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はじめに 

ほとんどの方が初めましてだと思いますので、まず自己紹介を。

はじめまして。小町翔石です。

このたびは興味を持ってくださりありがとうございます。

毎朝、できれば七時二十分を過ぎたあたりで更新したいと思っているのですが、

できなかったらごめんなさい。

さあ、始まります、「小日向さんち」。

楽しみにしていただけて、そして面白いなんて感想をいただけたら

それ以上に嬉しいことはめったにないです。

つまらないと思った方にも、どこがつまらなかったかの

ご指摘をいただけたら、今後に活かして精進するつもりです。

頑張ります。頑張ってます。頑張りました。

それでは、よろしくお願いします。

 はじめに




 窓を開けて、よく晴れた五月の心地よく薫る風を浴びながらあくびなんかをしてしまうと、はからずもこんな独り言が口をついて出る。


「ああ、金持ちの家に生まれてほんっとうによかった」


 僕はつくづくそう思う。

 自分の家の坪数をことあるごとに話題にするような、そんな人間は僕の家族にはひとりもいないし、小学校の社会科の授業で宿題として出されたときにいたのがもう十年以上も前なので正確に覚えてはいないが、たしか三千坪、だったはずだ。

 これが田舎なら、まだそんなには珍しくない話かもしれないが、どこでもない、都内の一等地、中目黒に、だ。

 ぴんとこない人もいらっしゃるだろうから付け加えると、一坪五百万はくだらない、と言えばそのすごさがわかるでしょう? 

 この家は、お祖父ちゃんのお祖父ちゃんの、そのまたお祖父ちゃんが買った土地に建てた家だと、なにかの折に聞いたことがある。

 たぶんそのとき、日本の元号はまだ明治だったはずだ。


 いつだったな? 


 そう頭をひねってなんとか思い出そうとする。

 時間が過ぎる。

 僕は記憶の糸を手繰り寄せる。

 そうして、たどり着いた。

 そう、僕が幼稚園児だったときに、お祖父ちゃんの膝の上で聞いたんだった。


 どれくらいかはわからないけど、今より地価が格段に安かったのは、わかる。

 でも、それでも東京に三千坪の土地を買えるだけの財力をもっていたのだから、お祖父ちゃんのお祖父ちゃんのそのまたお祖父ちゃんも、けっこうなやり手だ。

 やり手だし、先見の明を持った切れ者でも、ある。

 そのことを思い、僕は深く感謝する。

 でも、その財力がどこから生まれたのかは、訊きそびれてしまったか、忘れてしまったか、記憶にない。

 だから感謝すると同時に、申し訳なくも思う。

 いまからお祖父ちゃんに訊いてみても、納得のいく答えは返っては来ないだろう。

 お父さんは知っているのだろうか? 

 まあ、訊くほど知りたいわけでもないのだけど。


 お祖父ちゃんが子どものころには住み込みのお手伝いさんなんかが何人もいて、お祖父ちゃんと妹三人、弟ひとりはよく面倒を看てもらっていたそうだ。

 僕はいかにも昔の金持ちらしい話だと、思い出すたびになんだか可笑しくなる。


 もちろん、上には上がいる。

 僕の家は金持ちランクの十点満点で七点か、八点かってところだろう。

 いや、六点かもしれない。

 であったとしても、金持ちであることに変わりはないのだが。

 なにしろ、中目黒に三千坪だ。


 その三千坪の中に、お祖父ちゃんとお父さんとお母さんとやすお兄ちゃんが住んでいる、お祖父ちゃんのお祖父ちゃんのそのまたお祖父ちゃんが建てたひとつ目の家(お祖父ちゃんち)があり、いまは僕とお姉ちゃんとお姉ちゃんの子どものひめたんと、僕の恋人のゆきの四人で住んでいる、お父さんたちが結婚したときに建てたふたつ目の家(お父さんち)がある。

 

 お祖父ちゃんちは関東大震災で被災したときと、老朽化が見られ始めた築六十年が経ったころの二度、リフォームしたらしい。

 あの東京大空襲は、まったくの無傷ってわけではなかったらしいが、奇跡的に難を逃れたそうだ。

 リフォームをしても古民家のおもむきがあるのは、お祖父ちゃんのこだわりだと聞いたことがある。

 庭には池があり、錦鯉が泳いでいて、家が建てられたときに植樹された桜の木々は、もう樹齢が百年を超えている。

 だからお祖父ちゃんちに古民家の趣があるのも、納得がいくのだ。

 春にはそれは見事に花を咲かせるのだ。

 今年もみんなで桜の木の下で楽しい時間を過ごさせてもらった。


 しかし、だからお父さんちもそうなのかといったら、そうではない。

 どこからどこまでが洋風建築というのかがわからないのでなんとも言えないが、少なくとも和風ではない。

 モダンだ。

 しかしのしかし、純和風である庭の景観が損なわれないようにと建築家の先生が苦心して設計したらしく、お祖父ちゃんちを見て、庭を見て、首を巡らせてお父さんちを見ても、なんの違和感もない。

 三階建ての、瀟洒しょうしゃな家だ。

 金持ち感、てんこ盛りだ。


 しかし。

 しかし、だ。僕たち一家に金に飽かして遊びほうけるような馬鹿はいない。

 これは重要なポイントだ。

 無駄な出費などしない。

 十円単位で節約し、慎ましく生活する。

 当然、お金は貯まる一方だ。


 もちろん、みんなで夜な夜な貯金通帳を広げて笑いをかみ殺したり、肩を叩き合ったりなんてしてはいない。

 財産は代々引き継いできたもの、そして引き継いでいくもので、贅沢ぜいたくをするためのものではないという共通認識が、うちにはあるのだ。

 だから、これから生まれてくるであろう僕の孫が、病気かなにかで一生働けなくなったとしても不自由しないくらいのたくわえは、ある。


 では、使うときはどうか? 

 そのときは金に糸目はつけない。

 だもんで笑いが止まらない。

 一種のご褒美のようなものだと、僕は思っている。

 清く正しい我が家族がご先祖様からもらえるご褒美。

 もしくは……、なんだろう? 

 お小遣いというには額が大きいし。

 僕は車の若葉マークがとれた記念にと、三千万の現金をもらった。

 変な言葉になってしまうが、お大遣いだ。「こ」ではなく「だ」。

 なんだか、金持ちですみませんと言いたくなる気分だ。


 お父さんは新車をプレゼントしようと思ったそうだが、僕が車より欲しいものがあるかもしれないとお母さんに言われ、たしかにそうかと考えを改めたと言っていた。

 でも、これを日常だとは思わないでほしいのだ。

 こんなことは人生で初めてで、きっと、この先にもそう何度とはないような出来事だ。


 僕はもちろん全額を貯金して、雪との将来のための資金にした。

 車はいまでも中古で買った国産車だ。

 十万キロを走るまでは、買い替えるつもりはない。

 

 自慢に聞こえた? 

 嫌味に映った? 

 いやいや、僕にはそんなつもりはないのだ。

 誤解を解いてもらいたい。

 いまのエピソードは何気ない独り言が発端のお金の話だけど、金持ちであることを悦っているのではなく、何事にもこういう風なぼくと僕の家族の側面を、お金を例に挙げて話しているのだとわかってもらえると嬉しい。


 ……ちょっぴりの優越感は、持ってはいるけどね。


 僕はぐっと背伸びをした。

 お父さんちの三階からの眺望は、かなり気に入っている。

 庭から目を上げれば、当然のようにアパートやらマンションやら他人ひとんちがぎゅうぎゅうとしているさまが目に飛び込んでくるのだが、それが東京の住宅街の眺望なのだし、

「こんなにも大勢の人たちが生きている。毎日を送っている」

 という命の息吹が感じられて、僕の心はなぜだか、ときに強く、揺さぶられてしまうのだ。

 それが夕暮れだったり、夜明けだったりしたら尚更だ。


 まあ、いまみたいにまったくなんとも思わない日も、あるっちゃある。


 また庭に目を移す。

 風が頬を撫でる。

 そうしてすっきりとした気持ちで窓辺でくつろいでいると、

 「りーんー」

 と階下から僕を呼ぶ声がする。

 雪だ。

 トットットという小気味のいい足音が近づいてきて、僕は窓を閉める。

 ドアを開けて雪を迎える。


「終わった?」

 髪を揺らせて僕の顔を覗き込む雪は、かわいい。

「うん。終わった」


 僕は自然と笑顔になる。

 雪と話すときは、大概いつでもそうだ。

 ふと疑問に思い、なぜなのか、癖というのか、条件反射というのか、それともまた別のなにかなのかと、考えたことがあるのだけど、考え込んだ末に出た答えは「好きだから」だった。

 それもちょっとやそっとではなく、「好きで好きでたまらないから。世界で一番好きだから。好きすぎて雪の電話を盗聴しているくらいだから(それは嘘)」だった。

 つまりはみっつ目だ。

 惚気のろけととっていただいても結構だ。

 というか、それくらいに好きになれる、好きにさせる、そんな女性なのだ、雪は。


「お義母さんがたい焼き、買ってきたんだって。食べようよ」


 僕は肯いて、雪の後について階段を下りた。


 これからお付き合いいただくのは、僕と僕の家族の物語だ。

 だから、伝記として後世に語り継がれるような偉人も、子どもたちが目を輝かせるようなかっこいいヒーローも、出て来やしない。

 単なる、東京のどこかにいるある家族の物語だ。

 退屈に思われる方がいらっしゃるかもしれないのだが、他人の家のあれやこれやを覗き見するまたとない機会だと思えば、少しは興味も湧いては来ませんか?

いかがでしたか? これからの話に興味を持っていただけたら最高です。

「あんまり面白そうじゃねえなあ」なんて感想を持たれた方も

当然いらっしゃると思います。そういう方にも「お、面白いじゃん」

なんて思っていただけるように頑張っていきます。今後に期待していただけたら

嬉しいです。


では、また。


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