第五話 僕、麟太郎 その四~その男、クロマニヨン人につき~
いまさら、かもしれませんが、わたしが前書きで書いてることって
活動報告で書くべきことですか? べきってことはないかもですけど。
わたしはその辺のことがとても疎いのです。
教えていただけたら嬉しいです。こんなことのあとでなんですけど、
では、どうぞ。
「ふああああ!」
僕は悲鳴を上げて壁際まで後ずさりした。
その生き物は僕を一瞥して、またノート・パソコンに目をやった。
「オマエ、オドロク、ソウテイノハンイナイ。オレ、キャクホンヨム。シズカニスル」
片言ではあるが言葉を話す知能はあるようだ。
それに僕に危害を加えるつもりも、いまのところはないように見受けられる。
それでも僕の心は恐怖に支配されていたのだけど、目はその生き物から離せなかった。
すると、
「ハハ」
とその生き物は小さく短く笑った。
僕の書いた脚本を読んで、その生き物は、小さく短くだけど、笑ったんだ。
「……面白かったですか?」
嬉しかったから、かなり躊躇ったあとで、恐る恐るだけど、僕は訊いてみた。
でも無視されてしまった。
脚本が面白いあまり聞き取れなかったのではなくて、聞こえたのに「無視」だ。
ダメージを受けた。
そのあとその生き物は、首を傾げたり小声でぼそりと言ったり肯いたりしながら、その時点での最後のページまで読み進め、僕に向き直り、口を開いた。
「オレ、クロマニヨンジン。オマエ、オレ、クロチャン、ヨベ。サア」
「ク、クロチャン」
僕がそう言うと、クロチャンは満足そうに肯き、続けた。
「キャクホン、ヨンダ。カンソウイウ。イイカ?」
パニック状態の頭で言われたことを繰り返して、どういう意味の言葉か飲み下して、何とか理解した。
訊きたいことや言いたいことはもちろんある。
でも下手に相手を刺激したら、なにをされるかわかったもんじゃない。
怪我をしてクロマニヨン人に殴られましたじゃあ、僕がどんな目で見られるかなんてわかりきったことだ。
僕は肯いた。
「オマエ、ジブンデシッテル。フクセン、ヨワイ。ツマラナイ」
心臓を突かれた。そのとおりだ。
「クライマックス、モリアガリ。コレジャダメ。ヒトヒネリ、ヒツヨウ」
クロチャンは冷静な話し方をした。
やっぱり僕に敵意はないらしい。
そう気付いた途端に気持ちが大きくなったのか、クロチャンの言った「つまらない」に腹が立った。
いや、実際問題、面白いかつまらないかで言ったら、つまらないのかもしれない。
でも脚本家を目指してから初めて書いた脚本を「つまらない」と言うのは、あんまりじゃなかろうか?
そこまでひどい脚本だとは思っていないし、認めたくもない。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、クロチャンは
「ココモ、ダメ。ココモ、ツマラナイ。オマエ、ナオス。ソレ、ゼッタイ、ヒツヨウ」
と駄目出しを続けた。
「キイテルカ?」
僕が不満を思っていると、クロチャンは声を荒げた。
「ごめんなさい」
「オマエ、ラブロマンス、サイノウナイ。コレデ、ワカル」
失礼だろう、の言葉を飲み込んだ。
「オマエ、コメディ、カク。ソレイイ。ミコミ、アル。チョットダケ」
ものの言い方は最初からずけずけと失礼だけど、にっこりと笑ったその顔は、サーカスのクラウンみたいに愛嬌があった。
だから、ちょっとしかないのかよ、にたどり着くまでに少し時間がかかった。
クロチャンに対する恐怖心が薄らいでいることを実感した僕は
「これをもう少しコメディ色の強い脚本にするのはどうでしょう?」
と訊いてみた。
「ソレ、イイ。イマヨリ、ズットイイ。オマエ、ガンバレ」
「恋愛もので行くのは?」
と試しに訊いてみると、ため息をついて欧米人のように肩をすぼめて両手を腰まで上げた。
クロチャンはどこまでも上から目線だったのだけど、そのしぐさが滑稽で僕は笑った。
でも、クロチャンは笑わなかった。
そして言った。
「オマエ、メズラシイ」
お前が言うな。
「オレ、ミル。ミンナ、ニゲル、コウゲキスル、キゼツスル、ドレカ。オマエ、チガウ。ナンデダ?」
「……なんでだろう? わからない」
「ココ、スワル。イイカ?」
ベッドを指差したクロチャンは、僕が答える前にもう座っていた。
近くで見ると、より類人猿の毛質だと認識できて、思わず見入ってしまった。
背中や腕や腰を。
でもその横顔は人間に近いように感じられた。
正面からまじまじと見たい衝動が湧いてきたのだけど、それはやっぱりハードルが高すぎた。
僕はビビった態勢のままなのも失礼だと思い、ゆっくりとクロチャンの隣に座った。
途端に、クロチャンが牙をむいた。
なんの前触れもなく、だ。
骨が折れるんじゃないかという腕力で僕の腕を掴み、ベッドに押し倒し、むき出した歯で噛みつこうとしてきた。
閉め忘れたカーテンの隙間から、お月様が見えた。
僕は体をばたつかせて抵抗した。
そりゃあもう遮二無二に。
「麟、麟、麟!」
はっと目を開けると、康お兄ちゃんが僕の顔を覗き込んでいた。
果たして、夢や幻覚の類なのか、現実だったのか。
わたしのほうから、「これが正解」という答えは出しません(今のところは、ですけど)。
お読みくださったみなさん、それぞれに考えて答えを出していただけたら嬉しいです。
では、また。




