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第五話 僕、麟太郎 その十三~いかに、いかに~

二話連続投稿の二話目です。


これにて、第五話、閉幕です。

ちょっと寂しくて、ちょっと晴れやかではないでしょうか?

どんなストーリーになるか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


では、どうぞ。

 脚本を書き終えたのは、十月の最後の週だった。

 それからまた添削をするのだけど、僕は両拳を高々と上げた。

 映研用に書いていたときは、僕はまだはっきりと心に決めてはいなかった。

 つまりこれは僕が脚本家を目指して初めて書いた脚本だ。

 ノート・パソコンを持って、雪の部屋に行った。


「雪、できた。できたよ」

 ノックをして返事が来る前に、僕は言った。

「本当!」

 ドアを開けた雪は、にっこり笑った。

「見て」

「うん」

 僕は部屋に入り、ノート・パソコンをテーブルに置いた。


「やっとできたね。でもわたしの批評は辛口よ」

「その辺はお手柔らかに。俺、打たれ弱いから」

「知ってる」


 いじわるを言う雪もかわいくて、僕は笑った。

 初めての脚本を書き終えたら、一番に雪に見せると約束していたのだ。

 ひとに見られるのってなんか恥ずかしいなと思って、あっと気が付いた。

 クロチャンたちにも見られてたな。

 ユーミさんのアドバイスも、聴けてよかったし。

 そう、僕は参考にしたのだ。

 それを悪いことだとは思わない。

 脚本家を目指すひとは、出来上がった脚本を友達か誰かに見せて意見をもらい、それを参考にして手を加えるということを誰もがしている。

 いまから、雪にも意見をもらうところだ。


 ノート・パソコンを見つめる雪の横顔を見ながら、夢に出てきた怪獣たちの姿を思い返した。

 僕は夢を見ても目が覚めるとすぐに忘れてしまうのだけど、六人のことは覚えている。

 夢と言うよりは幻覚なのかもしれないけど。


 僕は宙を見た。

 ユーミさんにキャトル・ミューティレーションされそうになってから、七人目はまだ現れていない。

 と言っても、まだ一週間しか経っていない。

 康お兄ちゃんは十日に一回くらい、と言っていた。

 くらいだから五日に一回のときもあれば、二週間に一回ということもあるのだろう。

 でも僕は、怪獣と呼ばれる存在に二度と会えないんじゃないかと、そんな気がしていた。


 なんだか寂しいと、そう思った。

 それは別段、不思議なことではなかった。

 つまらないと言われた挙句に噛みつかれそうになったこと。

 トリオ漫才を見させられたこと。

 急激に老けていったこと。

 宇宙に連れて行かれそうになったこと。

 そのどれもが愉快でならなかった。

 いまにしてみれば、だが。


 あんな突飛な体験は、もう二度とできないだろうなと、そんなことを考えていたので、雪に呼ばれても気が付かなかった。


「麟、聞いてる?」

「ああ、ごめん、ごめん」

「まだ途中だけど、続きはあとでいい?」

「いいけど、どうかした?」

「眠たくなっちゃった」

「それは眠たくなるほどつまらなかったって意味か?」

「違うよ」

 と雪は笑った。

「単に眠いだけ。時計見てよ」

「いや、そうだ。雪は嫌味を言ったんだ。つまらないって言ったんだ。うわあ、ひどい。傷ついた。俺のガラスの心臓にひびが入った。もう駄目。立ち直れない。雪がつまらないて言ったから。俺の脚本を読んでつまらないって言ったから」

「違うってば」


 僕と雪は笑い合った。

 雪が本当に眠たそうな目をしていたので、僕は部屋を出て、自分の部屋に行った。

 ドアノブを掴んだとき、ひょっとしたらと期待したのだけど、ドアを開けても誰もいなかった。


 雪が、僕が置きっぱなしにしておいたノート・パソコンをもって僕の部屋に来たのは、次の日の夜の十時過ぎだった。

 そのとき僕は大学の課題に取り組んでいた。

 落ちこぼれの僕はどうにかこうにか卒業にこぎつけられるように、その日も努力を怠らずにいたんだ。雪は卒業したのに僕はもう一年、なんて洒落にならないから。


 駄目出しもされたけど、雪の感想は好意的なものだった。

 僕は雪の挙げた問題点をノートに書き留めて、課題をひとまず置いておいて、思案した。

 思案していると、雪が後ろから目隠しをしてきた。

 だから僕はその手を引っ張って抱きつかせた。

 こんなふうに僕たちはイチャイチャする。

 夜が更けていく。




 これは約半年後の話。

 僕は本屋に行き、ある雑誌を手に取った。

 目次で調べて、新人賞の一次審査通過作品発表のページをめくった。

 当たり前だけど店内にはお客さんや店員さんが大勢いて賑わっていて、だけど、世界が僕に向かって閉じてくるような、そんな感覚があった。


 一次審査通過作品発表のページを開く前に。

 意図せずに僕は浅く呼吸をした。

 一、二、三で開いて、作者名から僕を探す。

 ひとつひとつ。

 ない、ない、まだない。

 ない、ない、まだない。

 まだないだけだ。

 不安と期待で鼓動が速い。


 最後まで見たけど、僕の名前はなかった。

 まあ、そんなもんだろう。

 僕は雑誌を元あった場所に戻して、本屋をあとにして、まっすぐ家に帰った。


 お父さんちのリビングで、雪は小説を読んで待っていた。


「駄目だった」

 僕は訊かれる前に言った。

「次よ。これで終わりじゃないじゃん」

「そうだな。へこたれてなんかいないよ。二作目にはもう取りかかってるんだ。次は絶対に通る」

「その意気よ。これあげる」


 雪はソファの陰に手を伸ばし、綺麗にラッピングされた小さな箱を取り出した。


「残念賞」

 雪が開けていいというので、その場で箱を開けた。

 ブレスレットだった。

「おそろいよ」

 雪が笑うので僕も笑った。

 そのあとややあって気が付いた。


「もしも通ってたらお祝いのプレゼントとして渡される予定だったのか?」

「うふふ」

「なあ、そうだろう」

「うふふ」

「いや、うふふじゃなくて」

「いいじゃない。どっちでも」

「そうだわよ、麟太くん。これ食べて元気になるだわよ」


 姫たんがショート・ケーキを持ってきて言った。

 これも悔しいが残念賞に変わってしまたお祝いだと思うと、なんだか少し寂しいものがあった。

 でも、ショート・ケーキは甘くて美味しかった。

 なんといっても、僕の一番好きなケーキなのだ。


 努力に努力を重ねなければ、夢を叶えることはできない。

 僕はまだ努力が足りなかったのだ。

 冷房が効いたリビングで、雪や姫たんと話をして、僕は笑った。

 背後からも笑い声がして、それは夢に見た懐かしい笑い声だったのだけど、振り返っても誰もいなかった。

 なんだ、誰もいないのか、って顔をして向き直った刹那にまた振り返った。

 まんまと引っかかってくれた。

 いま僕は夢を見ている。

 これは夢だ。

 そう気が付くと、僕は目が覚めるのだ。

夢を叶えるために努力は絶対に欠かせませんが、

それよりも必要なものがあります。

きつい言い方かもしれませんが、歴然たる事実です。

それでも頑張った麟太郎を、これからも頑張る麟太郎を、

わたしは応援したいと思うのです。


では、また。

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