんなに強い奴だろうと死ぬはずだ」
俺は空いている手で光希の腕を掴む。
確かにどんな魔法もはねのける。
「ただ一つを除いてはな」
「ありえん……」
「『反魔法』の魔法は同じ魔法陣を描き、そこに通常とは違う逆向きに魔力を流し込むことにより発動する魔法を掻き消す魔法だ」
「『道連』の魔法は魔法陣が定型ではないはず……」
「そうだ。だから、お前の魔法陣を見たのだ」
「……そんなことは不可能だ。無理だ」
「不可能を可能にするのが魔王だ。俺にこれしきのことが出来なければ、到底、魔族をまもれぬ」
光希は絶句した。
最後の切り札がいとも簡単に破られたのだから無理もないだろう。
「『道連』!!!!!!」
「『反魔法』」
光希が魔法を発動させようとした瞬間、俺はそれを打ち消した。
苦し紛れの魔法も失敗し、魔力が殆ど残っていないだろう。
魔法を発動する気も無くなっていた。
「……もう、殺して、くれ……」
ついには命乞いまでし始めた。
命乞いをするのなら、最初からやらなければよっかただろうに。
「断る」
俺のその一言で光希の目が完全に死んだ。
人の心の弱さを嘲笑うくせに自分自身の心がよわいとは、情けない。
「俺がお前のしたことを許すとでも思ったか? 人の心の弱さをつついた分際でよく言ったものだ」
俺は睨むように光希を見つめた。
「確か、お前は殺したいと言っていたな」
俺は拳を奴の腹に入れ、殺した。
全力で殴っていないのにも関わらず本当に死んでしまうとは。
「『死者蘇生』」
俺は光希を生き返らせた。
「望み通り、殺してやったぞ」
光希は恐怖に怯え、意識が正常とは言えないほどにまで狂い、叫んだ。
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
流石にここからは見せられないな。
俺は『幻想空間』で俺が作った幻想の空間に移動した。
周りは薄暗く、俺と光希を避けるように森に囲まれている。
「一度、殺したくらいで、そう喚くな。赤子でもそこまで喚かんぞ」
「……すみ、ません……………………もう、やりません……ゆる、し…………て、くだ……さい……」
「そうだな。あと十回ほど殺したら考えてやってもいい」
俺は一発、腹に拳を入れ、殺す。
そして、『死者蘇生』にて蘇生させる。
それを十度程、繰り返した。
「……ゆる、して……」
反省の意が全く感じられない、命乞いだった。
「お前がかぐやに与えた痛みはこんなもんではないだろう。お前には地獄を見せてやろう」
「許すと言ったじゃないか!!」
「ほぉ。まだ、叫ぶ気力はあるらしいな。俺は考えてやるとしか言っていないが、お前の耳は都合のいいように聞こえるのだな」
俺は光希の頭を鷲掴みにする。
「お前に選択肢をくれてやろう。あと千回程死ぬか、毎日俺に殺される夢を見るか、ぼろぼろのお前をお前の主人に突き出すか」
光希は首を横に振る。
「選べ! それとも全部欲しいか?」
首を横に振り続ける。
「そうか。お前にはもっと地獄のような罰が必要らしいな」
俺は光希を地面に投げ捨て、胸を貫き心臓を潰す。
そこに魔法陣を描き、魔力を流し込む。
「『死感』」
「ぎゃああああ――」
「『口無』」
「——―――――」
光希は絶望したような顔をしながら暴れまわった。
「お前は心臓を動かす度に死の感覚を味わう。そしてお前はもう喋ることが出来ない」
俺は一歩近づく。
「精々、残りの余生をここで過ごすことだな。さらばだ、名もなき愚者よ」
俺は元の所へと転移した。
すると後ろの方からイザベルとかぐやが近づいてきた。
「光希はどうしたのよ?」
「地獄に送ってやったさ」
かぐやはドン引きしたような顔をこちらに向けてきた。
まあ、少しやり過ぎたとは思っているが、あれぐらいやらなければ反省しないだろう。
「ははは。地獄と言っても処罰は軽い方だ」
更にドン引いたような顔をこちらに向けてきた。
「そうだぞ。歴史書には魔王を怒らせたものは寿命が尽きるまで死んだ感覚を味わせ、来世には寝ればその夢が出てくるという刑が一般的と書いてあったぞ」
また一段とドン引いた顔を向けてきた。
「鬼畜外道わね」
「いやいや、その刑罰は誰も受けていないぞ。そんな愚か者はいなかったからな。あいつが初めて俺の刑の前半を味わったのだ」
「それでも鬼畜外道だわ」
うっ。鬼畜外道と言われるのは流石に心が折れる。
もう少し優しめにした方が良かったか。
「俺はああいう愚か者が許せない性分でな」
「……その、ありがとう。私を助けてくれて」
かぐやが少し顔を赤くしながら言ってきた。
かぐやは俺に一歩近づいた。
そして、俺の胸に寄り掛かった。
「……怖かった。もう無理だと思った……」
確かに千年もあれば怖いものが無いはずがない。
それを今、正面から向き合っている。
こんなにも強く生きる人間は勇者以来だ。
「安心しろ。いつでも助けてやる。不可能を可能に変える、それが魔王だ」
「俺がいること忘れてないか?」
水を差すようにイザベルは言った。
「そんなわけないだろう」
かぐやは顔を真っ赤にして俺から離れた。
出会った日の態度からでは想像もつかぬ顔をしていた。
「さあ、帰るか」
「ん……」