第7話 新たな目覚め
「ん…?」
眩しい。この明るさはなんなのだろう。
だんだんと体に力が入り、痛む脚に力を込めて立ち上がった。
「どうして?私、死んだはずじゃ…。」
わからない。切られたはずの場所は元に戻り、傷跡1つ残っていない。
わからない。足にしっかりと力が入り、かすかな風も感じられている。
わからない。ここが何処なのか、今はいつなのか。
混乱した頭の中、私はすっかり身についたスキル、ステータス確認を使う。
私は何か、情報が欲しかった。
ステータス
【名前】菅澤 彩郁
【種族レベル】人族Lv.14(+4)/100
【スキルセンス】(ユニーク) (ベター) 闇属性魔法 再生
【称号センス】 恋愛小説家 逆賊
【スキル】(ユニーク)変身 擬態 好感度チェック能力 休眠(新スキル)(ベター)キーボード操作Lv.2(−2) ステータス確認Lv.9(+8) 雑魚寝Lv.3(新スキル)
【称号】元勇者パーティーの一員 恋愛妄想家 ニート 放浪者
【総合戦闘能力】218(+20)
色々変わっているところはあるが、総合戦闘能力と種族レベルは討伐の旅の中で上がったものの分とあまり変わっていない。
ただ、この時私はほとんど歩いているだけだったが。それよりも新スキルを確認しよう。
雑魚寝…はいいとして、重要なのは休眠。どういうスキルかいまいちわからないけど、多分休んでいるうちにけがを治すとかそういうものだろう。そうでないと私が今ここにいる説明がつかない。
ステータスを見ていてわかることはそれぐらいか。
わたしはステータスプレートを閉じた。
その時、お腹がくぅーっと音をたてた。
…とりあえず、お腹減った。
何か食べ物はないかな…?
2時間後〜
「何にもない!」
探せど探せど、見つかるのは毒キノコや虫のついた死骸のようなもの。
目がくらみそうな空腹で、またおなかの虫が鳴き始める。
おそらく、ここが魔族領だったせいだろう。
魔族は毒のようなものを好んで食べると聞いた気がする。
それとも、私の探し方が悪いのか。いや、十中八九私の探し方が悪いのだけど。
…それはそれとして、理由などなんでもいい。
このままだとせっかく復活したのに何も出来ずに死んでしまう。
それも、餓死で。私は一生懸命になって探し続けた。
そして、そこから更に5時間後。
「やっぱり何も見つからない〜〜!」
本当に見つからない。もしかして、この森には何も食べ物はないのではないか。
少なくとも川、または食べられる草系統の何かがあればいいのに。
もう暗くなってきてしまった。私は疲れて地べたに座り込み、いつの間にか寝てしまった。
そして、朝になり、
「んん…!!」
目を覚ましたら、猫が私を舐め回していた。
痛い!痛すぎる!猫の舌はザラザラしていると聞いたが、ここまでではないと思う。
それなのにノコギリを押し付けられたかの様な激痛が私を襲った。
しかも、口の中はとても臭い。納豆とりんごを混ぜた様な匂い。とにかくとても臭い。
とてもじゃないが嗅いではいられない。
私は急いで猫から離れようとしたが、猫は全体重を私の。半身にかけて私の顔をなめ、口臭を浴びせている。
それは非力な私には到底起き上がることができないものだ。私が猫をどかそうと動き始めたとき、猫は私が起きたことに気づいたのか、私が起き上がるより早く離れ、私の前に何かを運んできた。
それは、りんご?に似た丸い食べ物だった。匂いは猫の口の中の匂いにそっくり、いや全く同じだった。多分、猫の口臭は好みを食べすぎたことによってついたものだろう。
私は臭いに閉口しながらも、襲いかかる強烈な空腹に負けて、それに口をつけた。とても臭かったが2日ぶりに食べるご飯はとても美味しく感じた。
その間、猫は丸まって私の様子を見守っていた。
私が食べ終わると猫は急に走り出し、あわててその後を追いかけると
小さな澄んだ小川があった。やっぱりそこでも猫は私を見守り、私は手ですくって水を飲んだ。
美味しい。私は夢中でその水を飲み始めた。
私が飲み終わると、猫は疲れたのか、寝ているようだった。
私はふと思う。この猫はなぜ私に食べ物をくれるのだろう。
理由は色々考えられる。たとえば、人間に守ってもらった方が安全だから…とか、
元が飼い猫だから…とか。まぁ考えても仕方ないか。
とりあえずいつの間にか周りにたくさん置かれていたご飯を食べきって、
猫が起きるのを待った。
しばらくして起きた猫に
「なんであなたは私にご飯をくれたの?」
と聞くと、
猫はおもむろに爪で文字を書きだした。この世界にないはずの日本語で。
俺が君のおじさんだからさ、と。
私はすこしばかりあっけに取られていたが、その言葉の意味を理解し、もう一度問うた。
「本当に私のおじさん?」
猫はこくんと頷く。
私は吹き出した。
あの、おじさんである。いつも格好付けていて、意外とさみしがり屋で、大の猫嫌いで、ねずみ年生まれのあのおじさんが…である。
そんな楽しいことはない。私はひとしきり笑った。
そういえば、こっちに来てから始めて笑ったかも。
そんなことを思っていると、
私は急にぐっと涙が込み上げてきた。
あの死んじゃった人たちも、いい人だったよね。
でも、あの人たちはもういないんだ…思考はぐるぐると回って、私は体を震わせながら、泣きじゃくっている。そんな私を猫、いやおじさんが背中をさすって慰めてくれる。その痛い爪は肉球にしまってほしいけど、とっても痛いけど、ありがとう。おじさん。
おじさんは私が泣いている間ずっと、背中をさすってくれた。心配しているおじさんを見て、泣きながら覚悟を決めた。大丈夫だよ、おじさん。私はもう、泣かないって決めたから。勇者を倒すって決めたから。