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第一話 僕のお父さん、とお母さん その一~きっかけは醤油~ 

おはようございます。こんにちは。こんばんは。

小町翔石です。自分で区切っておいてなんですが、

本文、少し長くないですか? もちろん、今後、短い話も

当然出てくるとは思いますが、わたしのさじ加減で大丈夫でしょうか?

と、そんなことを思いながら、今回の話を読み返した次第でございます。


では、どうぞ。

 第一話   僕のお父さん、とお母さん




 お父さん。

 僕より少し背が低くて、でも僕がどんなに背伸びしてもかなわない、大きな大きなお父さん。

 言葉数が少ないので、無口とか寡黙かもくとか、そういう性格に分類されるのだろうが、しかし口を開いたときには迷いや不安をかき消す、あるいは家族みんなを温かい気持ちにさせてくれる、もちろん他愛のないことを言うことだってある、隠し味みたいなお父さん。

 この間は、真剣な顔をして

「麟、正直に言ってくれ。お父さん、加齢臭しないか?」

 なんて言うから、僕は笑っちゃったんだ。

 げと言うから嗅いだのだが、加齢臭はしなかった。


 家族を養うために仕事に情熱を注いでいる、文字通り大黒柱のお父さん。

 お酒も飲まない、煙草も吸わない、パチンコだとかのギャンブルもやらない。

 唯一の、と言ってもいいと思うが、趣味らしい趣味は、お祖父ちゃんから手ほどきを受けたという将棋だ。

 僕も小学生の低学年のころにお父さんに教わったのだけど、小学校の将棋クラブでもそんなに強くはなかったから、お祖父ちゃんとお父さんの腕前も、それほどではないと思う。

 でも、勝ち負けよりも大切なことがあるってお父さんは言っていた。

 僕はいつだってお父さんを尊敬している。


 背は、僕が高校一年生のときに追い越したのだけど、それを知ったお父さんは嬉しそうに、でもどこか寂しそうに、笑ったんだ。

 そして

「久しぶりに頭、撫でさせてくれよ」

 と僕の頭に手を伸ばして、髪をくしゃくしゃっとしたんだ。

 よく覚えている。


 覚えていると言って思い出したのだけど、中学二年の二学期の期末テストで初めて学年で十番以内に入ったときに(八位だ)、お父さんは僕を、これまた初めて回転しないお寿司屋さんに連れて行ってくれたっけ。

 一貫千円以上のお寿司なんて食べたのは初めてで、美味しかったなあ。

 でもお父さんと大将とのやり取りで、お父さんとお母さんは僕やお姉ちゃんに内緒で何度もこのお店に来ているらしいことがわかって、あっと思ったんだ。

 それはちょっとずるいぞって。


 僕が、駄目と言われているのに家の中でおもちゃのバットを振り回して花瓶を割ってしまったときには、怒ったりなんてせずに、八歳の僕にでもわかるように蕩蕩とうとうと諭してくれた優しいお父さん。

 ……ごめん。


 いや、念のために言うけど、死んだわけじゃないよ。

 僕に物心がついてから今日まで、病気は風邪くらいしかしていないし、数年前から膝が痛い、痛いと言ってはいるけど、怪我らしい怪我もしてはいない。

 いたって元気だ。


 いまも僕の真ん前で朝ご飯を食べている。

 そのそばでお母さんがお祖父ちゃんに朝ご飯を食べさせている。

 お祖父ちゃんは介護が必要なのだ。

 だからお母さんは(ほぼ)毎日、朝と晩の二食、お祖父ちゃんが食事を終えて、うがいやらをすませて、部屋に連れて行ってから、自分の分を食べている。

 お祖父ちゃんは自分で食べようとすると、手が震えるために食べこぼしがひどく、ついには泣き出してしまうため、自宅介護を決めたときに主治医のふじ先生から指示されたのだ。

 デイサービスの利用を勧めてくれたのも、藤先生だ。


 お母さんがお祖父ちゃんの介護を始めてもう四年になる。

 もちろん、お母さんに任せっきりではない。

 僕たちだってできる範囲で手伝っているし、前述のとおりデイサービスも利用している。

 だけどやっぱり時間的に一番にお祖父ちゃんの介護をするのはお母さんになってしまうのだ。


 それでもお母さんは、少なくとも僕には疲れた顔なんて微塵みじんも見せずに、毎日毎日、家族の誰よりも元気ハツラツで生きている。

 それはやっぱり、僕に物心がついてから今日までずっと変わっていない。

 お父さんが物静かな分、より際立って見えるくらいだ。

 痩せていて小柄(といっても女性としては平均的な身長だろうけど)で、肩くらいまである髪を器用に結んでいる。


 お母さんと言えば、元気。

 その言葉がよく似合う。


 雨が降ろうが暑かろうが、毎日毎日自転車、と言ってもママチャリではなく、名車の誉れ高い、電動アシスト自転車のファミリータイプでスーパーまで行って、家族八人×三食分の食材を買い込んで、えんやこらと大きなエコバックふたつを乗せて家に帰る。掃除、洗濯もお母さんの仕事だ。


「大丈夫よ。これだけ運動してるんだから」

 

 と残ったご飯をもったいないと言って食べるお母さんは、それでも太らない。

 食べ過ぎて戻すこともない。

 僕もお姉ちゃんも姫たんも、お母さんのDNAを受け継いでいるが食は太くはないのに、お母さんだけ大食漢なのだ。

 まあ、いつまでも綺麗で若い、元気なお母さんでいてほしいから、それはそれでいいことではあるんだけどね。


 そのお母さんの運ぶスプーンに乗ったご飯を食べて、お祖父ちゃんは上機嫌だ。


「美味しいなあ。美味しいなあ」


 と満面の笑みだ。


 家族八人が座れる食卓の長テーブルの幅の狭いところにお祖父ちゃんが座っていて、左斜めにお母さんが、その隣にお父さんが、そのさらに隣には姫たんが、そしてお姉ちゃんが座っている。

 右斜めには康お兄ちゃん、その隣に僕、そして僕の隣には雪が座って朝ご飯を食べている。


 朝ご飯は、たまの外食や珍しい日を除くと、家族全員がそろって食べられる唯一の機会だから、誰が言いだしたわけでもなく、自然とみんなが大切に思うようになったのだ。

 お母さんに聞いたのだけど、お祖父ちゃんは朝ご飯のときが一番機嫌がいいそうだ。

 みんなの顔を見られるのが嬉しいのだろう、きっと。


「美味しいなあ。美味しいなあ」


 と、またお祖父ちゃんが笑って言う。

 ご飯を食べながらみんなも釣られて笑顔になる。

 お姉ちゃんが姫たんに昨日終わらせた宿題をランドセルに入れたか確認して、お父さんはお母さんに今日はいつもより遅くなるかもしれないから、そのときは電話すると報告する。

 よくある風景だ。


 僕には、安心というと違うのかもしれないが、みんなで食べる朝ご飯は、とても居心地のいい時間だ。       

 家族を見渡してみる。

 お父さんは黙々と、康お兄ちゃんはがつがつと、お姉ちゃんと雪は上品に、姫たんは一生懸命に、お祖父ちゃんはもぐもぐと食べている。

 お祖父ちゃんの口元にスプーンを運ぶお母さんはもはや達人の間で、といったところだ。

 またお祖父ちゃんが笑って言う。


「美味しいなあ。美味しいなあ」


 姫たんが箸を止めて

「お祖父ちゃん、よかっただわよ」

 と言うと、みんながお祖父ちゃんに注目する。


 お祖父ちゃんは笑って

「うん、よかった。幸せだなあ」

 と答えた。

 その言い方が、往年の銀幕スター、加川雄三のような、詩人、相田よつをのような言い方だったので、僕たちは笑いに包まれた。

 わけがわかっているのかいないのかはわからないのだが、笑っている僕たちを見て、お祖父ちゃんも楽しそうに笑った。


 僕は笑いながら、お父さんと康お兄ちゃんを見た。

 ふたりはお祖父ちゃんの子どもなわけなのだが、いまのお祖父ちゃんを見て、やっぱり心が痛んだりするのだろうか? 

 それともそれを乗り越えていまに至るのだろうか? 

 訊いてみたい気もするけど、訊いてはいけない気もするし……。

 みんなの笑い声の中で、僕の笑い声が一番に消えた。


 ひとしきり笑った後で、お姉ちゃんが

「麟、醤油しょうゆ、取って」

 と言った。

 姫たんやお祖父ちゃんが間違ってひっくり返すといけないから、醤油差しは僕と康お兄ちゃんとの前方の中間にあるのだ。

 僕は手を伸ばして「はい」と取って渡す。


 ちなみに(絶対にそうとしか呼ばないわけではないが)、お姉ちゃんは僕のことを「麟」と呼ぶ。

 康お兄ちゃんもだ。

 お祖父ちゃんは「麟太郎」とフルサイズで呼ぶ。

 お父さんとお母さんは「麟太」で、お母さんが僕を叱るときは「麟!」と呼ぶ。

 叱られると僕はいつも縮こまる。

 姫たんは「麟太くん」だ。雪は……どうだろう? 

 「麟」と「麟太郎」が同じくらいで、「麟太」はまれかな。

 僕の名前を付けたお父さんとお母さんがフルサイズで呼ばないのがなぜかはわからないのだけど、別に気にはならない。

 どの呼ばれ方も、僕は好きだ。


 でも、これから好きだなんてぬるいことを言っていられない状況になることを、当然だが、僕は知らない。

 いつもどおりの朝の食卓で、お父さんが言う。


「麟太、醤油、取ってくれるか?」


 これが大問題なのだ。これが。

なんとかエラーで前書きを書き直しました。

なんか一回目よりも下手な文章でがっかりです。

「こまめに保存せよ」を学習しました。

でもわたしのことだから、またやっちゃうんだろうなあ……。

ミスは誰にでもあるもの。みなさんがミスなさっても

小町翔石に比べたら、と力に変えていただいて、またトライしましょう。

わたしもトライします。


では、また。

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