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Tales of masquerade  作者: 万十朗
第二部
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魔学研究所にて・3

 ザッハに魔物の欠片を預けた一行は、魔学研究所をあとにした。

 しばらく時間がかかるだろうから、と言い掛けてザッハはふと思い当たり、


「そうだ、フローレットの所に顔見せに行ったらどうだい? せっかく王都に来たんだし。久しぶりだろう、ミレニア?」

「フローレット?」


 デューが尋ねるとザッハはにこにことした笑顔を少年に向けた。


「ミレニアのお兄さん、トランシュは知ってるかい? 彼の婚約者さ。街の東にある大きな屋敷に行ってごらん」

「婚約者……!?」


 ザッハの言葉に興味が沸いた一行は、彼女の住む屋敷を目指す事にした。

 特に恋バナ好きのフィノの目が、期待に満ち満ちてキラキラと輝いている。


「騎士とお嬢様の婚約……なんだか素敵な予感です♪」

「そうね。あの色男さんにどんな女性がいるのかしら」

「あー、一応言っとくが、屋敷であんま騒ぐなよお前ら。上流階級のお淑やかな姫さんにお前らのノリは刺激が強そうだ」


 念の為釘をさしておこうと女性陣(とリュナン)を一瞥するデューに不満の声が集中する。

 そういうところが騒がしいんだ、と少年は頭を抱えた。


「で、ここがその屋敷か……」

「ひょあー、大きいですねー」


 街一番の豪邸であろう屋敷を仰ぎ、リュナンが感嘆の声をあげた。

 と、タイミング良く扉が開かれる。


「お客様かしら……って、あー!」

「お、おぬしはっ!」


 現れた人物とミレニアの声が重なった。

 そこにいたのは、いつぞや旅の途中で遭遇した傭兵を自称する三人組……の一人、紅一点のマカデミア。

 いつもは黒を基調にした露出の高めな衣装を身につけていたが、今はまるでこの屋敷で働くメイドのような格好をしている。


「なんじゃなんじゃ、なんでおぬしがここに!?」

「それはこっちのセリフよ! フローレットお嬢様の屋敷に何か用?」


 どうやら本当にここで雇われているらしいマカデミアは、やや品に欠けるものの来客の用件を尋ねた。


「フローレット姉様はわしの兄様の婚約者じゃからの、王都に来たついでに顔を見せに来たのじゃ!」


 などと言い合いをしていると、騒ぎを聞きつけて足音が近付いてきた。


「あらあら、何の騒ぎかしら?」

「お嬢様、気をつけてください! 怪しい押し売りか強盗なら我らが……いえこの私めがお嬢様をっ!」

「カシュー、ずるいでガスー!」


 何やら聞き覚えのある騒がしい声に一行は顔を見合わせ、確信した。


「ってあー! 貴様らは!!」

「お前らはいつかの旅芸人トリオ……無事王都に着いてたんだな。良かった良かった」


 少年の心底どうでも良さげな棒読みに過剰なまでに反応するカシュー、ちなみに今は剣こそ携えているがちょっと不似合いな執事コスチューム。

 そしてもう一人、ウォールにいたっては同じく執事服だがサイズが合っていないのか今にも服のボタンが弾け飛びそうだ。


「旅芸人トリオではない!我々は旅の傭兵団!!」


 カシューのその台詞を合図に彼の両隣りに 並ぶ二人。


「ウォール!」


 大柄な男が勇ましいポーズをとる……が反動でボタンがひとつ飛んでいった。


「マカデミア!」


 妖艶な女性がメイド服姿でセクシーに決める。


「カシュー!!」


 そしてリーダーらしく真ん中でポーズをとる、紳士ぶったカシュー。


「「「三人揃って我ら漆黒の……」」」

「楽しい方々でしょう? お陰で最近は毎日が退屈しないのよ、ミレニア」


 毎度お馴染み決めセリフは、今回はおっとりした女性に遮られてしまった。


「ミレニアちゃん、この人が噂の?」

「うむ、フローレット姉様なのじゃ♪」


 見ればなるほど、上品で清楚な淑女が佇んでいる。

 よく手入れされている長いスカイグリーンの髪、大きなアップルグリーンの瞳。側に寄れば花の香り漂う、外の世界とは無縁そうな、美しい女性。


 イシェルナとはまた違った趣の美女に、気付けばリュナンとカシューが鼻の下を伸ばしていた。


「今日はなんだか賑やかね。ミレニアのお友達かしら?」

「あー……悪いな、なんか騒いじまって」

「うふふ、いいのよ楽しいし♪」


 ゆったりとした物腰のお嬢様に、あのトランシュがどう接しているのだろうかとふと考えるデュー。


「……トランシュは、ここによく来るのか?」

「ええ。でも……」


 ふ、と令嬢の目が伏せられ、陰が落ちる。

 その様子に一同は疑問を感じた。


「最近は、逢えないの。任務から帰って来ないらしくて……」

「任務、ってあの時からか? やけに長いな……」


 デューの言葉に、フローレットは静かに頷いた。


「遠出をしているのかもしれないけれど…………もし会う事があったら、フローレットは元気にしていますと、伝えてくれるかしら?」

「ああ、そうだな。ついでにこんな美人を心配させてる馬鹿野郎を一発ぶん殴ってくる」


 少々乱暴な物言いに彼女はきょとんとするが、小さく吹き出して、


「うふふ、お願いね」


 と、花のような微笑を見せた。


 辺りが和やかな空気に満ちた瞬間、だがそれは長くは続かない。

 ドタバタと騒がしい足音が屋敷に向かってきた。


「なんだ、どうした?」


 息を切らせて走ってきた騎士を見るなり、染み着いた職業病か咄嗟にオグマが対処する。


「まっ……魔学研究所に、魔物がっ! 研究所にいたザッハ殿が行方不明ですっ!」


 先ほどまでとは一転、緊張が場に走る。

 ミレニアの顔色が、僅かに青ざめた。


「お、おじうえは……?」

「結界の中に魔物、というのも気になるな。急ごう、ミレニア」

「う……うむ。おじうえ、無事でいて欲しいのじゃ……!」


 逸る気持ちを抑え、デュー達は慌ただしくフローレットの屋敷を離れ魔学研究所へ戻っていった。

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