毎日異常ならそれは通常
いつもお読み下さりありがとうございます
このお話しは、実際に人から聞いた、二つの本当にあったお話しがヒントになっています。
心霊ではありませんが少し怖いです。
★推理ジャンルからホラージャンルへお引越ししました。
大量出血のシーンから始まりますので、苦手な方はお避け下さい。
明け方からずっと、くだらない事を真剣に考えていたせいで、身体がやけに重い。
のろのろと朝の身支度を済ませ、仕事に行くために玄関を開けた。
アパートの共有の廊下…
そこに広がるのは血の海だった。
「は?…え?…え?…… なんだこれ… けいさつ… 警察!?」
………
このアパートに、入居して四ヶ月。
俺はいわゆる「隣人トラブル」に巻き込まれていた。
最初は問題はなかった。
1ヶ月した頃に「生活音がうるさいと苦情がきているので、もう少しお静かにお願いします」と、管理会社から電話があった。
その時は、うるさかったかな?と、思い「気をつけます」と答えた。
その1ヶ月後くらいに、また管理会社から電話がきて「音がうるさいと苦情が…」と言われた。
俺は「気をつけていますけど?どれくらいうるさいんですか?」と聞いてみた。
「足音や、ドアを閉める音など…と聞いております…」
「足音って、そんなに音出してませんけど?」
「そうですか…でもお隣りから苦情が来ていますので…気をつけて頂けると、こちらとしてもトラブルがなく…」
うだうだと続く話しに、めんどくさくなった俺は「あーあー!じゃあ、気をつければいいんですね!わかりました!」と言って電話を切った。
そして今まで以上に静かに過ごした。
部屋の中だけでなく、玄関を出て隣の部屋の前を通る時さえ、足音を立てないようそっと歩いた。
なのに一週間後、隣りのジジイが部屋に怒鳴り込んできた。
「あんたの出す音、うるさいんだよ!もっと静かにしろ!」
「うるさいって程、音出してないですけど?」
「うるさいって言ったらうるさいんだよ!とにかく静かにしろ!」
キレたようにそう言うと「バタンッ!」と、思いっきりドアを閉めて行きやがった。
お前の方がうるせーよ!
その次の日から、俺がちょっとでも音を出すと…
「ドンッ!」
隣りのジジイが壁を叩くようになった。
ドンッ!
壁を叩かれる。
チッ…うるせーな…
たかがリモコンが落ちただけだろ…
「クソっ!いちいちいちいち…お前の方がうるせーんだよ!」
レンジの扉を閉める音に対して「ドンッ!」
トイレのドアを閉める音に「ドンッ!」
皿を洗っている音に「ドンッ!」
何をしても壁を「ドンッ!」と異常な程に叩かれるようになった。
家にいる時間は気が休まらない。
そんな異常な毎日。
「ドーーーンッ!ガタガタ!」
ある日の明け方、ジジイの出した大きな物音で目が覚める。
夜明け前、まだ外は暗い。
心臓が破裂しそうなほど熱い。
「ふ…ざけんな!何時だと思ってんだよ!」
ドンッ!
俺はここぞとばかりに壁を叩き返してやった。
すると、
「ドンッ!ドンッ!ドンッ!ガッッ!ドンッ!ガッ!」
ジジイが連続で壁を叩き返してきた。
怒り狂ったように叩いてくるジジイ。
ヤバイ…恐怖を感じた。
「ドンッッッ!!」
大きな一撃を最後に気が済んだのか、壁を叩かれる音がピタリと止んだ。
…殺意が芽生えた。
怒りと恐怖から心臓がバクバクと音を立てている。
この異常な日々に終止符を打たねばならない。
「引っ越し」という基本的な事を忘れ、俺は、ジジイをどうやって殺そうかと真剣に考える。
自分が殺したとバレずに殺すにはどうしたらいいか…
薬品で…撲殺で…絞殺で…
いつ実行するか…ジジイに火をつけるのもいいかもしれない…
ヴーー…ヴーー…
「はっ…」
携帯の目覚ましが鳴る。
俺は我に返る。
カーテンの隙間から朝日が入っていた。
「引っ越そう…」
自分がどれだけ追い詰められているか気付く事ができた。
近いうち休みを取ろう。
身体がやけに重い。
変な事を考えたからだろう。
のろのろと仕事着に着替え、リュックを背負い靴を履く。
そして携帯を取ろうと手を伸ばす。
距離感を間違えたのか、携帯に手がぶつかってしまった。
ヤバイ!落ちる!
ゴトン
携帯を落としてしまった。
俺は、壁を叩かれると思い身構えた。
壁を叩かれることはなかった。
明け方あんなにうるさくしたから、反省でもしてんのか?
何よりだ。
ちょっと気が軽くなった。
壁を叩かれないだけでこんなにも気が軽いのか…
忘れていた普通の事に気が付く。
早目に引っ越しをしよう。
そう思いながら玄関を開けた。
共有の廊下…そこに広がるのは血の海だった。
「は?…え?…え?…… なんだこれ… けいさつ… 警察!?」
震える手で警察に電話をする。
その場を離れないよう言われ、俺は部屋に戻る。
「なんだなんだなんだ?…」
頭が混乱している。
血はジジイの部屋の玄関から出ていた。
あれだけの量の出血で…ジジイが…生きているとは思えない…
一瞬「知らないうちに俺が殺したのか?」と自分自身を疑ったりした。
警察を待つ間、会社に連絡して事情を話し、午前中の仕事を午後に回してもらい、半日休暇を取った。
ピンポーン
「すみません〇〇警察です。第一発見者の方ですか?お話し出来ますでしょうか?」
何かしら変わった事がなかったか聞かれ、明け方ジジイに何度も何度も壁を叩かれた話しをした。
「そうですか。……まあ、これは一応聞くだけですけど…あなたが殺したりしてないですよね?あ、一応確認です」
「………殺したりしてませんよ…」
死ねばいいとは思ったけど。
本気で殺そうと思ったけど。
現場検証が始まる。
大家から鍵を借りた警察がドアを開ける。
そこにはジジイが血だらけで倒れていた。
………
明け方に体調が悪くなったジジイは、助けを求めようと玄関に向かう。
玄関にあと少しのところで倒れ、ドアノブに額をぶつけ、大きく額を切る。
頭を下げるかたちで倒れて、ドアの真下に頭がある為に、大量の血が廊下に流れた。
「じゃあ…じゃあ、あの壁を激しく叩く音は…」
「ああ…壁を叩いていたのではなく、痙攣して手や足がぶつかっていたのではないですかねぇ…」
俺は結局会社を休み、その日のうちに引っ越し先を決めた。
このお話しは、玄関を開けたら…の人と、騒音の隣人を持つ人、二人の話しを物語としてまとめました。
玄関を開けたら…の人は、その後仕事に行ってますし、更新が切れるまで引っ越しはしていません。
騒音に悩まされていた人は、引っ越しを選択しています。
少し前に書いてあったのですが、推理かは怪しいので投稿を迷っていたのですが…
せっかくなので投稿させて頂きました。
拙い文章、最後までお読み下さりありがとうございました。