第六話 僕と雪 その四~しのびくる焦燥~
占いって気になるタイプです。
当たるも八卦、当たらぬも八卦、なんて言いますし、
今まで何度も外れてきたので心から信じはしませんが、
悪い結果だとやっぱりいい気分はしません。
みなさんはどうですか?
小日向さんちでは、占いは重んじられてはいません。
でも一応見ます。見るだけ、それだけです。
では、どうぞ。
高校では一度も雪と同じクラスにはならなかった。
けれど、それで僕たちの関係に波風が立つことはなかった。
僕は誰にも目移りしなかったし、雪はその容姿から性格から好きになる男子はいたようだが、僕とべったりなところを見て、みんな告白する前から諦めていた(ようだった)。
僕は性格上、友達を作るのがあまり得意ではないのだが、何人か友達もできた。
雪は性格上、すぐに友達ができた。
僕は雪に、雪は僕に友達を紹介し合って、輪が広がった。
中学からの友達も何人かいたし、お祖母ちゃんが死ぬとか、お祖父ちゃんがああなり始めるとか、そのほかいろいろ嫌なことがあったのはあったが、雪がいてくれたおかげで、トータルで計算して楽しい高校生活だった。
雪が僕の家、というかお父さんちで暮らすようになったのは、大学に進学してからだった。
公認の仲とはいえ、一応これも同棲になるわけだから、駄目かもしれないと思ったけど、僕と雪がそれぞれの家族に話してみたら、すんなりオーケーだった。
さばけた家族でよかった。
僕は雪を天真爛漫と評していて、それはたしかに当たっている(はずだ)が、ひと並みに話はするが、お喋りとか、口数の多いほうではなくて、けっこう多めに気を使う傾向があるのだ。
だからやっぱりうちに馴染んでいるように見えても、相応に気疲れしているみたいだった。
うちで暮らす最初の晩ご飯のあと、お父さんちでふたりきりになったとき、雪は
「緊張した」
と言っていた。
それは同棲初日というプレッシャーもあったのだろう。
だけどそれを意外と思った自分が、ちょっと無神経と言うか、思慮が足りないと思って、僕は反省したんだ。
僕も雪の家での食事は、最初でこそ緊張もしたけど、半年、つまり六回目を迎えるころにはだいぶ慣れたから、高校三年間で五十回以上うちの家族と食事をした実績があれば雪も大丈夫だろうと思っていた。
でも、やっぱりそう言うもんじゃなかったんだなあ、と僕は暮れていく冬の空を見上げた。
雪はいまごろなにをしているのだろうか?
とうにライブ会場に着いていて、限定のグッズももう買ってあって、待ち合わせの時間まであと三十分弱。
僕は階段に腰かけて、雪を待った。
ぞろぞろとひとの波が入場していく。
雪は昔から遅くても待ち合わせの十分前には来るひとだから、僕は立ち上がって雪を探した。
と、電話が鳴った。
雪からだった。
なんだ?
道に迷いでもしたのか?
「もしもし」
「もしもし、麟、ごめん。ライブ行けなくなった」
「え、どうして?」
「若菜が貧血で倒れたの」
若菜、その名前を聞いても、すぐには思い出せなかった。
「覚えてる? K大に行った、高校のときのわたしのクラスメート」
「ああ、ワカちゃんか」
「そう、久しぶりに会ったんだけど、貧血起こしちゃって」
「それじゃ大変だな」
「若菜、ひとり暮らしだし、ほっとけないし」
「ああ、うん、いいよ。わかった。具合よくなるまで看ててあげなよ」
「ごめんね」
「大丈夫。俺はライブ、満喫するから」
雪の重荷にならないように明るく言って電話を切ったけど、本当はがっかりしていた。
なにもこんなときに貧血起こさなくてもいいじゃないか。
急に風が冷たく感じられて、肩をすぼめていそいそとライブ会場に入った。
ライブは盛り上がった。
僕は楽しんだ。
ただ隣に雪がいたなら、もっと楽しかったはずだ。
帰りの満員電車に揺られながら、そんなことを思った。
最寄りの駅に着いたのが十時四十分過ぎ。
家まで歩きで十分くらいかかるから、門限には間に合う。
でも大事をとってタクシーで帰った。
金ならあるのだ。
運転手に行き先を告げて、シートにもたれかかった。
賑やかな大通りから閑静な住宅街に入るのに、五分とかからなかった。
料金を払って礼を言い、門からお祖父ちゃんちまで歩き、お父さんとお母さんに帰宅したことを告げた。
すると
「あれ? 雪ちゃんは一緒じゃなかったの?」、
と返ってきた。
僕は面食らった。
「友達が貧血起こしてほっとけないからって、ライブは俺ひとりで観たんだけど、連絡なかったの?」
「あら、そう。お母さんはなにも聞いてなかったわよ」
僕は、そうなんだと言って、おやすみを言ってお父さんちに行った。
よからぬことがよぎって、自然と早足になった。
まさかとは思ったけど、お姉ちゃんに訊いたら、やっぱり雪はまだ帰ってきてはいなかった。
自分の部屋に直行して、雪に電話をかけた。五回目のコールで出た。
「もしもし、麟。まだ若菜の部屋にいるんだけど、今日、ちょっと帰れそうにないの。悪いけどお義父さんたちに話しておいてもらえる?」
「それはいいけど……、ワカちゃん、そんなに悪いの?」
「うん。……ごめんね。明日の朝には帰るから」
そのごめんねには、心配かけてごめんねと、帰れなくてごめんね、のほかにもうひとつなにか意味があるような気がして、僕は一緒のいるのが本当にワカちゃんなのか、追究しようかと躊躇った。
そのうちに
「じゃあ、ごめんね」
と電話を切られてしまった。
雪にリダイヤルする代わりにワカちゃんのスマホにかけてみようかいう気になった。
番号は変わってはいないはずだから。
でも、もしも本当に雪がワカちゃんの看病をしているのなら、雪に知られることになる。
裏切りの現行犯だ。
それくらいの頭は回るのだが、胸騒ぎはひどくなる一方だ。
ごめん、雪。
ボタンの掛け違いが起こりました。
それもお互いを思うからこそなのですが、
はてさていったいどうなることやら。
では、また。




