第六話 僕と雪 その一~冬の太陽~
麟太郎と雪ちゃんが主役の話だから、
当然のごとく、恋物語になります。
期待していただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。
第六話 僕と雪
その日、僕はひとりで渋谷の街を歩いていた。
十二月になってから季節はめっきり冬めいて、すれ違うひとも同じ方向に歩くひともみんな防寒は怠りなく、太陽が雲に隠れているのが残念そうに黙々と歩いているひともいれば、四季があるこの国でよかったというように談笑している若い男女もいた。
そのひとたちには寒さは関係ないように思えた。
雪は一緒じゃない。
別に僕には雪以外に親しい人間がいないわけではないし、雪だってそうだ。
と言いながら僕はひとりだけど。
雪は友達の女の子と洋服を買いに行くと言っていた。
僕はCDを買いに、駅から北の方角に歩いていた。
渋谷はひとと車でごった返していた。
でもそれが日常だ。
当たり前だけど、前も後ろも道行く車も向こうの歩道を歩くひとたちも、赤の他人だ。
ぐるりと見渡した百人以上の知らないひとたちのなかを、僕は歩いている。
と、幸せそうな同い年くらいのカップルが、前から手をつないで歩いてきて、僕は雪を思い出した。
今年のプレゼントは、なにをリクエストするのかな?
この時期にプレゼントと言ったら、当然クリスマスのプレゼントだ。
僕たちもプレゼントの交換をする。
でも、そのプレゼントの中身は純粋なサプライズではなくて、事前にお店に行っていくつか候補を決めて、そのなかから僕が「センス」で選んで渡すのだ。
雪からもらうものも、僕が候補に挙げたいくつかのなかから雪が選んでプレゼントしてもらうのが、僕たちのスタイルだ。
でも、僕の家が金持ちだからといって、そんなに高価なものをプレゼントし合うわけではない。
もしも雪が、僕の家が金持ちだからと、高価な、たとえば十万円の指輪をねだるような、そんな性根の腐ったやつだったらば、僕は好きにはならなかった。
絶対に。
クリスマスが近づいて品切れ、売り切れになる前に買っておかなきゃな、と僕は時間の都合をつけて雪と下見に来ようと思った。
雪のことを思うと優しい気持ちになる。
CDショップの前まで来て、僕の頭にふと、雪からのクリスマス・プレゼントはCDにしようかな、とよぎった。
別にいますぐに聴きたい、すぐでないと駄目ってわけではないのだし。
そうだ、そうしよう。僕は店には入らずに、回れ右して駅のほうへと向かった。
来るときはただの買い物だったのだが、戻りの僕は隠そうとしなければならないほど、浮かれていた。
口角も上がっていたことだろう。
途中でクレープが食べたくなって、女性の列に僕だけ男ひとり、並んだ。
順番を待っている時間に、なんとなく振り返った。
左側から振り向き、そのままぐるっと僕の前の女性の頭まで体を回転させる途中で、ピントが合った。
あれ? と僕は思った。
道路の向こうの人混みのなかに、見つけた気がした。
雪、じゃないか?
でもその女性はすぐに人並みに飲まれて、見えなくなってしまった。
雪だったのかな?
違うのかな?
その疑問の答えを、僕はすぐに見つけた。
雪じゃないよ、雪じゃない。
だって隣には男がいた。
雪は女友達と洋服を買いに行くって言ってたんだ。
しかもその男が、映研の仲間の城だったなんて、僕に嘘をついてほかの男に会うなんて、ありえない。
何秒くらいぼっとしてたのかはわからないが、前を向いたときには列が進んでいて、順番が二番目になっていた。
ガードレールに腰かけてクレープを食べながら、否定すればするほど、あの女性が雪のような気がしてならなかった。
よっぽど電話をしてみようかとも思った。
疑うのはいけないことだと知りつつも、思い返せば思い返すほど、髪型、横顔、服装のどれをとっても雪にしか見えなくて、僕のこめかみは痛んだ。
こんなときでも、ストロベリー・クレープは甘くて美味しかった。
野球雑誌を買ってお父さんちに帰ったのは、四時前だった。
雪はまだ帰ってはいなかった。女性の買い物、特に洋服ともなると、そりゃ時間もかかるだろうなと、半ば言い聞かせるように思った。
お姉ちゃんはまだ仕事中で、姫たんは週に三日の習い事の日。
帰ってくるのは五時を過ぎてからだ。
つまり、いまお父さんちにいるのは、僕ひとりだけだ。
普段はこんなことは思わないのだが、なんだか居心地が悪くて、お祖父ちゃんちに行った。
お祖父ちゃんは帰ってきたところで、お母さんが着替えさせたあとだった。
康お兄ちゃんはいなかった。
お母さんに訊くと、康お兄ちゃんはまたどこかに出かけたらしい。
今度はどんなボランティアをしているのか。
茶の間で寝そべって買ってきた野球雑誌を読んでいると、太陽はあっという間に沈んで、外は群青色になっていた。
すぐに夜になる。
お祖父ちゃんはいつも陽気ですけど、
麟太郎は悶々としています。
康お兄ちゃんが新しく始めた(と麟太郎が推測している)
ボランティアは、いったいなんでしょうか?
そんなことにも思いを馳せていただけたら嬉しいです。
では、また。




