第四話 僕の姪っ子、姫たん その三~綺麗なお花畑だわよ~
こないだテレビのニュースでかき氷が取り上げられていました。
わたしはイチゴ味が一番好きです。
夏になったらシロップを買ってきて、水で薄めて飲みます。
イチゴ、レモン、メロン、ブルーハワイ。
想像しただけでも美味しさが伝わると思います。
小日向家の面々は、誰が何味が好きか、考えていただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。
五時前にお父さんちに帰ると、姫たんもお姉ちゃんもいなくて、僕と雪はお祖父ちゃんちに行った。
茶の間に座ってテレビを見ていた姫たんが、ピースサインで迎えてくれた。
「麟太くん、雪ちゃん、姫たんやっただわよ」
「やった?」
姫たんの笑顔に釣られて微笑みながら、僕は訊いた。
「さっきからそればっかりなんだよ。なにをやったの? って訊いても、みんながそろうまでは内緒だわよって。ね、姫たん」
康お兄ちゃんが言った。
「うん。待つだわよ。そしたらみんな姫たんを褒め称えるだわよ。褒め称えずにはいられないだわよ」
姫たんに熱があったことを、僕にすっかり忘れさせた。
六時になって、お祖父ちゃん、康お兄ちゃん、お母さん、お姉ちゃん、姫たん、僕と雪は晩ご飯を食べ始めた。
お父さんが六時二十分ごろに帰ってきて、お祖父ちゃんにご飯を食べさせ終えたお母さんと一緒に晩ご飯を食べ始めた。
「みんなそろっただわね。じゃあ、聞くがいいだわよ」
姫たんはお母さんに持たされたⅠCレコーダーを取り出して、スイッチを押した。
箸を止めた食卓に、姫たんと男の子の会話が流れた。
「昨日は先生の前でいい子ぶって泣いて、嘘ついてくれてありがとうだわよ」
「なんのこと? 百円ならもう返したよ」
「なにが面白くて笑ってるだわよ」
「また殴るの? 暴力はいけないんだよ。また先生にチクって親呼び出して謝ってもらうことになるけど、いいの?」
「あんたが先に姫たんのお腹蹴ったとこ見たひと、クラスに何人もいるだわよ。みんなに証言してもらうだわよ。お金借りて長いこと返さなかったの、まだ返していないの、これが初めてじゃないっていうのも、証言してくれるひとはいるだわよ。クラスの女子だけじゃなくて、男子にも被害者はいるだわよ。ひとりに返しても、そのほかのひとに返してないんだから、嘘ついたって今度は先生にもばれるだわよ。親呼び出されて謝らなくちゃいけなくなるのは、あんただわよ」
「うるさい! 証言なんてさせるか! もしそんなことしやがったらいじめてやる。俺には六年生の兄ちゃんがいるんだ。兄ちゃんに頼んでぶっ飛ばしてもらうからな。それからお父さんに言って、証言したやつのお父さんを左遷してもらうんだ」
「どんなふうに、どうやっていじめるだわよ? あんたのお父さんに左遷させるだけの権力があるのかだわよ?」
「うるさい。こうやっていじめるんだよ」
「痛いだわよ。髪の毛引っ張らないでだわよ。やめてだわよ」
「今日の給食に、消しゴムのカス、入れてやるよ。残さないで食えよ。食べ物は粗末にしちゃいけないんだぞ。教科書に落書きもしてやる。お前が学校に来なくなるまで、いじめて、いじめて、いじめ続けてやる」
「どこ行くだわよ」
「教室に戻って、証言するやつらに言ってやるんだ」
「待つだわよ。なにを言うだわよ。なんて言うだわよ」
「俺のお父さんに言って、左遷するぞって言うんだよ。お兄ちゃんに言ってぶっ飛ばすぞって言うんだよ。俺のお父さんは偉いんだ。誰にもお前の味方なんてさせない。俺に恥をかかせたお前が悪いんだ。必ず仕返ししてやる。俺を怒らせたことを後悔させてやる。ざまあみろ、ハハハハハハ」
「待つだわよ」
「うるさい、バーカ」
姫たんはここでⅠCレコーダーを止めて言った。
「ここまでうまくいくとは思わなかっただわよ」
そして会心のピースサインをした。
「このあと、こいつがクラスに行って、みんなの前でチクったらいじめるぞって言っただわよ。ビビってる子もいたけど、姫たんなんにも怖くなんてなかっただわよ。ばあばのおかげだわよ」
「これを持って学校に行けば、モンスターペアレント扱いなんてされないでしょ」
「お母さん、偉い」
お姉ちゃんは喜んだ。
お母さんのアイディアは大成功だったわけだ。
姫たんは気が抜けたのか、大きく深呼吸した。
そして疲れたように俯いた。
僕は思い出した。
姫たんが高熱を出していたことを。
でも熱が下がったようにも見えるし、これだけ喋れたのだから大丈夫なんじゃないかとも思えた。
けれど。
姫たんは椅子から降りて、ゆっくりと歩き出した。
「姫、どうしたの? どこ行くの?」
お姉ちゃんが訊いた。
「綺麗なお花畑があるから、お花を摘みに行くだわよ」
「もしかして川も見えない?」
「見えるだわよ。なんでママわかるだわよ。ちょっと行ってくるだわよ」
「駄目! それ絶対駄目!」
お姉ちゃんが姫たんの腕をつかんで引き留めると、姫たんはそのままお姉ちゃんの膝の上に倒れこんで、お姉ちゃんが姫たんのおでこに手を当てると、その熱さに驚いた。
すぐさまかかりつけの病院に電話を入れて、お姉ちゃんと僕が姫たんを車に乗せた。
病院には十分とかからずに着いた。
駐車場に止めてなかに入ると、女性の看護師さんが待っていて、診察室に案内してくれた。
医者の
「どうしたのですか?」
の問いに、お姉ちゃんはこう答えた。
「三途の川、渡りかけました」
ICレコーダーのくだり、「そんなにうまくいくかよ」ってお思いの方、
もしもこれが実体験からくるものだったとしても、それでも否定できますか?
ああいう思考をし、弱いものにだけ強気な態度をとる輩は、
小学二年生にもいるのです。
なんか、説教臭くなってしまいましたね。すみません。
では、また。




