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第五話 僕、麟太郎 その九~彼は自分を拙者と言った~

名前を出すのは不味いかもしれないので伏せますが、

お気に入りのジュースが店頭から消えてしまいました。

いまないだけなのか、もう扱わなくなってしまったのか?

今、家にはラスイチがあるのですが、賞味期限ギリまでは

飲まずにおこうと思っています。

これも本文とはなんの関係もありません。


昨日は二話連続投稿をしたのですが、何時と何時にするかを

明確にしていなかったので、わかり辛かったんじゃないかと

あとになって気が付きました。配慮が足りなくてすみません。


では、どうぞ。

 康お兄ちゃんが話をやめてご飯を食べだしたのを合図に、僕のメインが康お兄ちゃんの話を聞く、から朝ご飯を食べる、に変わった。

 それでも頭の片隅には康お兄ちゃんの言葉が残っていた。


 姫たんがしゃっくりをして、お味噌汁飲みなさいとお姉ちゃんが言って、お祖父ちゃんが笑って、お父さんもお母さんも笑って、みんな笑って、しゃっくりが止まった姫たんも笑った。

 このご飯は曲者だわよと笑った。


 僕は笑いが治まると、脚本のことを考えた。

 考えずにはいられなかった。

 それだけ康お兄ちゃんの話は刺激的だったのだ。


 エンディングを際立たせるオープニングか……。

 いまの僕の脚本のオープニングでは弱いかもしれない。

 いや、かもしれないではなく、弱い。

 総取っ換えしよう。

 それでもまだクロチャンにつまらないと言われるかもしれないけど、いまのまま、弱いと思ったまま新人賞に出すよりはずっといい。


「その心でござる」


 肩をポンと叩かれて、僕は

「うおお」

 と声を上げた。


 振り返ると、髷を結って、腰に刀を差した、紋付き袴というのだろうか? 要するに時代劇で見るような「ザ・侍」が立っていた。


「拙者、僭越ながら、お主の脚本、読ませていただきたいでござる」

「あ、まだ読んでないんですか?」

「断ってからでないと失礼だと思ったでござる」


 このひとの礼儀正しさ、真面目さに好感を持った僕が脚本を読むのを許可(と言うと上から目線に聞こえてしまうのだが)すると


「ここに持ってきたでござる」


 と雪の隣でノート・パソコンを開いた。

 僕は席を立って侍の背中からノート・パソコンを見た。


「それでは読ませていただくでござる。申し遅れたでござる。拙者、一条辰之進と申す。以後、よろしくでござる。もし呼びたければ、たっちゃんと呼んでくださってもなんら構わないでござる」


 なんだか堅苦しい挨拶のあとで砕けるから、


「じゃあ、たっちゃんって呼びますね」


 と僕は笑った。

 僕はもう気が付いていた。

 たっちゃんも、クロチャンや麻呂ーズと同じ怪獣だ。

 康お兄ちゃんが言うところの。

 そして僕は、元いたあっちの世界では眠っているのだろう。

 こっちの世界では、家族みんな僕たちを見向きもせずにご飯を食べている。

 パスワードを僕が打って、たっちゃんに譲った。

 たっちゃんは侍なのに慣れた手つきで


「かたじけないでござる」


 と脚本を開いた。

 これからたっちゃんは僕の書いた脚本を読む。

 まだ途中とはいえ、読み終えるには二十五分か三十分はかかるだろう。

 その間僕は手持無沙汰なので、お父さんちで音楽でも聴いて過ごそうかと、台所を離れようとした。


「待つでござる」

 打って変わって厳しい声色だった。

「どこにいくでござるか」

「え、ちょっと向こうの家に……」

「ここを離れるのは自重するでござる。そこに大人しく座っているのがお主のためでござる」


 目力に圧倒されて、僕は言われるがまま、食卓のいつもの席に着いた。

 たっちゃんは肯いて脚本を読み進めた。


 不思議に思った。

 みんな黙々と朝ご飯を食べている。

 まるで流れ作業のように。たっちゃんの存在も、僕がみんなの顔を覗き込んでいることも、まるで意に介していないというか、なんというか……。

 こっちの世界では僕と怪獣しか意識がないのだろうか?

 僕も食卓に並んだご飯を食べようか、その前にこっちの世界でものを食べることに意味があるのかどうか?

 なんてことを考えていると、誰かがすすり泣いた。

 たっちゃんだ。


「切ないでござる」

「切ない?」

 開始二分で泣くところなんてあったっけ?

 僕は首を傾げた。


「この道行くサラリーマンは、きっと家族のために身を粉にして、下げたくもない頭を下げて仕事をしているのでござる。それを思うと拙者は、拙者は」


 たっちゃんは泣いた。

 そこまでの思いを込めて書いたわけではもちろんなくて、まあ、言ってしまえば深読みのしすぎなのだけど、僕の脚本でなくひとがいるのは、単純に嬉しかった。

 僕は席を立って、ふたたびたっちゃんの後ろから脚本を見た。


 泣いたたっちゃんは、また二分ほど読み進めると、今度は笑った。


「わっはっは。わっはっは。わっはっは」


 たっちゃんこと一条辰之進の笑い方は、アニマル淡口と同じだった。

 涙が出るほど面白かったのか、さっきの涙が渇いていないのかはわからないけど、たっちゃんの目には涙が浮かんでいた。


「面白いでござるぞ」


 たっちゃんの笑い方のほうが面白かったけど、それは言わないでおいた。


 たっちゃんは僕の返事を待たずに脚本に目を向けた。

 それは、かつて子どもだった僕たちがそうであったように、姫たんや姫たんと同じ年ごろの子どもたちが大好きなアニメを見るときの、一秒たりとも目を離すまい、一コマたりとも見逃すまいという姿勢によく似ていた。

 そこまで食いつかれると、逆に見られたくないような、隠したくなるような変な気持ちになった。


「むむ、こやつ、恋敵でござるな? しかもいけ好かない輩でござる」


 ノート・パソコンから目を逸らさずに言った。

 僕が好感を持ったのは間違いじゃなかった。


姫たんがしゃっくりをしましたが、わたしは専門学校に

通う年になるまでずっと「ひゃっくり」だと思っていました。

百回繰り返すとぽっくりいくからひゃっくり。

そう聞いた記憶があります。違うんですね。

みなさんはどんな記憶違いをしたことがありますか?


では、また。


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