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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

幽霊のD君と友達の梓月くん

幽霊の友達に触れたいと願ったら、肉塊が家に届きました

作者: 六二三

 梓月はある夜、幽霊である親友に向かって泣き縋った。


「なあ、どうか生き返って欲しい」


 叶わぬ願いだとは分かっていながら、交通事故で他界したもう触れられないD君のことが忘れられなかった。また、共に学校に通って周りから身を潜めて秘密基地の空き教室で遊んでいたかった。あの時のように一緒に馬鹿騒ぎをして笑い合いたかった。しかし、それは二度と叶わないことだと悟っているため、涙を流すしかなかった。


「お願いだから、もう一度だけで良いから会いに来てくれよ」


 D君に会いたいと願うほど、D君の死を受け入れたくないという想いが強くなっていった。それから数日して、部屋にブランケットの塊が現れた。恐る恐るその塊に触れると、温かく、鼓動していた。


「あぁ、D君が帰って来たんだ……」


 しかし、この世にD君が帰って来るはずがないのだ。きっと幻覚なのだろう。それでも、D君との再会に喜びを隠しきれなかった。しかし、捲った中に居たのは、肉塊であった。思わず後ずさりしてしまう程、醜い姿でそこにあった。


「どうして……?」


 梓月は嬉しさよりも恐怖の方が勝ってしまった。親友だとしても、視界に入れることを拒んでしまう。


「生き返って欲しいって、言ったから」


 生前と変わらない健気な態度に畏怖の視線を向けてしまったことを恥じた。この状態でも尚、愛してくれているD君のことが信じられなかった。どうして自分のことを叱っても恨んでもくれないのだろう。


「なんでお前は俺なんかのことが好きになったんだよ」


 肉塊であるD君の体を抱きしめながら、「俺は生きていて良いのだろうか」「俺が死んだ方が良かったんじゃないのかな」と思い悩んだ。結局口から出たのは、「ごめん、ごめんなあ」と情けなく謝る言葉だけだった。


 D君との生活が始まったものの、相変わらず部屋の中で過ごすだけだった。D君と一緒に居ることで、次第に心を許していった。しかし、時折、D君が自分のことを嫌いになってくれないかという期待を抱くようになった。彼が許してくれてばかりだから、梓月の罪悪感は膨張し息が詰まりそうになった。


 ◆◆◆


 ある日、D君と散歩をしていた時、猫の死骸を見つけた。その死体の近くにダンボールがあり、そこに「拾ってくれ」と書かれた紙があった。


「可愛いね」

「……」

「梓月くん、名前何にする?」


 D君は真っ直ぐにそう話す。彼は嘘も冗談も下手だが、普段ならこんなに堂々としていないはずだ。


「D君、やっぱり戻してこよう」

「えっ、どうしてそんなことするの! 可哀想だよ」


 D君は、せっかく拾った猫をまた野晒にするなんて、と猫の死骸を抱く。


「でも、それじゃあ俺たちが捕まるよ」

「なんで? 僕ら何も悪いことしてないよ?」


 梓月は何も言えなくなった。D君の価値観が明らかにズレてきている。いずれ、俺のことも分からなくなるのではないかと思うと、恐ろしくなった。


 ◆◆◆


 それから数日後、隣に住む人が通報したのか、警察が来た。

「近隣住民の方から苦情が来ています。部屋を見させていただいてもいいですか?」


 ドアの向こうから聞こえる声に寒気がした。D君は猫を落ち着かせようと優しく撫でていたが、D君それは鳴く心配もないし、ただ腐った肉が汁を吹き出す不快な音だけしかしないんだよ、などと人間からの意見は心に封じ込めた。息を潜めて、足音が去っていったのを聞くと、梓月はこれからのことを必死に考えていた。しかし、何度考えても同じ結果にしか辿り着かないのだ。D君の方を見ると、梓月くんに任せるよといったいつも通りのお人好しでため息が出た。


 ◆◆◆


 警察が来た日の夜に、散歩をしようとD君を背負って外に出た。この肉塊の重さも慣れてきた。今の姿のD君のことを見られた時に、D君が他人から罵られるのが怖かったから、家には帰らないことにした。


「梓月くん、夜は温かいね」

「涼しいよ」

「えー、嘘だあ」


 本当なんだよ。俺たちの感覚じゃ日が落ちて風が吹く夜は涼しいんだ。


「D君って、俺のことどう見えてる?」

「え、なに? イケメンとか?」

「馬鹿」


 茶化す言葉を一蹴りすると、分かってるでしょともう一度問う。


「僕、周りが怖くて見られなくなったんだ。

 きっと人のはずなのに、赤くて溶けた肉しか見えなくて」

「俺は?」

「友達だから」


 そう微笑んだのか、D君の肉が地面に落ちる。言葉を聞いて堪忍袋の緒が切れた梓月は怒鳴る。


「いつまでも俺のことばかり優先して、

 鬱陶しい、そういう所が嫌いなんだ!」

「……え? ご、ごめん!」

「そんな姿になっても俺の心配ばかりして、

 いつまで他人に謝ってばかりなんだ?」

「だめなの? 僕は梓月君が会いたいって言うから……」

「だからってそんな姿になってまでも会いに来るな! 

 もう、俺に関わるなよ! 

 お前はこのまま生まれ変わって幸せになれたはずだろ!」

「違う、だって、梓月くんのおかげで僕は学校が楽しくなってきたばかりなんだよ……! 

 いじめから庇ってくれたあの時から……!」

「なあ、どうか終わりにして欲しい。俺が悪かったんだ、あんなことを願ったから、お前と仲良くしたから、一緒に歩いてたから!」


 河川敷へ続く階段を駆け下りていくと、足跡のように肉片が草むらに落ちていった。


「僕、梓月くんのことが大好きなんだ、友達としてじゃない、人として愛している。だから、こんな姿になっても会いに来たし、また友達になりたいって思ってる。だから、そんな悲しいこと言わないでよ!」

「俺はお前のことなんか嫌いだ! 早く居なくなれ! 

 ……気持ち悪い! 気持ち悪い!」


 梓月はD君を川へ突き落とすと、D君は呆気なく水と同化して流れ、二度目の死を迎えた。罵った時のD君の弱っていく姿が辛かった。


 本音ではそんなこと思っていないのだ。二度と、自分に会いに来ないようにさせたかった。D君は、自分には勿体ないほどの人間だったのに、自分と関わってしまったせいで、事故に巻き込まれ、そして今回のように肉片になってまで会いに来てしまったのだ。


 D君には未練なく、自分のことなんて忘れて二度目の死を迎えて欲しかった。自分の気持ちの整理をつけたかったエゴだ。D君に許されたくなかった。責めて恨んで、罵って欲しかった。無条件に許されて愛を与えられることが不安で怖かった。


 D君の悲しくこちらを見ながら落ちていく姿を思い出すと、涙が止まらなくなる。川の傍で泣き崩れる梓月は、足元に落ちた肉片に気づくと、グチャりと音を立てて触れた。俺は何度君を傷つけたら気が済むんだろう。最後まで上手く出来なかった、彼は本当に自分のことを嫌っただろうか。重い体を引きづって家に帰ると猫の死体だけが残されていた。


「どうしようか」

 この猫も、俺も。

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