第二話 僕の叔父さん、康お兄ちゃん その一~疑問がぐるぐる~
康お兄ちゃん、小日向家のなかでは、いちばんイレギュラーな存在です。
いちばんいじり甲斐があるキャラクターともいえます。
どんなアクションを起こすのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、どうぞ。
第二話 僕の叔父さん、康お兄ちゃん
康お兄ちゃん。
お姉ちゃんに物心がつく前から、そう呼ばれている。
だから僕が生まれる前から康お兄ちゃんは康お兄ちゃんなのだ。
ただ、改めて考えると、ふと疑問が湧く。
僕は康お兄ちゃんを
「康お兄ちゃん」
と呼んでいるけど、正確には
「康・お兄ちゃん」
なのか、それとも
「康夫・兄ちゃん」
なのか?
その答えを一度も聞かされたことがないまま、今日に至るのだ。
まあ、僕は
「康夫・兄ちゃん」
よりは
「康・お兄ちゃん」
のほうがしっくりくるから、これからも康お兄ちゃんと呼んでいこうと思う。
ちなみに、康お兄ちゃんは健康の康に夫で康夫、お父さんが丈夫の訓読みで丈夫だ。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがどんな気持ちを込めて名付けたか、よくわかる名前だ。
そのお祖父ちゃんの名前は巌で、お祖母ちゃんは富江。
お母さんは平和の和に恵まれるで和恵。
お姉ちゃんと僕は環奈と麟太郎で、姫たんはそのまんま姫、小日向姫。
雪の苗字は緒川。
お父さんとお母さんは僕とお姉ちゃんの名前を、意味よりも響きでつけたそうだ。
環奈に麟太郎、いいじゃないか。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんと康お兄ちゃんには、名前は自分たちでつけるからと、候補を言い出す前に先手を打ったそうだ。
がっかりする三人の顔が浮かんで、僕なんかは笑ってしまうのだ。
特にがっかりしたのは康お兄ちゃんだそうで、ため息をついて画数占いの本を何冊も食卓に置いたりしたらしい。
お父さんとお母さんの次は、そんな康お兄ちゃんの話だ。
お姉ちゃんは悩みや辛いことがあっても、面には出さない。
少なくとも僕の前で出したことは(滅多に)ない。
そんなお姉ちゃんが難しい顔をしている。
僕がトイレに行った帰り、なんの気なしにリビングに入ったら、テレビをつけっぱなしにして、でも目はテーブルにあって、僕がちょっと心配になるくらいの画だったから、たまらずに訊いた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
「え? なにが?」
「考え込んで」
「ああ、そのことね」
お姉ちゃんはなんでもないと言うように笑った。
僕はソファに座って
「どうかした?」
と訊いた。
お姉ちゃんは恥ずかしそうに笑って、こう言った。
「気になるのよ。気になるの。すっごく気になるのよ! 康お兄ちゃん」
「康お兄ちゃん? がどうしたの?」
お姉ちゃんは静かに話し出した。
でもそれは怪談噺の名人が、巧みな話術で聞き手を自分の世界に誘って恐怖させて、最後の最後で悲鳴を上げさせるような話し方で、僕は聞き終えたときにはたくらみに引き込まれていた。
そこに雪が来て、お姉ちゃんは雪にも話した。
言わずもがな、雪もたくらみに引き込まれた。
そのたくらみとは。
お姉ちゃんは康お兄ちゃんの休日の過ごし方が気になるのだそうだ。
それを知るため、お姉ちゃんは尾行する、ではなくスパイする、という言葉をチョイスした。
「だってわたしたち、康お兄ちゃんのことをよく知ってるようで、なにも知らないじゃない。知りたいと思うでしょ? それが家族ってもんでしょ?」
すっかり洗脳された(というと言葉が悪いし、お姉ちゃんにも悪いけど)僕と雪は、そうだそうだとお姉ちゃんに同意した。
「康お兄ちゃんが出かけたら、こっそりスパイして、康お兄ちゃんの知られざる素顔を知るのよ。いまがそのときよ」
康お兄ちゃんの行動パターンは、僕たちが休みの日のときの過ごし方で、少しは知っている。
康お兄ちゃんの一日は午後三時半ごろに始まる。
だから、我が家で一番早起きなのは雪だ。
話を戻す。
でも、少ししか知らないのだ。
だから僕たちは少しでも多くの情報が欲しくて、お母さんに話を聞いた。
お母さん曰く。
「起きてくるのは大体三時半くらいね。寝坊しても三時五十分っていうのはないわね。四時ごろ外出して、うちでご飯食べるときには、そうねえ、五時半くらいには帰ってきてシャワー浴びるわね。で、六時にご飯でしょ」
「外で晩ご飯食べるときって、いつですか? 週に何回とか、何曜日とか、決まってるんですか?」
雪が口をはさんだ。
「ううん。決まってないわ」
「六時のご飯のあとは?」
僕が訊いた。
「晩ご飯食べてからは七時半まで、くらいかなあ、部屋でレコード聞いたり。どっかに出かけたり」
「どこに出かけてるのかは、訊いたことないの?」
今度はお姉ちゃんが口をはさんだ。
「ないわよ。康くんの歳、考えなさいよ。いちいち行き先言わないのなんて、当たり前じゃないの。わたしだって聞かないわよ」
「そこが知りたいのに」
お姉ちゃんがじれったそうに言った。
「それで?」
と僕が続きを急かした。
「その辺からはあなたも知ってるとおりよ。八時に間に合うように自転車乗って仕事に出かけて、五時二十分、三十分くらいかな。帰ってくる。新聞読んで朝ご飯食べてお風呂入って、寝るって言って自分の部屋に行くのは、八時過ぎね」
お姉ちゃんが言う。
「結局は謎のままだ」
「謎って、なにが?」
話しの前後の関係で、わたしとしては短めな話になりました。
みなさんはどう思いましたか? 短かったですか? それとも
これくらいでちょうどいい、と好感を持ってくださいましたか?
まだまだ未熟なわたしはアドバイスを求めずにはいられないのです。
育成ゲームのノリで、わたしを成長させてみるのはいかがでしょうか?
うざいですか?
では、また。




