マナの泉を穢す者・2
一行は遺跡のさらに奥を目指して進んでいった。
途中何度か魔物に襲われ、俊敏な動きに苦戦を強いられたものの、こちらも仲間との連携でどうにか撃退していく。
多少変わった仕掛けにも行く手を阻まれたが、そこは使い方を教えられたばかりの蛍煌石を駆使して通り抜けることができた。
「順調順調、チームワークもばっちりじゃの♪」
「何がチームワークだ、お前は一人で突っ走ってただけだろ」
「あぅ」
デューに指摘されてミレニアは不満げに口を尖らせた。
「周りを見て合わせて、繋げてくれるのは旦那と嬢ちゃんですよね」
「オグマは騎士団で動いていたから連携はお手の物、か。フィノは?」
「え、わたしはそんな合わせてるつもりは……ただ、リズムを感じ取っているだけです」
照れて顔を伏せるフィノ。
未来を視る神子姫である彼女は、儀式の際に舞を踊る。
どうやら体に刻まれたリズム感が、周りとの連携を可能にしているらしい。
「……その調子で頼む。どうやら目的地が近いみたいだ」
「俺にもわかるくらい、マナが濃くなってきてます。この扉の向こう……」
術を扱う者の方がマナを感じ取るのは得意な傾向にあり、彼らの中ではリュナンはあまり得意な方ではない。それでも、戦いに応用する分一般人よりは長けていると言えるのだが。
その彼がはっきりと、濃いマナの集まりを行く先に感じた。
デューは息を呑み、扉を開ける。
「広い部屋……ここにも壁画が……」
通路から大部屋に入った一行は辺りを見回す。
一面に壁画が描かれているのがわかるが、そのどれもが無惨にも削り取られてしまって、解読は難しい。
「駄目だな……これじゃあ何が何だか……」
「……ですね」
辛うじて残っている部分も情報が少なく、何の手掛かりにもならなかった。
……が、ふと、ミレニアが残っている絵を見つけ、立ち止まる。
(これは……)
しかし、思考は不気味な音に遮られた。
――ズルッ、ズルッ……――
断続的に聞こえてくる、何かを啜るような音。
大部屋の先にまだ部屋があるようで、音はそこからだった。
「な、なんなのだ……?」
ただならぬ気配に一同は息を呑み、シュクルが全身の毛を逆立てて警戒する。
「音がする方から濃いマナを感じる……マナスポットも恐らく、この先に……」
「……行くしか、ないって事ですか」
覚悟を決めて足を進めたデュー達は、目の前の光景に言葉を失った。
目に見えるほどの濃度のマナが溢れる、マナの泉。
淡く煌めく光の粒子が漂うそれは、溜息が出るほど美しいものだったが、
「ま、魔物がマナを……食べてる……!?」
その源泉に頭を突っ込み、貪るようにして啜る魔物が一匹。
先ほどまでの道のりで戦ってきた化け物を、さらに不気味に巨大化させたような姿。
その魔物が触れたマナがどす黒く色を変えるのを見て、一同はさらに驚く。
「何じゃ、ありゃあ……」
「マナが、穢されていくだと……!」
と、魔物がデュー達の声にゆっくりと振り返る。
地の底から響くようなうなり声は、聞いた者の耳をぞくりと震わせた。
「よくわかんねーが、やるしかないみたいだな。放って置いたらまずい気がする」
「うぅ、こやつは生理的に受け付けぬ……」
即座に武器を構え隊列を整えたデュー達を敵と見做した魔物も戦闘態勢に入り、襲いかかる。
魔物の攻撃は少年の大剣と青年の斧槍が受け止めた。
「一撃が重い……オレ達で食い止めるぞ、リュナン!」
「合点承知! 伊達に体力バカと言われてませんよっ!」
すかさずオグマが二人に護りの術をかけ、攻撃のダメージを和らげる。
そして、フィノが身の丈ほどの杖を振り下ろし、魔物に向けた。
「連なる光の七星、邪を打ち砕かん!」
七つの光が魔物の身体に浮かび上がり、次々と爆ぜる。
苦悶の声をあげる魔物に、なるほど、とオグマが呟いた。
「……先程までの魔物にも光の術が効いていたように見えたが、こいつも例外ではなさそうだ……暗い場所を好む魔物の弱点のようだな」
ならば、とリュナンに視線を送ると、彼は意味を汲み取ったのか身を低くし、高く跳び上がる。
「ぶちかましてやりますよっ!」
「宿れ、雷爪の一振り!」
「「いけぇぇぇっ!!」」
振り上げた斧槍にオグマが雷を宿し、リュナンが思いっきりその力をぶつける。
これには魔物もたまらず悲鳴をあげ、よろめいた。
「トドメよろしく、少年っ」
「言われなくても……わかってる!」
デューは言うが早いか一歩踏み込み、がら空きの胴体に重い剣を一閃した。
思わず耳を塞ぎたくなるような叫び声が遺跡に響き渡り、二、三歩後ずさると魔物の巨躯はぐらりと傾ぎ、倒れ伏した。
ぴくりと動かなくなった化け物にようやく警戒を解くと、一行はマナスポットに目を向ける。
「た、倒した……」
「けど、マナスポットが穢れを帯びてしまっています。このままでは……」
フィノの言葉に、ミレニアとシュクルが進み出る。
「……城の地下と少し状況は違うが、あの時と同じように……」
「やってみる価値はあるかもしれぬ、か…………不本意だが考える事は一緒のようだな、ミレニア」
互いに見合わせ頷くと、マナの奔流に向かって意識を集中させた。




