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第五話 僕、麟太郎 その三~はじまりはじまり~

梅雨入りしましたが、劇中は十月です。

秋です。オータムです。誰がなんと言おうと秋です(誰もなんもゆうてへんがな)。


では、どうぞ。

「外、寒かったよ」

「もう十月じゃからのう」

「麟がちょっと薄着だからじゃないか?」


 僕が言うと、お祖父ちゃんがお茶を飲みながら相槌を打って、康お兄ちゃんが指摘してきた。

 お姉ちゃんと姫たんは茶の間で宿題をしていて、こっちの話には参加してこなかった。

 椅子に座る前に茶の間のやり取りが聞こえてきたのだけど、宿題はどうやら漢字の書き取りのようだった。


 晩ご飯の準備が整うまで、僕は康お兄ちゃんと話をして待った。

 話と言っても、野球はどこが勝ったとか、誰が活躍したかとかを教えてもらうだけで、そんなに実のある話をしたわけではないのだが。


 そうしていると、おかずが次々と運ばれてきて、お祖父ちゃんが拍手をする。

 震える手で、湯呑みのお茶の最後のひと口を飲み込む。

 宿題を終わらせてテレビを見ていたお姉ちゃんと姫たんに声をかけて、ふたりが椅子に座る。

 ご飯を運んできたお母さんと雪が椅子に座るのが、いただきますの合図だ。


 マグロの刺身に手作りハンバーグ、カボチャの煮物、オクラにたくあん、味噌汁の具はわかめだ。

 お祖父ちゃんの「美味しいなあ」が始まって、康お兄ちゃんもお姉ちゃんも姫たんも僕も、美味しいと作ってくれたお母さんと雪に言う。

 ふたりは嬉しそうな顔をして

「よかった」

 と言う。


 でも毎日だとちょっと嘘くさいと言うか、行事的な感じになってしまうと思って、僕たちは全員が全員、美味しいとは言わないようにしている。

 暗黙の了解で、だ。

 僕が言ったらお父さんが言わなかったり、姫たんが言ったら康お兄ちゃんが言わなかったり。

 その辺の連係プレーは完成されていて見事なものだ。

 だから、この日みたいのは珍しいのだ。


「このハンバーグには秘密があるのよね」


 とお母さんは笑った。

 きっと高い肉を使ったのだろう。

 間違いない。


 僕は晩ご飯を終えるとすぐにお父さんちに行った。

 脚本を書くためだ。

 行くときに


「あんまり遅くまで書いてちゃ駄目よ」

 とお母さんが心配してくれた。

 僕は

「うん」

 とだけ答えた。


 お父さんちに行くと玄関の鍵をかけた。

 我が家は戸締りはきちんとする家なのだ。

 部屋に行って灯りを点けてノート・パソコンの電源を入れる。

 失敗だったことに気付く。


「そうだ。ここで詰まってたから、練るんだった」


 ため息をついてノート・パソコンを閉じて、ベッドでうつぶせになって、脚本の構想を練った。


 クライマックスのための伏線はあれでいいのか……。

 そのシーンのヒロインの台詞はあれでいいのか……。

 やっぱりあのシーンでのボケは必要だけど、流れを止めたりはしないだろうか……。

 ……わからん。


 先輩の残した脚本や、プロの脚本家のそれを読んで勉強したつもりでも、やっぱり本腰を入れて書く脚本というのはわからないことだらけで、答えが出ないまま目を閉じて考えていると、なにかの気配を感じた。

 お姉ちゃんたちがこっちに来たのだろうか?

 いや、玄関の音は聞こえなかった。

 それは集中していたから気が付かなかったのだろうか?

 それとも雪が僕を驚かそうとそっと近づいてきたのだろうか?

 それはあり得る。

 でもその気配は動いているようではない。

 じゃあ、なんだ?

  僕はゆっくりと目を開けて、ビビった。


 人間と類人猿の中間のような生き物が、閉じたノート・パソコンを開いて、僕の書きかけの脚本を読んでいたのだ。

こうして麟太郎は、不思議な世界に迷い込むのです。

でもそんなに大それた話ではありません。

楽しんでいただけたら嬉しいです。


では、また。

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