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押しかける女

 


「蒼亜殿下、またここですの?」


 翠鈴が木の下から詰ってくる。


「おお嫌だ嫌だ、夏ですのにカビが生えてきそうですわね、きっと青カビでしてよ」


(お前は本当に口が悪い、緑華に嫌われるぞ?)


 弟皇子の婚約者は、相変わらず口が減らない。



「いつまでウジウジなさってますの?

みっともない、大きななりして鬱陶しいですわ」


(うるさい、バーカ)


 何となく通じたのだろう。


「今、絶対に何か言いましたわね? 

 その喧嘩、買いましてよ。下りてらっしゃい!」


(相手にしなければ、ずっと文句を言うつもりか? お前はまったく………)


 仕方なく、わざとゆっくり木を下りる。

 不承不承と翠鈴に伝わるように。



「蒼亜様?」


(この声は!)


 首をもたげた先に紫蘭がいた。


(紫蘭!)


 慌てて向きを変え、木に戻ろうとするが追いつかれて間に合わない。


「逃げないで!」「逃がしませんわよ!」


 紫蘭と翠鈴が、離さんと言わんばかりに俺の身体にしがみつく。


「情けない男ですわね、文字通り、尻尾を巻いて逃げますの? わざわざ会いに来てくださったのですよ? 観念なさい!」


(このクソ幼馴染みが!)


「では紫蘭様、私はこれで」


「ありがとうございました。翠鈴様」





 2人きりになると、急に静かになった。


「……私ね、蒼亜様」


(わかっている。詰りに来たのだろう?)


「あれから、ずっと考えておりましたの。

 なぜ、蒼亜様は私を捨てたのかしらって」


(捨てたわけではない!)


「きっと、捨てたのではないと仰りたいのでしょうね? でも私にはそうでしたわ」


(すまない)

 

「考えて考えて、やっとわかりましたの。

  蒼亜様は怖いのでしょう?」


(何も怖くなどない!)


「たぶん、蒼亜様は、

 蛇のまま、一生私と過ごすことが怖い。

 蛇だからと愛想をつかされるのが怖い。

 蛇のままなせいで私を不幸にするのが怖い

         …………違いますか?」


(…………)


「お馬鹿さんですね。いつかのお返しです。

 私がいつ、蛇のままなら嫌だと言いました?」


(しかし)


「私、蛇の蒼亜様の言いたいことが、だいぶ、わかるようになったんですよ。今も駄々っ子みたいなこと思っているのでしょう?」


(子ども扱いするな)


「子ども扱いするなとか思ってません?」


( ! )


「ほら、当たっているでしょう? ですから私以上に蒼亜様の伴侶に相応しい人はおりません」


(一生、蛇のままかもしれないのだ)


「蒼亜様と一緒で私が不幸になることなどあり得ません。お側にいられるなら、本当に私は幸せなのです」


(紫蘭…)


「それに、私、お父様に勘当していただきました。ですから蒼亜様に袖にされたら、私は行くところがないのです。蒼亜様は、それでも私を追い出すおつもり? お側においていただけませんの?」


(紫蘭、お前…………)


 紫蘭に巻きついて、口づけた。


(どうしても紫蘭を抱きしめたい!)

(抱き締める腕が欲しい!!)



 ?! ?!  グウォアッ 


(熱い! 身体が痛い! 何だっこれ、は)



「蒼亜様!? 誰か! 誰か、蒼亜様が!」


 (苦しいっ)


 意識が遠のきかけた時、視界が変わった。




「蒼亜様! 蒼亜様、蒼亜様」


 俺の紫蘭を抱き締めているヤツがいる。

 その腕はどこのクソ野郎のものだ?


「戻れて、いらっ…しゃ…いまっ」


 紫蘭が嗚咽混じりに教えてくれた。


「ああ、そうだ、俺の、腕だ。俺の腕だ!

紫蘭、俺、人に戻れた!」


 力いっぱい紫蘭を抱き締める。


「俺の紫蘭!」


 いつの間にか集まっていた家族と側近達。

 母妃が泣きながら陛下に抱き締められている

 長兄と蛇の次兄が涙んで見つめあっている。

 次兄にも希望が戻った。



 緑華が俺に、そっと上着を掛けてくれる。


「あ! 紫蘭、俺、裸だった」

「え? あ! キャァァ!」


 逃げる紫蘭を捕まえて、皆に向かって宣言する。


「俺はもう1ヶ月、仕事はしない! 紫蘭と籠るから! 邪魔するなよ?」


 緑華がウンウン頷いて、真っ赤な顔をした翠鈴に蹴られている。



「すまないが、それは延期だ」


「お前が人に戻れたのだ、やっと裁判が出来る」


 皇帝と第1皇子が笑顔を改め、あの二人に思い知らせてやろうと言って、俺の肩を叩いた。





「そうだ、豚王とクソ女の始末がありましたね」








お読みいただき、ありがとうございます。


次回は丸々、断罪です。

皇帝が皇帝らしい。

ほぼ皇帝の独壇場です。

帝国が帝国である所以。


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