地中に潜む脅威・4
そうしてやって来た、最深部らしき行き止まり。
儀式に使うのであろう祭壇を突き破って生えた牙を前に、一行は息を呑んだ。
「お、大きいわね……」
見上げるほどの大きさに、さすがのイシェルナも驚きを隠せない。
「これが障気の元凶、でしょうか?」
「よくわかりませんが、嫌な感じだけはビンビンしますねぇ……」
フィノ、リュナンも口々にそう言いながら目が離せないでいる。
「どうやら動いて襲ってくる訳じゃなさそうだが……」
「禍々しい感じはさっきの魔物が可愛く見えるぐらいじゃの」
硬い鉱物の塊みたいなそれは、少なくとも生き物には見えないのだが、何故か意思をもって存在しているように感じさせる。
「それに周りの障気も明らかに濃い。いくら蛍煌石があるとはいえ、あまり長居したい場所ではないな」
「うむ、さっさと終わらせるのが吉じゃの。それで兄様、これをどうすれば良いのじゃ?」
いよいよ来たるべき時が来て身を強張らせるシュクルを、ミレニアが抱き上げてそっと撫でた。
「……怖いのはおぬしだけではない。みんなついてるから、一緒に頑張るのじゃ」
「小娘……」
そんな様子を眺めていたトランシュが、静かに頷いた。
「……聖依術でこの牙を浄化する。意識を集中させて念じるんだ」
「や……やってみる」
ストンとミレニアの腕の中から降り立つと、シュクルは目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。
(浄化……牙を消し去る……)
仄かな光を纏い始めた小さな獣を、一同は固唾を飲んで見守る。
「い、いけるか……?」
光は徐々に強くなるが、牙の方はぴくりとも反応しない。
(こんな巨大な禍々しい力……余の力で、どうにか出来るのか……?)
『余計な事を考えるな、シュクル』
「え!?」
どこからか声が響き、思わずシュクルは目を開け、声の主を探した。
「……どうしたんだ、シュクル?」
「い、今、声が……」
今この場にいる仲間の、誰のものでもない声。
辺りを見回しても、それらしき人影は見当たらない。
「気のせいじゃないかしら?」
「わしも一緒に頑張るから、負けるでないぞシュクル!」
「う、うむ……」
気を取り直して、シュクルは再び牙と向き合った。
「穢れ清めし浄化の輝き……」
「その詠唱は……!?」
シュクルが再度振り向くとミレニアが今までに聞いた事のない呪文を唱えていた。
詠唱に呼応するように、シュクルの身体が輝き出す。
「……獣の身は依りべの器、その身に宿せ!」
「うわっ……!?」
眩い光が辺りを満たし、何も見えなくなる。
咄嗟に瞑った目をおそるおそる開けると、そこには……
「……牙が、ない……」
「それに障気も消えてます!」
圧倒的な存在感を放っていた牙は跡形もなくなっていて、辺りに陰鬱とした空気を漂わせていた障気も綺麗さっぱり消えていた。
「嘘みたいだ……ホントに……?」
リュナンがきょろきょろと見回す。
あれだけ大きなモノが、散々みんなを苦しめたモノが、呆気なく消えてしまっただなんてすぐには信じられない。
けれどもやはり、牙も障気ももうどこにもない。
「消えた……終わったんだ……」
トランシュがぽつりと呟きを洩らした。
じわじわと実感が駆け上がってくる。
「やっ……たぁぁぁぁぁ!!」
まず歓喜の雄叫びをあげたのはリュナンだった。
「障気が消えて、これで王都の人々も安心だな」
「手遅れにならなくて良かった……」
仲間達もそれぞれ喜びや安堵の表情を浮かべる。
そんな中でイシェルナが佇んだまま動かないミレニアに歩み寄り、肩を叩いた。
「それにしてもすごかったわね……お疲れ様」
「…………」
「……ミレニアちゃん?」
ぐらり、と少女の小さな身体が傾いだ。
「ミレニアちゃんっ!」
慌てて受け止めたイシェルナが覗き込むと、ミレニアは意識を失っていた。
「ど、どうしたんだ!?」
「大丈夫、眠ってるだけ……あれだけすごい術を使ったんだもの、疲弊して当然よね」
駆け寄ったトランシュにイシェルナが安心させるように微笑みかけると、眠ってしまった妹を預ける。
「シュクルも気を失っているな」
「二人共お疲れ様ですね」
デューは横たわるシュクルを抱き上げるとしばし考え込み、オグマに引き渡した。
「オグマ、コイツを頼む」
「え、なんでオグマさんなんですか!?」
もふもふ大好きっ子フィノが抗議をすると、デューは彼女を睨んで、
「女性陣、特にお前には渡せないと思ったからだ」
と、バッサリと言い放った。
「うぅ~……もふもふ……」
「嬢ちゃん、さすがに今はウサこうだってそっとしておいて欲しいって……」
「わたしだってわかってるのに……」
がっくりと心底残念そうに肩を落とすフィノをリュナンが慰める。
「とにかく……戻るぞ。二人を安全な場所で休ませたい」
「そうだな」
「……ふふ、騎士様もそうやってるとお兄ちゃんなのね♪」
ミレニアを背負ったトランシュの姿を見て、クスリとイシェルナが笑った。
「は、早く帰ろう」
照れ隠しに顔をそらし、騎士は元来た道へと向かう。
一行の足取りは、来た時より幾分か軽くなっていた。




