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第二話 僕の叔父さん、康お兄ちゃん その四~みんながぞろぞろ~

康お兄ちゃんは五十代半ばの設定です。

ひとりでパンケーキ屋に入るのは少し躊躇われる年齢です。

でも康お兄ちゃんは堂々たるものです。

それだけ慣れているのです。


さて、今回明らかになる謎は、あるのか? ないのか?


では、どうぞ。

「え、ここに入るの?」

 僕は驚いた。

「悪くはないけど……」

 雪も驚いた。

「康お兄ちゃん、絶対浮いてるのに」

 お姉ちゃんは心配した。

「康お兄ちゃん、かわいいだわよ」

 姫たんは笑った。

「あいつ、こういうとこあるからなあ」

 四人同時に振り向いた。

 誰だ? 

 お父さんだ!


 お父さんは何事もなかったかのように

「康はな、昔っから女子力、意外と高いんだよ」

 と教えてくれた。


「じいじも結局、気になったんだわよ」

 そう姫たんに言われて、お父さんは

「たまには破目外すのもいいだろ。誘惑には勝てなかったんだよ」

 と照れ臭そうにしていた。


 康お兄ちゃんが入ったお店はパンケーキの専門店だった。

 若い女性とパンケーキの甘い香りが店の外にも溢れかえってきそうだ。


 店の中に入るわけにはいかないので、僕たちはいつ康お兄ちゃんが出てきてもいいように、三つ隣の靴屋さんの前で商品を手に取ったりしながら時間を潰した。

 姫たんも食べたいと言い出したので、お姉ちゃんが明日晴れたら来ようねとなだめた。

 この靴屋さんはかわいいものが好きな女性が喜びそうな商品ばかりで、女性陣で唯ひとり、姫たんが似合いそうだったので買う気もないのにサイズ違いを出してもらったりしたから、不自然ではなかったはずだ。


 十分から十五分後に、康お兄ちゃんは出てきた。

 気分のよさそうな顔をしていた。


「満腹、満足って顔だな」


 お父さんが言った。

 あんなに駄目だって言っていたのに、けっこう楽しそうだ。


 康お兄ちゃんはまたどこか、次の目的地へと歩き出し、スパイをしている僕たちも気付かれないように尾行した。

 パンケーキ屋さんの前で何かを言っていた姫たんを、お姉ちゃんが手を引いて連れてきた。


「姫たん、いまなんて言ってたの?」

 雪が訊いた。

「姫たんのお気に入りリストに入れるかもしれないだわよって言っといただわよ」


 姫たんらしい発言だと、僕は思った。

 しかし、この五分後、姫たんらしい発言の最たるものを聞くことになる。

 一分後、お父さんが訊いた。


「なあ、普段ならそろそろ飯の時間だけど、みんなお腹空かない? 姫たんは大丈夫?」

「大丈夫だわよ」


 二分後、康お兄ちゃんが立ち止まって、僕たちは慌てて隠れたのだけど、ただ空を見上げただけだった。

 太陽が沈もうとする時間になっていたと気付かされた。


 三分後、パンケーキ屋さんの通りよりもひとは減っていた。

 時間も時間だから、それも当たり前と言える。


 四分後、康お兄ちゃんは喫茶店に入った。

 道路に面した席に座ってくれたおかげで、店内の灯りで康お兄ちゃんがよく見えた。


 そして五分後、姫たんが言った。

「姫たんお腹が空いただわよ。姫たんがお腹空いたって言ったら、みんなはなにをいても食事を用意して、姫たんが暑いって言ったら、みんなは扇子かなにかで一生懸命にあおがなくちゃいけないだわよ」


 姫たん語録、追加認定。

 これぞ姫たん、いかにも姫たん。

 小学生になって減ってはきたものの、やっぱり姫たんは姫たんだ。


「姫、そういうのを我が儘って言うのよ。我が儘は駄目、わかった?」

「はい。ごめんなさい。でもお腹が減ったのはどうしようもないだわよ」

「じゃあ俺たちも飯にするか」

「みんなでご飯食べて見失ったら不味いから、二回に分けようよ。僕と雪が残るから、先にお父さんたちで食べてきてよ」


 お父さんは

「悪いな」

 と言って、お姉ちゃんと姫たんと相談してさっき前を通ったレストランにしようと決めた。


 待っている間に、康お兄ちゃんはおそらくコーヒーだと思うのだけど、それを飲みながら何度か腕時計を見た。

 待ち合わせなのかなあ?

 と雪が言った。

 どうだろう?

 と僕は答えた。


 雪が僕に向き直ってから、僕の後方に目をやったので、僕も振り返った。

 お父さんたちだ。


「レストランじゃ時間がかかりすぎるから、コンビニ弁当にしてきた。麟太と雪ちゃんのぶんと思って買ってきたんだけど、これでよかったか?」


 ナイス・アイディア。

 そしてナイス・チョイス。

 僕たちはガードレールに座って、コンビニ弁当を食べた。

 康お兄ちゃんの様子を気にしながら。


 一方の康お兄ちゃんは、自分がスパイされてるなどとは思いもしないようで、ちらちらと腕時計に目をやったりコーヒー(だと思われるもの)を飲んだりしていた。


 康お兄ちゃんが手を上げたのは、僕が牛カルビ弁当を五分の四くらいまで食べ進めたときだった。

 ウエートレスのお姉さんを呼んだのか? 

 いや、違う。

 女性がひとり、小走りで来て、康お兄ちゃんの向かいの椅子を引いたのだ。

 顔を認識できるには距離が離れてしまっていたのだが、パンツ・スーツを着ていて、髪を後ろにひとつにまとめていて、顎の輪郭がシャープな、上に見ても三十代前半くらいの女性だった。

 細身の美人ってことだ。


「誰?」

「知らないわよ」

 そりゃそうだ。お姉ちゃんに言われて、僕は恥ずかしくなった。

「康お兄ちゃんの彼女かな?」

 雪が言う。

 そうかもしれない。もしそうならそれはとてもいいことだ。

 僕が雪を見たときに目に入って、え? と思った。


「ばあさんじゃあ。ばあさんじゃあ」

「お祖父ちゃん!」

 と思わず声を出す僕。

「いや、どうしてもってきかなくて」

「お母さんも!」

 とまたもや声を出してしまう僕。

「ばあさんがおるぞ。おーい、ばあさーん」

 とお祖父ちゃんが道路を横切って喫茶店に行こうとするのを、お母さんが止めた。

「お義父さん、あのひとはお義母さんじゃありませんよ」

 お祖父ちゃんは

「そうか。そうなのか」

 とうなだれた。

「もし康の彼女だったら、ここでスパイごっこは終わりにしよう」


 お父さんの意見はもっともだ。

 挨拶を交わした康お兄ちゃんと細身の女性は、二、三言葉を交わすと、細身の女性が持っていた鞄からなにかを取り出して、康お兄ちゃんに手渡した。

 するとふたりは席を立ってお辞儀をしあって、どうやら喫茶店を出るようだった。

 僕たちは身を隠して康お兄ちゃんたちを待った。

 出てきた康お兄ちゃんたちはもう一度、二度とお辞儀をして、康お兄ちゃんが細身の女性を見送って、それから康お兄ちゃんは細身の女性とは反対方向に歩き出した。

小日向さんち、勢ぞろい。

お父さん、機転が利いていましたね。

わたしはひとの頭の良さは偏差値では測れないと思っています。

え? みんなそう思ってるって? それは失礼しました。

次回はどんな展開が待っているのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。


では、また。

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