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ようこそ、蝶の舞う花園へ。  作者: 白鷺緋翠
番外編
36/36

孤独な蝶の、バレンタイン。

バレンタインデーということで書いてみました!!


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

最新話を見ていない方はこれから出てくるキャラのことを知らないと思うので簡単に説明します!!


萩葵という女性は、燈火が研究する貴重な毒草の一つである草が皇国から輸入された時に、毒草を守る上級精霊として燈火の元にやって来ました。その日から燈火の管理する楼閣の守り主として楼閣で住んでいます。燈火にしか懐かず、楼閣に近づいた人間は一瞬にして息の根を止められてしまうほどです。萩葵と星蘭は一度だけ会っていますが、あまり好感度は高くないようで……。


詳しく知りたい方は「孤独な蝶は、精霊と出会う。」を読んで見てみてください…!!

 

「二月十四日ですね」


 私の突然の発言に燈火さんは首を傾げた。


 今日は二月十四日。バレンタインデーだ。


「そうですけど……。何かありましたか?」


 この桜華国にはバレンタインデーというものが存在しない。二月十四日は特別でもない、普通の日なのだ。だからこの燈火さんの反応は決して間違ってない。


「私のいた世界では、今日はバレンタインデーという日だったんです」

「ばれん、たいん?一体何をするんですか?」

「日本独自らしいんですけど、女性が好きな男性にチョコを渡して想いを告げる。そんなイベントです」


 まあ、私自身もバレンタインだと騒いだこともなければその日にチョコを食べたことすらない。姉は律儀に毎年母と兄分のチョコを作っていた。別にいらなかったし、興味もなかったから私の分がないことに悲しくもならなかった。


 一方で、燈火さんは私の説明に目を輝かせていた。

 何を考えているのだろうか。


「そんな文化があったのですね。では、星蘭も何か作ったのですか?」

「え?作る訳ないでしょう。そんな、くだらないの」

「そうですか。悲しいですね。私はこんなにも星蘭に尽くしているのに、チョコをもらえないのですか」


 燈火さんは悲しそうな顔をしてため息をつく。

 私は、まだ自分の抱えている感情を完全にはできていない。だからこそ私が燈火さんに抱くこの感情の名前が何なのか分からない。好意なのか、尊敬なのか、それとも。


 それより私はそもそもバレンタインデーを意識したことなんてないから、あげる気が微塵もなかったのだけれど。


「……そもそも桜華国にチョコあるんですか?」

「桜華国にはなかったのですが、異国からの輸入品でチョコが売られるようになったのです。だから、ありますよ。ここにもありますからね」


 燈火さんお得意の圧のある笑み。「これで作らないという選択肢は消えた」という脅しに見える。

 私は大きなため息をついた。


 どうしようか。

 どうせだったら、好意のある人があげれば……。


 その時私は妙案を思いついた。


「少し楼閣へお邪魔させてもらいます」


 私は“ある物”を作るために必要な材料をかき集め、楼閣へ入った。


「燈火、来てくれたのね……って小娘が何の用?勝手に入らないで欲しいわ」


 私が楼閣に来たのは萩葵さんに会うため。

 萩葵さんは明らかに燈火さんへの好意を抱いている。どうせなら、私より萩葵さんが作って渡した方がいいだろう。


「二月十四日。私のいた世界では好きな人にチョコを渡して思いを告げる日なんです。萩葵さん。燈火さんへチョコを渡してみませんか?」


 私の言葉に少し興味を持ったのか、萩葵さんは私の方に視線を向けた。もう一押しだ。


「好意はなかなか伝えにくいものです。この機会に、ぜひ伝えてみてはいかがですか……?」

「チョコね。皇国にもあったわ。……お前に言われずとも、この想いは誰にも負けない自信があったのに。お前が来てから調子が狂うのよ。チョコ作るわ。きっと、燈火も私に構ってくれるはずだもの」


 これは恋する乙女の顔だ。いいな、恋って。きっと世界が輝いて見えるのだろう。


 私は意気込んだ。萩葵さんのために何としてでもチョコ作り、成功させよう。


 萩葵さんが作るのは生チョコ。材料も少なくできるから初心者でも作りやすい。

 火などは楼閣にないので、そこは私が台所に行って代わりにやる。秘密で作っているのに、萩葵さんが研究所にあるところを見られては燈火さんに怪しまれてしまうから。


「……できた」

「可愛くできましたね。これなら燈火さんも喜んでくれます」

「そうだと、いいな」

 萩葵さんは優しく微笑む。萩葵さんの目線には一口サイズの可愛らしい見た目の生チョコがあった。

 私と萩葵さんの初共同作業の生チョコ作りは大成功に終わった。


 私は楼閣に燈火さんを呼んだ。

 きっと二人きりしてあげた方がいい。そう思った私は静かに楼閣を出た。


 今頃、姉はまた二人にチョコを渡しているのだろうか。あの家族は、私がいなくなったことで幸せになれたのかな。心底興味ないけれど、どうか世間に迷惑かけていないことを願う。

 しばらく私が目を覚ました森を見つめていると、木々が風で揺れた。


 少しずつ日が沈み始めた頃、楼閣の扉が開き、丁寧にラッピングされたチョコを持った燈火さんが出てきた。扉が閉まる前にそっと楼閣の中を覗くと、頬を赤らめ美しく微笑む萩葵さんが夕日に照らされていた。

 成功したのかな。そう思うと、少し嬉しく思った。


「急に何かと思えば、全く。私は星蘭からのチョコを期待していたのですが、どうやらあの萩葵と一緒に作ったようですしね。良しとしましょう。来年は星蘭からも、もらえることを期待してますね」


 そう、燈火さんは優しく微笑んだ。

 私はふと気になったことを聞いた。そもそもこのチョコを作ったのは()()()()ではないか。


「そういえば、萩葵さんの言葉に何と返事しましたか?」

「返事?普通に、いい話を聞けたしとても満足です、と言いましたけど」


 いい話を聞けた……?想いを告げたのではなかったのだろうか。


「あの、萩葵さんは何と?」

「『不本意だけど、あの女のおかげで燈火に渡すことができた。だから、これは私とあの女の二人からのチョコ』と言ってました。そんなこと言う精霊ではないので、驚きましたよ。萩葵とも仲良くなれたようで安心しました」


 私は驚いた。萩葵さんは、そんなことを言ってくれたのか。

 最初はすごく嫌われていた。いや、今も多分好かれてはいない。でも、きっと今回のことで少しは萩葵さんに認めてもらえたのだろうか。それほど嬉しいことはないだろう。私は少し心が温かくなったのを感じた。


「萩葵さん、ありがとうございます」


 私は風で消えてしまいそうな声で呟くと、研究所へ戻った。

 バレンタインデーも悪くないものだなとか思いながら。


 来年のバレンタインデーは、萩葵さんとまた一緒に作るのもいいかもしれない。月夜様や菊さんたちも誘って。みんなで作ったら、きっと楽しいはずだから。

 私は無意識にここでの来年のことを考えていたことに驚いてしまった。今まで未来のことなんて考えたことなかったのに。


 不思議と何が起こるか予想できない未来のことを考えるのは、胸が踊った。

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