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第五話 僕、麟太郎 その五~康お兄ちゃんのアドバイス~

エピソードタイトルの「僕、麟太郎」って「ぼく、ド〇え〇ん」に

似てますね。いや、もちろん、似せようと思ったわけではありませんよ。

偶然の一致です。でも、康お兄ちゃんと麟太郎が見た「この世ならざる者」は、

果たして偶然の一致なのか? 考えていただけたら嬉しいです。


では、どうぞ。

「康お兄ちゃん、どうしたの?」

「そりゃこっちの台詞だよ。ノックしても返事がないからドア開けてみたら、うんうんうなされて、手ぇばたつかせてたんだから」

「ああ、俺いつの間にか眠ってたんだ」


 目を擦ってから首の骨を鳴らし、お祖父ちゃんが一緒なことに気が付いた。


「ああ、お祖父ちゃん」

「いま、義姉さんが風呂入ってるから、兄ちゃんはまだ帰ってこないし、お父さんひとりにはできないだろ。麟に話したいこともあったし。信憑性が薄れるような感じがしてな。みんなの前じゃ言いづらいから、いま話そうと思ってお父さんも連れてきた」

「そうなんだ。なに? 話したいことって」

「晩飯のとき、俺が怪獣に憑りつかれたって兄ちゃんが言ってただろ? あれ、本当のことなんだ」

「そう」

「リアクション薄いな」

「いま、夢に出てきたばっかだから。……夢だったのかな? 夢じゃない!」


 長袖のシャツの袖をまくり上げてみると、僕の二の腕には、クロチャンの手形がくっきりと残っていたのだ。

 康お兄ちゃんの顔に笑みが浮かんで、お祖父ちゃんは


「麟太郎にも怪獣が見えた。麟太郎にも怪獣が見えた」


 とクロチャンの手形に自分の手を重ねてはしゃいでいた。


「やっぱり麟も出たか。どんなやつだった?」

「クロマニヨン人」

「そう来たか。俺のときとは違うな」


 康お兄ちゃんは僕の隣に座った。

 一瞬、クロチャンに噛みつかれそうになったこと頭によぎったのだけど、康お兄ちゃんは気付くふうもなく話し続けた。


「俺のときはな、麟、文字通り怪獣だ。ミラクルマンのあれだ。丸谷プロに怒られるんじゃないかってくらい出て来たな。二十年だからざっくり七千日として、十日に一回だったとしても、七百回以上は出てきたな。最初は怖かったけど、麟は怖くなかったか? 俺は怖かったけど、それは最初のうちだけで、慣れてくると、またか、って感じだったな。お前また来たのかよ、まあこっち来てちょっと座れよってノリで、怪獣と話し込んだりしてな。でもその怪獣は俺にしか見えてなくて、声も俺にしか聞こえてないわけだ。兄ちゃんが心配してな。康が誰もいないとこに向かってひとりでぶつぶつ言ってるって。それで怪獣のことを言ったら、お前疲れてるんだよ、休め、なんて。そりゃ信じられないよな。見えないんじゃ」

「儂ゃ信じるぞ」

 椅子に座って聞いていたお祖父ちゃんが言った。

「ありがとう、お父さん。で、麟、そのクロマニヨン人はなんて言ったんだ」

「脚本の駄目出ししてった」

「それ。俺のときも怪獣が俺の小説呼んで、駄目出ししたんだよ。いいか? 麟、聞く耳持つな。それが一番だ。俺が二十年間の経験で学んだことだ。結局最後は自分が信じる、自分が面白いと思うストーリーを紡ぐのが大切だってわかるんだ」

「でも康お兄ちゃんこれ見てよ」

 と僕はクロチャンの手形を見せて

「俺マジで死ぬんじゃないかと思ったよ」

 と訴えた。


「怪獣だからな。聞く耳持つながいけないのか……。右から左に受け流せが正解か」

「康お兄ちゃんは怪獣に殺さられかけたこと、ないの?」

「あるよ。そりゃある。なにせ怪獣だからな、パワーが違う。でもなあ、本気で殺す気のやつが、二十年も生かしておくと思うか? ただじゃれてるとか、なんかのメッセージだと俺は思うんだけど、どうだ?」

「じゃれてる……」


 僕は思い返してみた。

 生命の危機を感じる力で、押し倒して噛みつこうとするのがじゃれてるだけとは思えないけど、度を越した悪ふざけとだとなら、たしかに思える。


「康お兄ちゃんの場合は、どんなメッセージをもらったの?」

「俺か? 俺の場合は、根を詰めすぎだ、とか、休め、とか逆に、ここは集中力を切らさずに書き続けろ、とかだな。右から左にってのも、ちょっと違うか。怪獣のアドバイスを取捨選択して、最後は自分の審美眼を信じろ、かな、やっぱ。休めって言われて素直にベッドに横になったら眠っちゃって、そのまま朝までぐっすり、なんてこともあったな。一時間くらいで起こせよって言ってやったよ。次会ったときに」


 康お兄ちゃんの見た怪獣と、僕の見たクロマニヨン人では毛色が違うのではないだろうか?

 その疑問を言う前に、康お兄ちゃんは立ち上がった。


「じゃあ、そろそろ行くわ。お父さん、あっちに帰るよ」

「おお、そうか。ところでこれは誰のじゃ?」


 お祖父ちゃんの手には、黒くて太くて長い一本の毛が挟まれていた。

 まぎれもない、クロマニヨン人の毛だ。

 やっぱり夢じゃなかったんだ。

 あいつにまた来られたら……。

 ほんの十分前に味わった恐怖が甦り、僕は無意識に二の腕をさすっていた。

小説家を目指した康お兄ちゃんは怪獣を見ました。

脚本家を志した麟太郎はクロマニヨン人を(夢か現実かはわかりませんが)見ました。

小日向家では、文筆業を生業にしようとすると、そういう存在がやってくるみたいです。

そういう、言ってしまえば「宿命」なのでしょう。

と、わたしは言いましたが、みなさんはどう受け止められましたか?

お聞かせいただけたら嬉しいです。


では、また。

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