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第五話 僕、麟太郎 その一~フォンデュ~

ここまでお読みくださった方にはご理解いただけていると思いますが、

この物語は麟太郎目線で書かれています。つまりは主役です。

第五話になって、やっと麟太郎メインの話にたどり着きました。

長かったような気もしますが、きちんと順序を踏んだ結果なのです。


では、どうぞ。

 第五話   僕、麟太郎




 二度寝。

 一度目を覚ましたのにもかかわらず、もう一度睡眠をむさぼること。

 と言うとなんだかいけないことのようだ。

 いや、実際いけないことなのかもしれない。

 だけど「二度寝」という素っ気ない味気ない響きからは想像もつかないほど、それは耽美で優雅で、布団と言う名の温かいチョコレートにフォンデュされるようなめくるめく安楽の世界は、今日も多くの人々を、まさに夢見心地にさせている。


 要するに、だ。

 僕はその日、二度寝して寝坊した。

 雪に起こしてもらって、時計を見たのは覚えている。

 いつもどおり六時を十分かそこら回ってウイニング・ランのような余韻を残したあとに、だ。

 でも、そのあとが、いつもどおりじゃなかったのだ。


 昨晩僕が寝たのは、日付が変わった午前三時(つまりは当日)で、ここのところの睡眠時間は三、四時間くらいの日々が続いていて、簡単に言えば睡眠不足だった。

 

 ああ、今日も朝、起こしに来てくれてありがとう。

 そう思って瞼を閉じた次の瞬間、これだ。

 雪は僕が二度寝するだなんて思いもしなかったのだろう、ドアを閉める雪の後ろ姿が、眠りに落ちる前に見た最後のヴィジョンだ。


 六時四十五分になって、目を覚ました僕は泡を喰った。

 飛ぶような速さでお祖父ちゃんちに向かった。傍から見たら足が八本に見えたはずだ。

 お父さんちの玄関を開けたとき、お姉ちゃんとぶつかりそうになった。

 お姉ちゃんは優しいかな、僕を起こしに来てくれるところだったそうだ。

 お父さんちに鍵をかけて、僕とお姉ちゃんはお祖父ちゃんちに向かった。


 十月になって、朝はもう長袖を着ないと少し肌寒く感じる季節になった。

 お母さんがお祖母ちゃんから引き継いだ花壇が風に乗って香り、池にかかった三メートルほどの橋(僕が物心ついたときから変わらずにある)を渡り、来年にまた綺麗な花を咲かせてくれる桜の木、七本の下をとおり、お祖父ちゃんちに着く。

 朝ご飯にはなんとか間に合った。


 お母さんが席に着く前に、僕は康お兄ちゃんの隣に座った。


「麟太が寝坊するなんて珍しいな」


 お父さんは食事を終えてからネクタイを締めるひとだから、Yシャツの喉元を気にしながら言った。

 いただきますを言って、みんなそろって朝ご飯を食べ始めた。


「麟、昨日何時に寝たんだ?」

 康お兄ちゃんが訊いてきた。

「三時過ぎ」

「じゃあ、四時間も寝てないじゃないの。駄目よ、ちゃんと寝なきゃ」

 お母さんが心配してくれた。

「そんな遅くまで、なにやってたんだ?」

 お父さんが言った。

 喜ばしいこととは思っていない表情だった。

 そりゃそうだ。


「……脚本書き。俺、大学で映研入ってるでしょ。今年で三年目。一念発起して、脚本家目指そうと思って……」


 本当は、少なくともこのときには言いたくはなかったのだが、なんだか叱られたような気分になって、ちゃんと言って納得してもらわなきゃいけないと思ったから、ぼそりと打ち明けた。


「麟が脚本家か。いいんじゃないか」


 こんなにもすんなりと受け入れられるとは思ってはいなかったから、僕は驚いた。

 康お兄ちゃんは続けた。


「俺もな、昔は小説家になりたくてな、書いてたんだ」

「そうなの?」

 僕はまた驚いた。

 面白いという意味でもからかうようなつもりでもなかったのだけど、笑っていた。


「麟はまだ小っちゃかったから、覚えてないか」

 とお姉ちゃんが言った。

「お姉ちゃんは知ってるの?」

「もちろん」

「麟は覚えてないよ。まだ、えっと……六歳だったもんな。俺が筆を折ったとき」

「うん。全然覚えてない。知らない」


「俺が小説家になろうって決心したときも、二十歳だった。そっから二十年、毎日毎日、そりゃあもうこつこつと書いたさ。でも駄目だった。才能がなかったんだな」

「康、怪獣に憑りつかれたって、二十年間、言い続けたよな」

 お父さんが笑った。

「笑い事じゃないんだよ、兄ちゃん。ほんとのことなんだから」

 と言いながら、康お兄ちゃんも笑った。

「ほら、お父さんも康くんも、そんなに喋ってご飯こぼさないでよ」

 お祖父ちゃんの口元にスプーンを運びながらお母さんが言うから、この話はひとまずお仕舞いになった。


「でも麟太、脚本家目指すのはいいけど、ちゃんと職、見つけといたほうがいいぞ。するんだろ、就職」


 お父さんが言った。


「うん。する」

「俺みたいに職を転々としながら脚本書いて、結局ものになりませんでした、じゃあ結構痛いぞ。これ、経験談」


 康お兄ちゃんの発言を受けて、お父さんが慌てて、俺はそんなつもりじゃ、と誤解を解こうとするのを


「わかってるよ。でも本当にそうなんだぞ、麟」

 と康お兄ちゃんが優しく言った。


「うん」

 僕はもごもごと答えた。

みなさんの夢はなんですか?

わたしの夢は、もちろん、「職業は?」と聞かれて

「小説家です」と答えられるようになることです。

そのために執筆し、こうして発表しているのです。

現在、その夢は遠いんですけど……。


小説家になろうでは、デビューしている方もいらっしゃいますが、

そのひとにあってわたしにないものは、なんでしょうか?

「小日向さんち」、そんなにつまらないですか?

頑張ってます。頑張りが足りないなら、もっと頑張ります。

ぜひ、温かい目で見守ってください。


では、また。

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