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第一話 お父さん、とお母さん その十~素敵な結婚式~

テレビでは毎日のように暗いニュースが流れていますが、

せめてこの話を読んでいる間だけでも、幸せな気持ちになれますように。

そんな気持ちで書きました。


では、どうぞ。

 拍手と歓声のなかを、お父さんは歩いた。

 お父さんがお母さんに並ぶと、ふたりは目を合わせて笑った。

 照れているのだ。


「ふたりが結婚してもう三十年以上が経った。子宝にも恵まれて、いまはもう立派に育った。ふたりともとてもいい子じゃ。それもこれも、ふたりが愛情たっぷりに育てたからだと、儂は思う。両家がそろって新郎と新婦、というにはいささか年を取ってはおるが、ふたりを祝う。こんな日が来るとは思わなんだ。儂ゃ嬉しい」


 感極まったお祖父ちゃんの眼から大粒の涙がこぼれた。

 鼻を啜ってから、お祖父ちゃんは続けた。

 でも、


「おぼえばあのび(思えばあの日)、ずずっ、どっくびあいに(取っ組み合いに)うええーん。取っ組み合いに、なる、く、くらいに喧嘩じで、ううう、ずずっ」


 となにを言っているのかわからなくなってきたので、康お兄ちゃんが


「お父さん、もう最後の言葉でいいよ」


 と促した。

 お祖父ちゃん神父はやっとのことで気を取り直して


「永遠に愛し続けることを誓いますか?」


 と、五日間、僕と考えた結びの言葉を言った。

 ありきたりかなあ? でも、これが一番落ち着くと思わんか? 

 そう相談してきたので、いいと思うよ、と僕は答えた。

 僕は声を大にして言いたい。

 ベタだけど、だからなんだ。

 すごく優しい言葉じゃないか。


 まずお父さんが、そしてお母さんが「誓います」と大広間に響かせた。

 お祖父ちゃんが拍手して、みんなに広まって、見つめ合った父さんとお母さんは、そっと口づけをしたんだ。


「素敵だわよ。素敵だわよ」


 泣きながら姫たんが言った。

 姫たんは間違いなくお祖父ちゃんの血を引いている。

 雪も感動して、指で涙を拭った。

 僕は涙こそこぼさなかったものの、やっぱりジンとくるものはあった。

 お姉ちゃんも康お兄ちゃんも同じらしかった。

 強く拍手して、笑顔だった。


 唇を離すと、お父さんはガッツ・ポーズをして来客に目をやった。

 そして瞬きをした。


 お父さんの視線の先には、お母さんの弟がいた。

 手にふたつの遺影を抱えていた。

 お父さんが恭しく頭を下げて、お母さんの弟も返礼した。

 お父さんもお母さんの弟も大人だ。

 言葉はいらないんだ。

 拍手が静まると、お父さんが言った。


「結婚して三十年以上経って、こんなに素晴らしい式を挙げられるなんて、思ってもいませんでした。みなさまにお集まりいただけて、そしてこんなにも祝福していただけて、本当に幸せです。ありがとうございます。わたしたちは、ずっと幸せでしたけど、これからいままで以上に幸せになれると思います。というか、いままで以上に幸せになります。絶対に。ですが、幸せには、わたしたちふたりの力だけではなれません。ここにいる方々、ここにはいないけれど祝ってくださる方々のお力添えがあって、初めてなれるものだと思っています。ですので、これからもわたしたちふたり、いや、わたしたち家族を見守っていただけたら嬉しいです」


 ちょうど十人の参列者と神父役のお祖父ちゃんから拍手が巻き起こって、赤い絨毯を歩くお父さんとお母さんに、お姉ちゃんと姫たんが切った色とりどりのハート形の折り紙のシャワーが降りかかった。

 

 そこにはたしかに「愛」があった。


 襖の前まで行くと、お父さんとお母さんは向き直って、お辞儀をした。

 また拍手が起こった。

 それと一緒に「おめでとう」とか「お父さん、かっこいい。お母さん、綺麗だよ」とか、「うえーん」というお祖父ちゃんの泣き声とかがごちゃ混ぜになった歓声が投げかけられた。

 康お兄ちゃんが言った。


「みなさん、新郎新婦はこれから普段着に着替えますんで、我々も堅っ苦しいのはひと先ず横に置いて、向こうで新郎新婦を待って、それからみんなで食事をしましょう」


 雪がお母さんの着替えの手伝いのために一緒に退席して、僕がおじいちゃんを着替えさせるためにお祖父ちゃんの部屋に行った。

 残った康お兄ちゃんとお姉ちゃんと姫たんは、お母さんの弟とその家族を茶の間に案内して、談笑なんかをしているはずだ。

 お祖父ちゃんちの茶の間のキャパシティーは七人でも余裕があるのだ。


 僕とお祖父ちゃんがそこに行ったときには、お父さんとお母さんはまだ着替え中のようだった。

 恥ずかしい話だが、僕は初めて会った(正確には初めて会ったのは一時間半ほど前だが)叔父に、どんな顔をして接すればいいのかわからなくて、今日はお越しくださってありがとうございましたと、いやにかしこまったしゃべり方をしてしまって、康お兄ちゃんに「固い、固い」と笑われてしまった。

 

 叔父の子ども、つまりは従兄妹とも当然初対面で、ふたりとも年上だった。

 六つ上と三つ上だ。

 上のほうは結婚もしていて、二歳になる女の子もいた。

 気に入ったのか、手にハート形に切られた折り紙を持っていた。

 どう接すればいいのかわからないのは向こうも同じだったようで、ぎくしゃくという音が聞こえそうに話をしていると


「麟太くん、うぶだわよ」


 と姫たんが笑って、それで場が和んだ。


 着替えをすませたお父さんとお母さんが来て、みんなで台所に移動してお寿司とピザを食べた。

 きっといまごろは、日本中のたくさんの家庭で、テレビなんか見ながらのんびりとくつろいでいる。

 それはなんの変哲もない日常なのだろう。

 けど、我が家にとっては、歴史的な夜になった。


「麟、朝だよ」


 雪の声が真っ暗闇から僕を引っ張り上げて、僕は目を開いた。

 いつもどおりの六時を十分かそこら回って、ウイニング・ランのような余韻を残したあとに、だ。


 昨日は結局、十時過ぎくらいまで話し込んだ。

 二歳になる女の子が眠るまで、だ。

 別れ際に、お父さんと叔父さん(お母さんの弟のほう)が、スマホの番号を交換した。

「今度はぜひうちに遊びに来てください」

 そう言って叔父さん家族は帰っていった。


 僕はベッドを出て、することをしてから、お祖父ちゃんちに行った。

 お母さんと雪は食卓の椅子に座ってテレビを見ていた。


「どうしたの? 朝ご飯は?」

「昨日のお寿司とピザが残ってるから、今日はそれが朝ご飯」


 うちは金持ちだが、もったいないことはしない。


「たまには楽したっていいでしょ?」

 と雪が笑い、お母さんが

「あとでちょっとしたおかず、つくるわよ。時間見て」

 と付け足した。


 僕も自分の席に座ってテレビを見ることにした。

 お祖父ちゃんは美味しそうにお茶を飲んでいる。

 お父さんと康おにいちゃんは新聞を読んでいる。

 もうすぐ姫たんが来る。

 お姉ちゃんと一緒に。


 しばらくすると宣言どおり、お母さんは席を立った。

 雪も追随して、ピザをレンジで温めたり、お寿司を冷蔵庫から出したりした。

 すぐに朝ご飯だ。

 食卓には、お寿司とピザとサンドイッチが並んだ。


 全員でいただきますを言って、手を伸ばした。


「俺は朝からピザは無理だな」


 そう言って、お父さんはお寿司を皿に取った。

 そして……。


「康、醤油取ってくれるか?」


 一瞬、時が止まる。

 お母さんとお姉ちゃんと姫たんと雪と僕は、それぞれがそれぞれと目を合わせた。

 表情が驚きから笑顔に変わった。


「はい」


 と康お兄ちゃんが醤油差しを差し出した。

 受け取ったお父さんが皿に醤油を差して、康お兄ちゃんに返す。

 康お兄ちゃんが醤油を定位置に置く。

 お父さんがお寿司を食べて、康お兄ちゃんがシーフード・ピザにかぶりつく。

 止まった時が動き出す。


「わあーっはっはっはっ」

「お義父さん、何笑ってるんですか?」

 そういうお母さんも笑っている。

「儂ゃいますぐに晩ご飯が食べたい」

「晩ご飯は夜まで我慢してください。お寿司とサンドイッチ、どっちがいいですか?」


 無理を言うお祖父ちゃんにみんなが笑った。

 やっぱりこうでなくちゃね。


次回から第二話が始まります。

みなさんは第一話にどのような感想を持たれましたか?

お聞かせいただけたらとても嬉しいです。

面白いと思っていただけたなら、とてもとても嬉しいです。

いやらしいことを言うことになってしまうかもしれないので、

幸せな気持ちのまま読了したい方はここから先は読まないでください。





でもこれを書いている現在、ゼロポイントです。

ポイント、欲しいです。自分で言ったら感じ悪いですか?

でもポイントをいただけたらとてもとてもとても嬉しいんです。

ポイントをもらえるように、より多くの人にお読みいただけるように頑張ります。


では、また。

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