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ようこそ、蝶の舞う花園へ。  作者: 白鷺緋翠
第一章 出会い。
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孤独な蝶は、王女と出会う。

 橙色の灯りが街を照らす、美しい街並みをとぼとぼと歩いていく。三人は私に軽く自己紹介をした。


 私を王宮まで連れて行ってくれているのは、菫髪の女性が菊、赤髪の女性が鈴、茶髪の女性が琴という名前の三人の女性。三人とも二十三歳の幼馴染らしい。

 気さくな性格で私とは正反対な気がした。

 まだ二十代前半で若いが、彼女たちには既に夫と子供がいて仕事も結構長いことやっているという。


 この桜華国では大体の女性が十五歳で婚約を結び、結婚をする。そして子供を産み、仕事を始めるかそのまま主婦となるか選べるのだそうだ。彼女たちの場合、親が王宮仕えをしていたのだが、ある理由で働けなくなった親の代わりとして王宮に仕え始めたのだそうだ。


 私は彼女たちの話してくれることにただただ相槌を打つだけだった。それでも彼女たちは話すことをやめなかった。とても、賑やかな人たちだ。


 王宮までの道のりは長かった。私が特別会話の中に入ったわけでもなかったのに、なぜかここに私の居場所というものがある気がして、不思議と悲しい気持ちにはならなかった。


 標高が少し高く広い土地に、豪華な建物がそこにあった。それが王宮なのだという。そしてなぜか門と王宮の間には大きな鳥居がある。

 王宮はとても大きかった。木造の豪華な門の近くまで行くと、王宮が思ったより縦にも横にも大きいのが分かり、その上何階建てか分からないくらい高かった。そして、鳥居の先から王宮までの道のりに燈籠が連なっていた。さらに王宮の隣にも大きな建物があったりして、思わず息を呑んでしまった。


「あんた表情が一切変わってないけど、王宮に行くの怖くないのかい?」

「全く」

「へぇ。何か肝の据わったというか、変な子だね。ここまで来ると中々に可哀想になってくるよ」


 そう菊さんはため息をついた。


 私自身、感情が不必要だと思い始めている。感情なんてあっても自分を困らせるだけなのだ。

 しかし、そのせいで社会、家族からも見放された。孤独になってしまった。

 自分の努力不足のせいではあると分かっているが、やはりこの感情が邪魔なのだ、と最終的にはそう思ってしまう。


「それで、あの人については気にならないのかい?」

「……あまり」

「ははっ、本当に面白いわ。まあでも、だからといって怖がる必要なんてない。とてもいい人だからね。心配しなくていいよ」


 鈴さんは軽快に笑うと、何かを思い出したように目を見開いた。


「今更で悪いけど、そんな格好じゃ王宮に行けないわね。門番に見られたら即牢屋行きだよ。私の家が一番近いからおいで。着物を着させてやる」


 確かに街行く人が着物を着ている中、一人洋服を着ているとすごく浮いていた。しかも黒髪黒目だから怪しい。そんな奴が王宮なんてものに入ったら一溜りもないだろう。

 私は鈴さんに連れられて鈴さんの家にお邪魔した。鈴さんの家にはさすが王宮仕えしてるだけあり、たくさんの綺麗な着物を持っていた。鈴さんは私に好きな物を選ばせてくれた上、一着くれると言ってくれた。

 私は大量の着物の中から適当に、若葉色の着物を選ぶ。もっと豪華な物も薦めてくれたけれど、私は断り続けた。

 折れた鈴さんは慣れた手つきで着付けをして、本来もっと時間がかかるはずの着物をあっという間に着終えてしまった。

 こんな手触りの良い服なんて着たことないから、私は少しそわそわとした。


 着替え終わった私は鈴さんと共に急ぎ足で二人と合流した。門番と琴さんが何やら話をした後、その無駄に豪華な門が開いた。


 王宮の中はとても豪勢な造りになっていた。王宮を照らすのは提灯で、建物の造りや装飾はどことなく和を感じる王宮だ。


「私たちが仕えてるのはこの国の第一王女、月夜(げつよ)様というの。月夜様はとてもお優しい方よ。怯えなくていいわ」


 そう琴さんは微笑んだ。


 月夜様は齢十四歳の王女様だという。月の間に住み、その容姿がとある人に似ていることから月姫とも呼ばれることもあるそうだ。


 私は月の間に着くまでに三人から色々なことを教わった。挨拶の仕方、何をしたらいいのかまで丁寧に。色々なことを教えてもらっていたら、いつの間にか月の間に着いていた。


 菊さんの合図で私は月の間の襖の前で正座をした。


「月夜様、菊、鈴、琴ただいま戻りました」

「うむ。入れ」


 鈴のような可愛らしい声であり、王族の品位も感じられる少女の声は私の耳によく残った。


 三人は襖を開けて部屋に入っていった。私は三人の指示があるまで部屋の前で待機。そのため、暇な時間を無駄に豪華な装飾がされた襖を眺めていることにした。


 しばらくすると襖が少し開き、誰かの手がちょこっと出て、手招きをした。入ってこいの合図だろうか。私はその手に近づくと、襖が一人分ほど開いて月の間に引っ張りだされる。

 私は慌てて教わった挨拶の形になった。正座をし、足から拳一つ分開けた場所に手をつき、深々と頭を下げる。


「お主が三人の言う不思議な来客か。名をなんと申す」

「……私の名前、は、ありません」

「ない? ほう……。よい、面を上げよ」


 私は頭を上げ、手を太ももの位置に置いた。

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