プロローグ ~禁断の物語~
今日から新連載開始!!!
毎日投稿できるよう、頑張ります!
人類が誕生し、文字が出来たばかりの頃に一つの物語が出来た。
その物語は世界で最初の物語、著者不明で題名も不明。そのうえ、内容もほぼ不明。人々から忘れ去られた禁断の物語である。
その内容は国によって違い、また決まった物語性がなかった。
だが一つ、勇者が魔王と戦う、これだけが明らかだった。
***
人と魔族、神の交流があった神話の時代。
人の国を滅ぼし、神の侵攻を返り討ちにし、滅ぼした、魔族の英雄、史上最恐最悪の魔王。
——魔王ノエル・ルシファー
「遂にここに辿り着いたか、勇者ソラ。そして勇者一行」
場は魔王城最下部、玉座に座ったままノエルは言葉を発した。
並の者ならば、恐怖に怯え逃げ出してしまうだろうが、この場にいるのは人間の英雄達、勇者一行なのだ。逃げだすことはない。
人間の英雄であり、神々から祝福された聖剣に選ばれし勇者ソラ。
あらゆる魔法を使いこなす、人間界随一の大魔法使いリノ。
人類最強の騎士団、団長ルード。
そして、神からの使い、半神半人ソエル。
ノエルを含み、五人の名はこの世界の歴史を大きく左右させ、後に名を刻むであろう者たちが揃った。
「今日こそ、君を倒す、魔王ノエル。この世界の平和のためにも」
「……戦う前に少し話をしないか? 何も話さず戦うのはつまらないからな」
「今更何を話すんだ」
「大したことではない。今後のことについてだ」
「今後のこと? 今後のことを話してどうする?」
「……平和が欲しい」
その一言に勇者一行は固まった。
「……魔族が平和? 今更、平和が欲しいだと?」
「ああ、そうだ。魔族も平和は欲しいんだぞ」
「人の国を滅ぼし、人を殺し、神すらも殺した君が?」
「それはお互い様だ。貴様ら人間と神も魔物を殺し、魔族を殺し、魔の森を焼いた」
「それは……」
ソラは何も言うことが出来なかった。
人間と魔族、何故争いが始まったのかは誰にも分からない。
人間も魔族も復讐という大義名分で殺し合ってきた。
それは復讐の連鎖、どちらかが復讐をやめなければこの争いは終わらない。
「勇者ソラ、魔王ノエルを倒しなさい。それが神の決定。魔王ノエルの言葉に耳を貸してはいけない」
後ろの方からソエルが淡々と言った。
ノエルはソエルの言葉を無視して、言った。
「和睦をしないか? 人間と魔族、神が互いに殺し合わないようにする。相互不干渉というものだ」
「口約束では争いは収まらないと思うよ。どうやって実現させるつもりかな?」
「ああ。だから、人間界、魔界、神界を行き来出来ないようにする」
「どうやって?」
「人間界、魔界、神界をそれぞれ別次元に移す。貴様らの力と俺の力が合わされば、可能だ」
ソラは黙り込み、しばらくして、覚悟を決めたかのように言った。
「……分かった……君を信じてみるよ」
自分で言っときながら、ノエルは驚きを隠せなかった。
「勇者ソラ、魔王の言葉を聞いてはいけません。神の決定に基づき、魔王を討伐しなさい」
後ろの方から再度、ソエルが言った。
勇者ソラはその言葉を聞き、戸惑った。
神からの使いである、ソエルの言葉を無視すれば神を敵に回す。それでも心の底から平和も欲しいと思っている。
「勇者ソラ、これは最後の忠告です。魔王を討伐しなさい」
「…………できない。平和になれば争うこともなくなる。ソエル、ここは平和を取った方がいいと思うんだ」
微かに平和が欲しいという想いが上回った。
「神の決定に背いた反逆者ソラ。ただいま神からの信託が下りました。大魔法使いリノ、騎士団団長ルード、反逆者ソラと魔王ノエルを討伐してください」
神の決定に背いたことにより、ソラは神を敵に回した。
神を敵に回したことで聖剣の力が奪われ、輝きが失われた。
「ごめんなさい、ソラ」
リノは暗い声でソラに言った。
リノはソラに向けて手をかざし、魔法陣を構築していく。その魔法陣に白い光の粒が流れ込んでいく。
「すまんな、ソラ」
リノに続けルードが言った。
ルードは持っていた剣を鞘から抜き出した。
その剣を構え、剣に炎を纏わせた。
リノの魔法陣が完成し、そこから巨大な炎の玉が発射され、それと同時にルードはソラに向かって突っ込んでいく。
いくら勇者であろうと、聖剣の力が神のもとに返され、ただの剣となったその武器でこれらの攻撃を防ぐことはできない。
それを悟ったソラが諦めかけたそのとき、炎の玉がかき消され、ルードが後ろの方に思いっきり吹っ飛んでいった。
「誰の前だと思っている? ソエル。せっかくソラが俺と協力して平和を実現させようというのに何がいけないのだ?」
ソラを守ったのは魔王ノエルであった。
白髪のロングヘアが揺らめき、その赤い瞳はソエルを捉えている。
「私は神からの使い。私の言葉は神の決定」
「神の決定? ならば、神々に伝えるがいい、魔王の前で神の決定は無意味だということを」
場が静まり帰った。
圧倒的な魔力が故に喋るだけで精神が削れそうだ。
「神の信託が下りました。魔王の討伐は先送りします」
ソエルは淡々と口にして、リノとルードに転移魔法陣を浮かべた。
「逃がすと思うか?」
ノエルは転移魔法が発動する前に魔法陣を破壊した。それにも関わらず、ソエルだけは転移した。
ソエルの魔法陣は壊されたはずなのだ。
しかし魔法陣がなくとも魔法が使えるのだろう。
ソエルが転移したことによりこの場にはノエル、ソラ、リノ、ルードしかいない。
ルードは気を失っていて、この場に動けるのはノエル、ソラ、リノだけだ。
「さて、勇者ソラ。これからどうする?」
「僕はもう勇者じゃない。聖剣が無ければ、役にも立たないよ」
「何を言っている? 貴様ら三人の魔力と俺の魔力があれば十分だ。一番の問題だったのは、神からの使いであるソエルが邪魔をしてくるかもしれないということだ」
ノエルの言葉を聞いたソラは驚きの表情を隠せなかった。
それはリノもそうだった。
「……まさか……最初から、そのつもりで?」
「当たり前だ」
「やっぱり、君には敵わないよ」
「では、早速始めようか」
ノエルはゆっくりと玉座から立ち上がる。
ノエルは手をかざし、巨大な魔法陣を構築していく。
そこに黒い光の粒が流れ込んでいく。
「この魔法陣に魔力を流してくれ」
最初に大魔法使いリノが、続いて先程起きたばかりの騎士団団長ルードが魔法陣に手をかざし、白い光の粒がノエルの構築した魔法陣に流れ込んでいく。
「君はこれを使った後、どうなるのかな?」
「魔力が尽きるか、最悪、死ぬかもな。まあ、大丈夫だ。念のため転生の魔法は使ってある」
ノエルの言葉を聞いて安心したのか、魔法陣にゆっくりと手をかざす。
そこから魔力が魔法陣に流れ込んでいく。
「礼を言うぞ、勇者ソラ」
ソラは微笑んだ。
「魔王に礼を言われるとはね。あと、僕はもう勇者じゃないんだけどね」
「何を言う? お前は立派な勇者だ。ソエルの記憶を改竄したから、お前はこれまで通り勇者と称えられるだろう」
ソラは驚いた表情をした。
「そこまでやってるなんて、君って奴は……」
魔法陣に十分な魔力がたまり、魔法陣が光った。その光は白色にも見え黒色にも見える。
「魔法を発動する。さらばだ、勇者ソラ、そして勇者一行」
魔法が発動し、辺り一面が光に包まれた。
これでやっと平和が訪れる。
もうこんなうんざりする争いもなくなるだろう。
殺しに殺し、殺しを繰り返すことに彼は嫌気がさしていたのだ。
「今度は平和な世界で会おう」
ソラはそう言って僅かに笑った。
「ああ、そうだな」
魔王ノエルは光と化した。
そして、人間界、魔界、神界の三つの次元に別れた——