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第五話 僕、麟太郎 その八~康お兄ちゃんの金言~

二話連続投稿の二話目です。


第五話 その六の前書きでまだ七分袖宣言をしたすぐですけど、

日本中で三十度を超える気温を観測しているではありませんか!

わたしは言いたいです。「七分袖、無理!」。

宣言して早々にリタイアします。もう季節は半袖ですね。

こう書いたらまた気温が下がっていったりするのでしょうか?

いま、小日向さんちは秋なんですけどね……。


では、どうぞ。

 遠くから聞こえてきた声がだんだんと近づいてきて、僕はびくっとした。いつの間にか眠っていたようだった。


「もう講義終わったよ」

「俺、何分くらい寝てた?」

「わたしが気が付いてからは二分くらい。あんな格好でよく眠れるよね。感心したわ。こうやって、背筋ぴーんで伸ばして、最初寝てるとは思わなかったよ」

「今回は麻呂ーズだった」

「マローズ? なにそれ? 康お兄ちゃんが言ってた怪獣のこと? 出たの?」

「そう。平安貴族の麻呂ーズ。なんか知らないけど励まされた」


 雪はふうんと、いまひとつ腑に落ちてないリアクションだったのだけど、僕はなんだか勇気が出たような光がさしたような、そんな晴れやかな気持ちだった。


 その日の夜、僕と雪はふたりきりで外食した。

 銀座のお寿司屋さんだ。

 大学生には非常に贅沢なディナーだけど、大丈夫。

 うちは金持ちなのだ。


 すっかり秋めいた街は、ショー・ウィンドウにハロウィンの飾りがしてあったりして、今年も姫たんの

「トリック・オア・トリートだわよ」

 が聞きたいねと、雪と笑い合った。

 ちなみに去年の仮装は肩にカメレオンを乗せたあのお姫様だった。

 姫たんの一番のお気に入りだ。

 今年の仮装はお姉ちゃんと姫たんがもう相談して決めているはずだからと、僕と雪は姫たんがなにに仮装するのか予想したりして、街を歩いた。

 雪が隣にいてくれるだけで、僕は幸せなのだ。




「いただきます」

 朝ご飯を食べながら、いつものように僕たちは話をした。

 僕が麻呂ーズのことをありのままに話したのだけど、康お兄ちゃん以外は誰も信じてはいないようだった。

 お母さんでさえ、半分以上は疑っていた。


「麟太、本当なの?」

「ほんとなんだって。トリオ漫才見せられたんだから」

「トリオ漫才か。康くんのときはどうだった?」

「トリオじゃないけど、漫才みたいのは見せられましたよ」

「本当? わたしは別に幽霊とか否定するつもりはないけど、小説家を志した康くんが見て、脚本家を目指した途端に麟太まで見るようになるなんて、この家はなにかあるのかしら?」

「ちょっとお母さんやめてよ。夜、ひとりのとき、思い出しちゃうわよ」


 お姉ちゃんのホラー怖がりは相変わらずだ。


「ああ、ごめん、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだけど」

「大丈夫だよ。康んとこに怪獣が出たときも、俺たちにはなんの害もなかったんだから」

 お父さんがそう言うと、お姉ちゃんは幾分気を取り直したように

「うん」

 と肯いた。

「でも俺のところに出たのは、ミラクルマンに出てきたような怪獣で、麟のとこに出たのは、最初はクロマニヨン人で、次が平安時代の貴族。そこが明確に違うところだな。なんで違うんだろう? 俺のときはほんとに『ザ・怪獣』だったのに」


 康お兄ちゃんの疑問に、みんなが箸を止めた。

 一番に口を開いたのは、一番答えを知りそうにないお祖父ちゃんだった。


「おい筋肉、どうするんだい? おいおい、この疑問にどういう答えをだすんだい? おい筋肉、どう答えるんだい?」

 どこで覚えたのか、ながやまきんに君だった。

 こういうときのお祖父ちゃんは、「やりきった」というとても満足そうな顔をする。

 だからみんなも笑ってしまうのだ。


 ここでお姉ちゃんが、この手の話はもうおしまい、というように、話を変えた。


「ねえ、麟。脚本書くのって、なんか、コツとか、あるの?」

「いや、わかんない。まだそこまでいってない。康お兄ちゃんはわかる?」

「わかる。二十年間小説家目指して書いて書いて書きまくったとき、気が付いたんだ」

「教えて」

 僕は飛びついた。

「ふふん、知りたいか。そうだよな、知りたいよな。でもどうしようかな? 俺のとっておきだからな」


 そうもったいぶったあとで、康お兄ちゃんは

「教えるよ」

 と笑った。

 康お兄ちゃんはこう言った。


「人間誰だって映画とか観て、なんだこれ、つまんねえなって思うこと、あるだろ? つまらないって思うってことは、これが面白いっていうこういうの最高っていうそのひとの価値観があるってことで、それを根幹にする。そしてまずクライマックス・シーンを思い描く。クライマックスなんてどうでもいい、オープニングが一番大事だ。もしくは、クライマックスはつまらないけど、伏線の張り方が面白いからこの映画好き、なんてやつは稀だろ? そのひとが面白いと思うクライマックス・シーンをまず決めて軸にして、こういうクライマックス・シーンになるってことは、前フリはこういうのがいいな。この前フリの前にはこういうシーンを作ったらいいな。こうきてこうきてこういうクライマックスになったら、こういうエンディングがかっこいいよな。そしてこのクライマックスとこのエンディングを際立たせるためには、こういうオープニングにしたほうがいいなって考えたら、それでもう映画一本撮れるだろ?」

「なるほど!」


 僕は歓声を上げた。

 僕だけじゃない。

 お姉ちゃんも

「おお」

 と感嘆の声を上げたし、みんな感心したという顔をしていた。


「だから、もちろん、小説とか脚本とかの書き方の基本、映画の撮り方の基本をおろそかにはできないけど、ひとは誰でも映画を創れるし、小説も脚本も書けると俺は思うんだ。誰にでも書けるけど創れるけど、それがひとに面白いと思ってもらえるかどうかはまた別だから、難しいんだよなあ、ってのが俺の気付いたコツ」

「康お兄ちゃんに後光がさして見えるよ」

 と僕。

「馬鹿言うな」


 そう康お兄ちゃんは笑ったのだけど、僕は半分以上は本心だった。

 そうか、そんな書き方があるのか。

 靄が晴れたような、そんな気分だ。

康お兄ちゃんの言った映画の作り方。

映画や脚本、小説などの物創りを軽んじているように思われて

しまったら嫌なので、そこは誤解のないように言わせていただきます。

わたしは決して見くびってなどいません。あくまでも書き方のひとつとして

例をあげただけです。

え、誰もうがった見方なんてしていないって。

それならば一安心です。


では、また。

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