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第五話 僕、麟太郎 その二~掴めそうな尻尾~

「カプセルトイを買いたいので、両替してください」と言ったら

「ガチャポン、やりたいんですか?」と返されました。

ガチャポンが正しい名称なんですか? カプセルトイでも正解ではないんですか?

そんなわたしは今日も風に吹かれています。


では、どうぞ。

「働きながら脚本書いて、日の目を見たら、会社を辞めて、脚本家の道一本に絞る。それでいいんだ。麟太の気の済むまで、脚本を書き続けなさい」


 お父さんのそれは、僕の胸の内を見透かしたような一言だった。

 お父さんは父親として、康お兄ちゃんは叔父さんとして、僕の将来を思いやってくれている。

 心配してくれている。

 でも脚本家になるのが僕の一番の望みなので、腰掛の就職は会社にとっても迷惑なんじゃないだろうか? 

 と言う思いがあるのが本音だ。


 本音なのだけど、言うといやらしく聞こえてしまうかもしれないので明言はしないけど、お父さんは会社でかなりのお偉いさんだ。

 そのお父さんが言うのだから、たとえ腰掛でも会社のために尽力するのが一番失礼じゃないのかもしれない。

 僕はそんなことを思った。


 お祖父ちゃんが会話に参加しなかったのは、食べるのに夢中だったからだと思っていたのだけど、違うようだった。


「麟太郎は脚本家になりたいのか。テレビドラマの、あれじゃろ?」

「そうだよ」

「そうか、そうか」

「……お祖父ちゃん?」

「夢はでかいほうがいい。フレー、フレー、りーんたーろうー」

「お義父さん、お味噌汁がこぼれちゃいますよ」

「すまんのう」


 突然椅子から立って、応援団さながらのエールをくれたお祖父ちゃんは、お母さんに止められて大人しく椅子に座った。


 そのあとは他愛もない会話が途切れ途切れにあった。

 姫たんがいつも学校に持って行っているポケット・ティッシュがなくなったことを思い出したりとか、雪がお母さんに、煮物の味付けのレシピを教わったりとかだ。


 その日は、お祖父ちゃんが朝ご飯を食べ終えると、お母さんが部屋に連れて行って、それからお母さんがご飯を食べ始めた。

 僕たちは少しの間くつろいだあとで、歯磨きをして身支度を整えて(そのころにお母さんのご飯は終わる)会社や学校に行く。


 僕は雪と電車に乗って大学へ向かう。

 朝の電車は毎日大変に混んでいるのだけど、いつもの時間のいつもの車両に友達が待っているから、四人でくっつきあって喋っている。


 午後になって映研の仲間とミーティングをして、まだ半端の脚本を見せて意見をもらって、でも今日は夜更かしはやめようとかそんなことを考えていた。

 なにせ眠いのだ。

 それでも、午前の講義の間に二時間ほどの睡眠をとったから、午後も眠ってしまうと時差ボケのようになってしまい、夜に眠れなくなってしまうだろうと、僕は自重した。

 教授の側にしたら、俺の講義で寝ておいて自重も糞もあるか、がしかるべきなのだが。


 しかし、なのだ。新人シナリオ大賞の締め切りと、映研でコンクールに出すために撮る映画の脚本の締め切りとを逆算すると、どうしてもいま、多少の無理をしなければいけなくて、シナリオ大賞がひとつしかないわけじゃないから別のにするってもの考えたのだけど、一度決めた目標をそう簡単に帰るのもなあ……、でもコンクールだって毎年の映研の目標で、おろそかにはできないしなあ……、と僕は考え込んでしまうのだった。


 そしてそんなことを考えていると、うつらうつらと睡魔に襲われてしまうのだった。

 雪が肩を揺すって起こしてくれる直前に、何者かに声をかけられたような気がした。

 そしてそれは不気味な声だったような気がしたのだけど……。

 目を覚まして雪とひそひそと話しているうちに忘れてしまった。


 家に帰ってから晩ご飯の時間になるまで、僕はお父さんちの自分の部屋で脚本を書いて過ごした。

 人生を左右する一大決心をよくできたと自分でも思う。

 決して軽い気持ちで言っているわけではない。

 僕は本気だ。

 と言っても、ピンからキリまでいる脚本家の先輩たちが、どうやって脚本家として働いているか、なんてことも、僕は知らないのだが。

 だって、脚本家のみんながみんな、毎日自分の思うがままに脚本を書いて過ごしているわけじゃないでしょう?

 それは脚本家の一握りで、それ以外の売れない脚本家がどんな仕事をしているのか、という「脚本家の実情」を知らないまま、僕は脚本家になりたいと言っているのだ。

 誰もが最初はみんなそうなのだと、自分に言ってみる。


 晩ご飯の時間が近づいて、僕はノート・パソコンの電源を落として、あくびをする。

 やっぱりまだ睡眠不足なのだろう。

 うんと背伸びをして、エプロンを着た雪の後ろ姿を見に行く。

 料理をしながらお母さんと二、三言葉を交わす雪のかわいいこと、かわいいこと。


 雪は何分か前に僕に声をかけてから、お祖父ちゃんちにもう先に行っている。

 お姉ちゃんと姫たんも、もう行っている。

 玄関を開け閉めする音が聞こえたから、わかる。


 外に出ると、風が強くなっていることに気が付いた。

 太陽がもう建物の陰になって見えなくなっていて少し寒くて、僕はお祖父ちゃんちで僕を迎えてくれる家族のぬくもりが恋しくなって、サンダルをパタパタ鳴らしながら走った。


 食卓にはお祖父ちゃんと康お兄ちゃんがいた。

授業中の居眠り。みなさんはしたことありますか?

十人中九人は、あるあるーと答えたことでしょう。

わたしもあります。

でもそれはいけないことだし、勉強で後れを取る結果になって

損をするだけでなにもいいことはないので、

学生のみなさん、絶対にマネしないほうがいいですよ。


では、また。

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