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謎解き婚約者  作者: 富風
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流れ込む変化

 客人を帰し、表向きには体調不良を原因にして、壟家に頭を下げっぱなしだった両親が帰ってくるや否や、慌てて駆け寄る。


 お父様ごめんなさい、と放つ前に、ばちんと頬に痛みが走る。床に体が崩れ落ちた。じわりと熱を持つと同時に、涙がボロボロと落ちる。初めての鮮烈な痛みに、ガタガタと体が震える。


「も、申し訳」

「なんということをしてくれたのだ!!!!」


 落ちてくる大声に、ひぃ、と身を縮めた。それもそのはず。父にとっては私の婚約は、商談に等しいものだった。それに私も乗り気だった。共謀者に裏切られるような形なのだから、文句もいえない。


「申し訳ありません…」

「…今日のことは後日でいいでしょう。もう休みなさい」

「お母様」

「休ませるけれど、しばらく反省はしなさい。少なくとも頬の腫れが引くまで、部屋から出てはならないわ。さぁ、おいき」

「…はい」


 顔はよく冷やしておきなさいと言われて、侍女の咲が氷袋とタオルを持ってきた。首もとまでの短い赤毛は少しカールがかかっていて、瞳は黄色である。

七歳から周囲の世話をしてくれているが、あまり話したことはない。二年も一緒にいるのに、作業だけ淡々とこなす姿しか知らない。部屋に入っても混乱は落ち着かず、動揺が収まらない。


 どうして、私はあんなことをーーーー。


この日は食べ物も喉を通らず、落ち着かないまま眠りについた。




***


 なんだか前に、同じことをしたような。好きなひとに振られて、落ち込んで帰った日だ。


 ふて寝するように布団に埋もれて、そう、こんなふうに。手元にある『画面』に私は夢中になるのだ。嫌なことを忘れるわけではないが、気持ちが軽くなる。

ツノの生えた、凛々しい顔の黒龍を見、ん?


 んんん?彼はもとから角があったような。あれ?なんで生えてないと思ったんだろう。


 ま、いいや。

これは育成ゲームの面も持ち合わせている。私が選択肢を選んでいるヒロインは、黒龍の折れた角を復元出来るイベントがあった。いわく、小さい頃に東の外れにある、穢れが溜まった土地へ視察に行ったことがあり、そこで折られてしまったらしい。黒の森というそうだ。


 その時の角は、魔力だけが結晶化し、魔物に取り込まれてしまっている。この結晶は復元に必要な特殊なアイテムの位置で、それを取りに、黒の森へ行くところだ。白蛇がサポートにつく。何故かこの二人は仲が良くて可愛い。白と黒だしな。

 ヒロインは戦闘中は、回復と防御をタイミングよく発動するのが仕事であり、回収後の要でもある。復元は彼女にしかできない。鎧は何故か西洋風だけど、黒龍の黒の鎧はかっこいいな。白蛇は勿論、白の鎧だ。


その時だった。


 若干のバトル要素という名のもとに、シナリオが始まる。黒龍が負傷し、その隙を狙った敵がヒロインへの攻撃に移る。それを見た、白蛇による咄嗟のガード。というか、肉壁。


 そんな…と呟くヒロインに、白蛇はうっすらと瞳をあけた。優しい眼差しかと思えば、それはすぐに真剣な眼差しに変わる。


『アイツを頼む』


 う、うん。イラスト的に結構傷も深そうだもんね。あれ?もしかして死…?死ネタあるの?あ、まって。怒りに染まる黒龍様のお美しい絵ですこと…。

 おめめきれい…。ほう、と眺めて、次のシーンに行くと、ヒロインの選択肢が出る。


『私が…、私がやらなきゃっ…!!』

→白蛇への癒し

→黒龍への護り


 えっ!?あまりに残酷な選択じゃない?白蛇癒さないと死亡フラグ立ちそうだし、黒龍援護しないと白蛇の援護がなくなった黒龍がどうなるかわからない。

黒龍贔屓したいですが?えぇえ!?!?


***


 がばりと布団から体を起こす。


「はぁっ…、はぁ…」


 部屋を見渡すと、いつもの景色だ。寝汗が酷い。水がほしい。


「っ…なんなのよ!!」


 バスン、と枕を投げつければ、慌てた様子で咲が駆けつけてきた。


「蝶花様、どうなさいましたか」

「…夢見が悪かっただけよ。それより水のひとつでも持ってきなさいよ!気が利かないわね!」


 八つ当たりである。わかりながらも悪態をついて、失礼しました、と急いで出ていく彼女を見送ると、頭を抱える。なに?どうなってるの?未来視?でも名前と特徴だけが一緒で、実際には違うのよ。それに、おかしい。だって、私が見ていたのは、絵だった。


 ただの絵!!


 頬の腫れが引くまで部屋を出るなと言われてたのは、幸いかもしれない。こんな話、漏れれば気狂いと思われるに違いない。ぎりりと奥歯を噛み締める。


 戻ってきた咲から水を受け取ると、口端から溢れてこぼれ伝うるのも厭わず、一気に飲み干す。ダン!と机にコップを置いたら咲が困惑していた。はしたなかったかしら。


「蝶花様…」

「…ありがとう。少し落ち着いたわ」

「…いえ。ではあの、こちらにおかわりは置いておきますので…」

「助かるわ。あと…さっきはきつい言い方して悪かったわよ」


 下の人に謝るのってこんなに気恥ずかしいのね。目を丸くする咲を見て、気まずくなった私は、ふいっとそっぽを向いて早く出てと指示をする。


「何かあればお呼びください」


 今までで、一番柔らかな声に驚いて振り向くのと、扉が閉まる音が静かに響くのは同時だった。




むずむずしている

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