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第三話 僕のお姉ちゃん その二~恋と受験で困る~

久しぶりにカップ焼きそばを食べました。

美味しかったです。

でも体重計に乗るのが怖いです。

百キロカロリー以下のカップ焼きそばって無理でしょうか? 


では、どうぞ。

 そんなお姉ちゃんが、当然だけど、僕の知らないところで、恋をした。


 お姉ちゃんは大学受験に向けて、小学生のころからT大やW大などに何人も現役合格させている有名な塾に通っていたのだけど、高校生になってからはその塾をやめて家庭教師についてもらうことにした(と聞いた)。

 その家庭教師のひとは男で、現役T大生で、顔も男前で背が高く人当りもよく、おまけに(うちには負けるけど)家が金持ちなのに親のすねをかじらずに、アルバイトをしてなるべく親に負担をかけないようにするという、いやいやどうして泣かせる男なのであった。

 一見して非の打ちどころのない好青年、といった感じだった。

 僕は高梨さんと呼んでいた。


 お姉ちゃんが高校二年生のときに交際が始まった。

 高梨さんは二十一歳だった。 

 お姉ちゃんは清らかな交際を望んだ。

 お姉ちゃんには古風なところがあるのだ。

 高梨さんは受け入れた。

 高梨さんもまた恋愛に対して真面目なひとで、お父さんとお母さんもほっと安心した。


 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも、

「高梨くんはいまどき珍しい若者なんじゃないか?」

 と好感を持っていた。


 でも、僕はお姉ちゃんが高梨さんとデートなんかをするのが、面白くなかった。

 僕のお姉ちゃんを盗られた、みたいな感じがしたのだ。

 もちろん、その気持ちを悟られないようにした。

 小一の浅知恵だからバレバレだったのかもしれないけど。


 そんな気持ちを知ってか知らずか、お姉ちゃんはデートから帰ってくるたびに、僕にお菓子とか、なにかお土産を買ってきてくれた。

 それだけで僕の機嫌は直った。


 ふたりの交際はなんのトラブルもなく、順調に進んでいるようだった。

 相変わらずお姉ちゃんはラブ・レターやプレゼント(手編みのマフラーとか薄いピンクの口紅とか)なんかをもらってきた。

 バレンタイン・デーでもないのに、手作りのお菓子をもらったから、麟、一緒に食べよう、と僕を誘ってくれることもあった。

 変わったところは、あったのかもしれないけど、そのころの僕にはわからなかった。

 僕はまだ七歳だったのだ。


 大学を卒業する年になった高梨さんは、ナントカ省に勤めることが決まっていた。

 カンリョーになるんだよって言っていたけど、カンリョーがなんなのか、僕には皆目見当がつかなかった。

 ただ偉い人っぽいってことがかろうじてわかった程度だ。


 そして、高梨さんが大学を卒業する年になったってことは、お姉ちゃんが大学受験に臨む年になったってことだ。

 正直、僕にはなんのこっちゃかわからなかったけど、お父さんやお母さんの心配ぶりを見ていたら、一大事なんだろうとは思った。

 僕と遊んでくれる時間が以前より短くなったから、早く受験が終わればいいのに、と思ったことははっきり覚えている。

 馬鹿だなあと恥ずかしくなる。


 見事、お姉ちゃんは志望大学に合格した。

 もちろん、金の力なんて使ってはいない。努力の賜物だ。お父さんがあんなにニコニコしたのは、そうはない。

 僕が大学に合格したときも、同じようにニコニコしてくれた。

 実は僕は金の力に頼った……わけでは、もちろんない。

 僕だって勉強したのだ。


 お姉ちゃんが大学生になって、高梨さんがカンリョーになっても、交際は続いていた。

高梨さんが仕事をするようになってから、お姉ちゃんはよく平日の夜に出かけるようになった。

 だから、好きなバラエティー番組を見ていても、また僕は面白くなかった。

 でも楽しそうにしているお姉ちゃんを見るのは悪い気はしなかったから、僕は八歳にして矛盾というものを知った。


 お姉ちゃんが二十歳になるちょっと前、高梨さんがうちに来たのだけど、いつもとは違った。

 まず服装が違った。

 その前にうちに来たときにはジーンズにロー・カットのバスケット・シューズにTシャツの上に薄手のネルシャツを羽織っていたのに、その日はスーツにネクタイを締めていた。

 顔つきも違った。 

 見るからに緊張していた。


 僕はなにもわからずに高梨さんに挨拶をしたのだけど、こわばった顔をしていて、

 あれ? なんか変だ、

 と思った。


 高梨さんがそのままリビングに行くと、お父さんとお母さんが待っていた。

 なにかそわそわした感じなのが、子どもだった僕にもわかった。


「麟太、自分の部屋に行っていなさい」

 そう言われて、僕はただならぬものを感じ取って、わけのわからないまま自分の部屋でドキドキしていた。


 あとでわかったんだけど、高梨さんはそのときに結婚のときにやる例のあれ、つまり

「娘さんを僕に下さい」

というあれを、やったのだ。


 結婚式を挙げたのは、お姉ちゃんが二十歳になってからだった。

 大学二年生で、お姉ちゃんは幸せを手に入れた。

 ウエディング・ドレスを着たお姉ちゃんはすごく綺麗で、僕は心の底から祝福した。

 それは、高梨さんの裏の顔を知らなかったかだ。


 高梨さんと結婚してマンションを借りたお姉ちゃんたちは、新婚生活というやつを始めた。

 まだ大学生のお姉ちゃんとカンリョーになりたての高梨さんの給料だけでは生活も苦しかろうと、双方の両親が少しずつお金を出し合って、楽ができるように計らったのだ。


 お姉ちゃんがいなくなって寂しさはあったけど、僕はもう十歳だったからそんなお姉ちゃんにべったりではなくなっていた。

 でも、広くなったお父さんちに違和感はあった。

 だからお姉ちゃんが高梨さんと帰ってくると、嬉しかった。


 高梨さんは、髪を切ったからか、少し痩せたように見えた。

 でもそれは全然不健康な感じではなくて、社会人になって大人びた、と言うほうが似合っていた。


「ご両親とは、どうなの?」

 お母さんがおずおずと訊いた。

「うん。週に一回は一緒にご飯食べてる。大丈夫。ふたりともいいひとよ」

「うちのお母さんに料理教わっているんですけど、同じ食材で同じ料理工程で作っているのに、なんでか環奈さんの作る料理は一口以上、食べられないんですよ」

「それは言っちゃ駄目」

「大丈夫。知ってる」


 お母さんが言うと、みんな笑った。

 お姉ちゃんが幸せそうでよかった。

 向こうの家ともうまくいっているようでよかった。


 でもそれは、お姉ちゃんが高梨さんの実家であれを見てから、変わっていった。


 結婚してから半年が経って、お姉ちゃんは久しぶりに帰った。

 もちろん、お姉ちゃんは高梨家の家族なわけだから、高梨家に、だ。

 高梨さんも東京生まれの東京育ちで、お姉ちゃんたちが住んでいるマンションから三、四十分のところに家はある。

 これは実家に帰ったときの話だ。

いい感じで引っ張れたのではないでしょうか。

まあ、ここまでお読みいただけたらわかると思うんですけど、

サスペンスのような展開にはなりません。

「小日向さんち」の味付けです。楽しみにしていただけたら嬉しいです。


では、また。

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