乾いた大地を踏みしめて・3
港で休息をとったデュー達がだだっ広い荒野をどのくらい進んだだろうか、果てしなく感じる道程にぼんやりと、人の暮らす気配が見えた。
近付き、足を踏み入れると、そこは一風変わった情緒溢れる不思議な里。
―神子姫の里・パスティヤージュ―
「これが、嬢ちゃんの住んでる里……おおう、さすがセクシーなお姉さんもいらっしゃる!」
「最初にそこか、この助平男」
神子姫は占いの際に踊りも舞うため、踊り子のような衣装を纏っている。
露出の多い服装の女性を見かけては歓声をあげる助平男を、シュクルがみっともないものを見る目で叱った。
「まずは母に会いに行きましょう。この先にいます」
「その必要はないわ、フィノ」
シャラン、と鳴子が音をたてる。
フィノとよく似た色の髪は長く緩やかに波打って、神秘的な神子姫の衣装に包まれた抜群のプロポーションが人目をひく、纎麗で清淑な印象の女性。
フィノが大人になったらこんな感じだろうか、と思わせる姿だが、ふくよかな胸だけは大人になったからといってこうなるだろうか、としっかり見ていたデューがこっそり考えを巡らせていた。
「紹介します。この里で、いちばんの神子姫。そしてわたしの母です」
「レファイナです。娘がいつもお世話になっています」
ぺこり、と丁寧にお辞儀をする仕草は母娘よく似ていた。
とびきりの美人で、か弱そうな見た目だが重く大きな神子姫の杖を手にしており、娘同様見た目で判断してはいけないのかもしれない。
「貴方たちが来ることは占いに出ていたわ。そして、ここに来た目的も。『カソナード砂海』の中心部、オアシスの近くにある遺跡へ向かうのでしょう?」
「あら、事情を説明する必要はなさそうかしら?」
「占いだから、詳しい話まではわからないわ。ただ視えた情報を繋げて、わかった気になっているだけ。だからフィノ、貴女の口からお話しなさい」
母に促されて頷くと、フィノはここに来るまでのあれこれをレファイナに説明する。
途中やや脱線してしまった部分もあったが、娘の土産話を母は楽しそうに聞いていた。
「……そう。どうやらまだまだ貴方たちの冒険は続きそうね」
「大丈夫ですよ奥さん。嬢ちゃんはこの俺が守りますから」
心配そうな母親にすかさず接近する下心丸出しのリュナンをこれまた素早くデューが阻止し、ついでに剣の腹で殴りつける。
「黙れ。あと誰だお前は」
「痛い! 青年だんだん俺の扱い雑になってない!?」
話の途中だというのにぎゃーぎゃーと、良く言えば賑やか、有り体に言えば喧しい二人のやりとりを眺めていたレファイナがくすくすと笑う。
「楽しそうなお友達ね。それとも彼氏かしら?」
「いいえ全くそんな事は」
間髪入れずにバッサリと答えたフィノにリュナンが心底残念そうな顔をした。
が、次の瞬間、
「……大切な仲間、です。おかあさん」
花が綻ぶような笑顔で帳消しになってしまうのだから少女の愛らしさは時に罪である。
「そう……なら私から少しだけ、言うことがあるわ」
レファイナは一同を見渡すと、凛然と表情を引き締めた。
「……貴方たちの未来が、よく見えないの。光明とも、暗闇ともとれる不思議な感じ……けれど、一人一人に絡みつく『闇』は視えるわ。おそらくそれを払う事が出来なければ、光明には辿り着けない」
「一人一人に絡みつく、闇……」
自覚がある者ない者、それぞれいるのだろうデュー達の反応はばらけていた。
「行きなさい、フィノ。そしてその目で貴女が視たものの正体を確かめなさい……気を付けてね」
「はいっ!」
強く、しっかりとした返事をする娘を母は笑顔で送り出す。
と、ふいにカッセに視線がいき、じっと見つめるレファイナ。
「あら? あらあら?」
「なっ、なんで、ござろう?」
美人に迫られ思わず後退りするカッセに、にっこりと微笑み、
「……いえ、貴方も大変ね。気を付けて」
「は、はぁ……」
その台詞の意味するところがなんとなくわかったのであろうカッセは、「神子姫はやはり只者ではない」とひとり思っていたとか。




