魔学研究所にて・2
時間は少し戻って、イシェルナと再会した直後のアセンブルの宿屋にて。
かつて王都に向かったメンバーが揃い、さらにもう一人、見慣れない男が。
歳はオグマよりやや上、風来坊を絵に描いたような風体をしていて清潔感はないが鍛え抜かれた肉体によく合っている。
「ああ、紹介するわね。この人あたしのししょー」
「うちの弟子が世話になったみたいだな、イシェルナの師匠のウイロウだ」
ニカッと笑うと白い歯が、日焼けした肌によく映えた。
「あーなるほど、姐さんの師匠って感じですよねぇ」
「妙に納得してしまうのは何故なのだろうな……」
リュナンとシュクルが互いに見合わせ、どちらともなく頷いた。
明るく奔放な彼女の師匠もやはり、似たような雰囲気を纏っているようだ。
「ま、んな事ぁいいから本題に入ろうぜ。そっちの神妙な面持ちをした兄さん、話があるんだろ?」
柔和だが奥底に獣のような光を宿した目を向けられ、オグマは一瞬身を竦ませた。
「あ、ああ……実は、これなんだが……」
そう言って取り出した革袋に、一同の注目が集まる。
「中は見ない方がいいかもしれない。聖霊の森の遺跡で戦った魔物の、肉体の一部だ」
「なんだって……!?」
うへぇ、とリュナンが声を漏らす。
ただでさえあの時の魔物は見た目にもおぞましければ、マナを穢すさまは他の魔物とは違った恐ろしさを感じるものだった。
出来れば二度と出会いたくないというのに、それがこうして一部でも側にあったとは。
「あの魔物は明らかに今まで出会ったものとは異質だった。マナを食べる、しかも黒く変えてしまうなど、聞いた事がない」
「あれは生理的になんか嫌~な感じだったのう……」
中心に置かれた袋を一同が固唾を飲んで見つめている中で、ウイロウがそれをひょいっと持ち上げ、中を覗き見る。
「で、兄さん……わざわざこんなもん切り取って持って帰ってきたのにゃ、訳があんだろ?」
「はい、ウイロウ殿。これを王都の魔学研究所にいる知人に見せようと思っています」
オグマの言葉にウイロウが片眉を上げ、無遠慮に迫って距離を詰めた。
「王都……魔学研究所ぉ?」
「は、はい……近いです、ウイロウ殿……」
近付かれた分だけ身を引くのは相変わらず人に慣れていないから。
これでもマシになった方なのだが、どうやらウイロウは人より距離感が近いらしい。
「あんまいじめないだげてね師匠、オグマは人見知りなのよん」
「いじめてるつもりはねえよ。それよかイシェルナ、お前これからどうする?」
紫黒の瞳を瞬かせるイシェルナに、ウイロウが更に言葉を続ける。
「今までの旅の道程、王都の地下であった事はこいつから聞いてる。一度おさまったはずの騒ぎ、散り散りに帰っていったはずのおまえらがこうしてまた集まっている…………そして、この魔物の話だ。なんか嫌な胸騒ぎがするじゃねーか。ちなみに王都行った後どうすんだ?」
「マナスポットの異常を調査するため世界を巡ろうと思ってる」
これまでの流れをデューが説明すると、ウイロウが腕組みをして頷いた。
「…………そうか、長い旅になりそうだな。イシェルナ、おまえこいつらについてけよ」
「へ?」
どうするって聞いたのにお前が決めるのか、とシュクルは内心でツッコミを入れる。
「俺ぁもうおまえに教える事もねえし、こいつらとの旅の方が得るものは多そうだからな。いい修行になるぞ」
「それはいいけど、師匠はどうするの?」
「俺は反対方向。港から海に出て、気ままに一人旅を楽しんでるさ。なぁに、案外どっかでばったり会うかもしれねーよ?」
「もう、またそうやっていきなり決めて…………」
弟子以上に型にはまらない自由な男だ、とデューは豪快に笑う男を見上げた。
「イシェルナの性格は師匠譲りのようだな」
「いやいや、コイツこれで最初はホント可愛くなくてさ…………ま、そういう訳だからよろしく頼むわ」
ウイロウは立ち上がると、呆れる弟子の肩をぽんと叩いた。
「次会う時を楽しみにしてるぜ。またな、イシェルナ」
「はいはい、またねーん」
こんな調子が毎回なのだろう。慣れた様子でイシェルナは師を見送った。




