第六話 僕と雪 その二~たとえ非難されようとも~
二十巻セットで二千円で買った漫画にはまっています。
アニメ化もされた名作です。
なぜいままで読まずにいたのか、と自分に呆れかえっています。
わたしの「あるある」なんですけどね。
本文とはなにも関係がないのも、小町あるあるですね。
では、どうぞ。
仕事を終えたお姉ちゃんが、姫たんをピアノ教室(と言っても個人レッスンだけど)まで迎えに行って一緒に帰ってきて、晩ご飯ができるまでの時間に宿題を始めた。
お祖父ちゃんちの茶の間で、だ。
雪が帰ってきたのは六時になる少し前で、そのころにはお母さんがひとりで晩ご飯の支度を済ませていた。
お父さんと康お兄ちゃんのいない食卓で、僕たちは晩ご飯を食べ始めた。
「美味しいなあ。美味しいなあ」
お祖父ちゃんは相も変わらず上機嫌だった。
「ごめんなさい、お義母さん。晩ご飯の支度、手伝えなくて」
「いいのよ、そんなこと。いっつも手伝ってもらってるんだから。雪ちゃんもたまには羽を伸ばさないとね」
「そうそう。わたしなんて手伝いたくても手伝えないんだから。みんなひどいのよ。お母さんのレシピ通りに作ってるのに、なんでこうなるのか不思議だって。これも一種の才能なんじゃないかって笑うのよ」
「いや、お姉ちゃん。人間には向き、不向きってのがあるんだよ。お姉ちゃんはみんなに好かれる優しさを持ってるぶん、料理が苦手なんだよ。それでプラスマイナスゼロってことに神様がしたんだよ」
「いいフォローじゃない、麟」
本当は僕はそんなことが言いたかったんじゃないけど、雪にいきなり訊くだけの勇気がなくて、お茶を濁した。
「ママの得意料理の卵かけご飯は美味しいだわよ」
「姫、それフォローになってない」
お姉ちゃんが怒ったようにふざけたので、みんな笑った。
僕がタイミングを計っていると、お祖父ちゃんが言った。
「こないだ『美味しそうなシュークリームだなあ』と思って食べたら、お稲荷さんだったんじゃ」
さらにたたみかけてきた。
「儂ゃジェームス・ディディーンに逢いたいんじゃが、どうしたら逢えるかのう?」
「天国に行かなきゃ会えませんよ。まだ会ったらいけません」
「そうか……。そうか」
「お祖父ちゃん、今度は天国に行くにはどうしたらいいのかのう? なんて言い出すんじゃないの?」
お姉ちゃんの冗談に続けて、えいやあ、とばかりに僕が言った。
「そういや雪、今日、渋谷にいなかった?」
「ううん、いなかったよ。どうして?」
「いや、じゃあ似たようなひとだったんだな。見かけたんだ、雪にそっくりなひと。て言っても人混みのなかでの道路の向こう側だったから、そんなにはっきりと見たわけじゃないけど。渋谷、行かなかったんだ。じゃあ、いいんだ」
城と一緒にいなかったか、と言及したい気持ちもあったのだが、雪がいなかったと、渋谷にはいなかったと言ったのだ。
そのうえで質問するなんて、雪を疑うなんて、僕にはできない。
してはいけないと思う。
……けれど。
晩ご飯を食べ終えて、早々にお父さんちに行って、雪が食器洗いを終えてこっちに来る前に、僕は城に電話をかけた。
罪悪感は当然あった。
確認したい気持ちが、それを上回ったのだ。
城が電話に出るまで、いや、出てからも、手が震えた。
世間話もほどほどに、僕は訊いた。
雪の名前は出さずに、渋谷にいなかったか?
と。いないと城は答えた。
本当か?
と問い詰めた。
少しの沈黙のあと、本当だ、と返ってきた。
完全に疑念が消えたわけではないのだけど、それ以上は訊けなかった。
雪が渋谷には行ってないと言い、城も渋谷にはいなかったと答えた。
つまりは僕の勘違いなのだ。
自分の彼女を、友達を疑ってのこれ以上の質問は、ひととして最低だ。
雪にばれないように城に電話をしている時点で、かなり最低なのだけど。
僕は城に、今日似てるひとを渋谷で見かけたんだと説明して、じゃあ、今度の撮影も頑張ろうな、なんて取ってつけたようなことを言って、電話を切った。
見間違いだったんだ。気のせいだったんだ。
そう強く言い聞かせて自分を納得させた。
雪と城が渋谷を歩いていた勘違いのビジョンを、頭から捨て去った。
それから数日後、僕と雪はクリスマス・プレゼントの下見をして、レストランで創作フレンチを食べてから帰宅した。
雪に変わった様子はなかった、なにひとつとして。
雪に限っては、嘘をつくだとか、芝居を打つだとかいったことは考えられない。
やっぱり僕の勘違い、見間違いだったのだ。
大きく安堵した。
でも、それと同じくらいの申し訳なさが、あるにはあった。
次の日曜には横浜にライブを見に行く予定がある。
せめてもの罪滅ぼしに、なにをしようか?
それでチャラになるだなんて都合のいい調子のいい考え方は僕はしないが、なにもせずに済まそうだなんて、それで笑っていられるやつなんて、もっと卑怯だと、僕は思う。
だから僕は、罪滅ぼしなんてせずに、正直に顛末を話して謝ろうと決めた。
決めたのだけど、大学で講義を受けたり、映研での映画撮影に顔を出して仲間と脚本の意図を突き合わせたり、新しい脚本のプロットを考えたり、飲み会だカラオケだと遊んでいるうちに日は過ぎて、言えないまま日曜日になった。
まあ、一番の理由は気後れだったのだが。
麟太郎のしたことを、みなさんはどう思いますか?
許せますか? 許せませんか?
十人いれば十通りの意見があると思います。
そのご意見を、お聞かせいただけませんでしょうか?
では、また。




