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第三話 僕のお姉ちゃん その一~女子からのラブ・レターで困る~

さあ、第三話が始まります。今回スポットライトが当たるのは、

お姉ちゃんです。もちろん、小日向さんファミリーも出てきます。

どんな騒動が巻き起こるのか、起こらないのか。

楽しみにしていただけたら嬉しいです。

なんかわたし、嬉しいですっていう機会が多いですね。

でもそれがわたし。これからも言い続けますよ。


では、どうぞ。

 第三話   僕のお姉ちゃん




 お姉ちゃんと僕は十歳、年が離れている。

 僕が生まれたとき小学四年生だったおねえちゃんの僕への愛情の傾け方は、並大抵ではなかったそうだ。


 小学生でも母性というものがあるのか、それともおままごとの延長気分だったのかはわからないが、お母さんが赤ちゃんだった僕にミルクをあげようとすると、

「わたしがやる。わたしの仕事、盗らないで」

 とお母さんから哺乳瓶を奪って、怒ったそうだ。

 そして僕にミルクを飲ませて、その様をうっとりと眺めていたという。

 いまとなっては笑い話だ。

 おむつの交換も進んでしてくれたそうだし、僕が眠るまで絵本を読んでくれたり、健康な体でいられるようにとはいはいの競争も率先してやってくれたとお母さんから聞いた。


 僕が公園で遊ぶようになったとき、当然だが、その公園にはほかの子どもたちも遊んでいる。

 お母さんに連れられて来ているこどもは大丈夫だけど、子ども同士でボールを持ってきてキャッチボールやサッカーなどをしていたり、遊具を独占している親に連れられていない子どもたちは、そのころ、四歳児だった僕にとっては危険な存在だった。

 少なくとも、危害を加える小学生は、いた。


「あっち行ってろよ」

 と自分より弱い人間にしか粋がった態度を取れない腰抜け野郎のくせに、ひとりの僕に大勢で、喧嘩になっても勝てるという理由で得意になって凄みを効かせてくるタイプの馬鹿だ。


 僕が

「ぼくもブランコで遊びたい」

 と勇気を出して言うと、

「うるせえ」

 と僕はそいつらに突き飛ばされてしまった。

 僕はわんわん泣いた。

 すると、どこからともなくお姉ちゃんが走ってきて、

「麟になにすんのよ」

 と僕を突き飛ばしたやつを拳固した。


「ブランコはみんなで遊ぶもの。今度こんなことをしたらこれくらいじゃ済まないわよ」

 その小学生は泣いた。

「麟、大丈夫? もう泣かないの。お姉ちゃんと一緒にブランコ乗ろう」

 お姉ちゃんはかっこよかった。

 僕の涙は自然と止まった。

 それから笑った。


 でも、別の日にその公園に遊びに行くと、拳固された小学生が親を連れて来ていた。

 そして僕を見つけて、

「こいつ」

 と僕を指差した。その親は

「うちの子はなにも悪いことしてないのに、あんたのお姉ちゃんが殴ったんだってねえ。家はどこ? 教えなさい」

 と強要した。

 僕は怖かった。

 泣いた。

 でも絶対に言うもんかって思った。


 僕が泣くとテレパシーかなにかでつながっているのか、お姉ちゃんが走ってきた。

 拳固された小学生が言った。

「あいつだ。お母さん、あいつが僕を殴ったの」

 その親は怒って、謝りなさい、とお姉ちゃんを睨んだ。

 お姉ちゃんは一歩も引かずに睨み返した。


「あなたの子どもがブランコを独占して、いつまで待っても順番を譲らなくて、それで弟が僕もブランコで遊びたいって言ったら、あなたの子どもがうるせえって弟を突き飛ばしたんですよ。まだこんな小さな子どもを。だから叱ったんです。先に手を出したのはそっち。あなたの子どもが弟を突き飛ばして泣かすのがよくて、わたしがあなたの子どもを叱るのは駄目だなんて、そんな理屈はとおらないんじゃないですか」


 その親は

「うるせえなんて言ってないわよね? 突き飛ばしてなんてないわよね?」

 と訊いて、訊かれた小学生は

 「うん。そんなことしてない」

 と言った。

 お姉ちゃんはますます怒った。

 拳を強く握って、なにかを言おうとした、そのとき。


「あの、わたし見てました。嘘をついてるのはあなたのお子さんです。この子は嘘なんてついてはいません。あなたのお子さんがこの子に暴力振るったら、この子が来て頭叩いたんですよ」

 と助け船を出してくれたひとが現れた。

 この公園でママ友と子どもを遊ばせているひとだ。


 その親はそれでも強気に、

「うちの子はそんなことしません」

 と言っていたのだけど、ひとり、またひとりと、ママ友が来て証言してくれた。

 するとその親は顔をこわばらせて、もごもごと

「なによ、失礼なひとたち」

 とかなんとか言って、子どもを連れて帰っていった。


 お姉ちゃんが礼を言うと、いいのよ、わたしたちも迷惑していて、注意しなきゃって思ってたのと微笑んでくれた。

 お姉ちゃんは正しいことをしたのだ。


 僕は大人たちの顔を見ながら、もしあの母親がうちに来てお母さんに文句なんて言うことになったら、と思ってぞっとした。

 同時に、僕を守ろうとしてかばおうとして、あんな大人に睨まれても、ビビらずにはっきりと自分の正当性を主張したお姉ちゃんがかっこよくて、お姉ちゃんの手をぎゅっと握った。


 僕は子ども心に、自分のガキの非常識さを理解できずに説教もせずに、甘やかすのが親の愛だと思い込んでいる、大人のくせに知能の足りないひともいるんだ、気をつけなくちゃいけない、とひとつ学んだ。


 お姉ちゃんはこんなふうだから、よくラブ・レターをもらった。

 お姉ちゃんが中学生とか高校生だったころには、もう男の人は告白するときにラブ・レターを渡したりはしない(とあとで知った)。

 お姉ちゃんを好きになるひとは、放課後の教室とかで口頭で告白をしてきた。


 じゃあお姉ちゃんは誰からラブ・レターを渡されたのか?

 女のひとだ。


 バレンタイン・デーになると、たくさんのハート形のチョコレートを鞄に入れて帰ってきた。

 お姉ちゃんが部活(バスケ部だ)で試合をするときには、お姉ちゃん目当ての女のひとたちが十四、五人は応援に来ていたらしい。


「わたしに告白してくる男はチャラいのが多いし、女の子に告白されてもねえ」

 と困った顔でお姉ちゃんは笑った。

 でも捨てるのも申し訳ないからと、おねえちゃんはラブ・レターを段ボール箱に入れて取っておいた(さすがにいまは処分していると思われるが)し、チョコレートは僕にもわけてくれた。

 幼稚園児にとってチョコレートは魅惑の食べ物だから、僕がよっぽど物欲しそうな顔をしていたのかもしれない。


「お姉ちゃん、こんなに食べたら太っちゃうから。麟も虫歯にならないように、あとでちゃんと歯磨き、しようね」

うん、と僕は答えた。


 これはある日の帰り道での話。

 お姉ちゃんはスリを捕まえた。

 腕を掴まれたスリはお姉ちゃんを殴ろうとしたのだけど、お姉ちゃんはひらりとかわして、右ストレートをスリに叩き込んだのだ。

 おねえちゃんはこのあと、警察から感謝状をもらい、黄色い声援はますます増えた。

 いまにして思う。

 そりゃモテるわ。


 悪者をやっつけて、チョコレートをわけてくれて、いつだって僕に優しくしてくれるかっこいいお姉ちゃんが、僕は大好きだった。

わたしが小学生の低学年だったころ、年上のお兄さんお姉さんが、

とてもかっこよく見えました。

麟太郎から見たお姉ちゃんも、ただでさえかっこいいのに、

今話のように優しくしてもらえたら、

それはそれは輝いて見えたことと思います。


わたしもひとに優しく、自分の足跡を振り返って

胸を張れるような、そんな人間になりたいです。


では、また。

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