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Tales of masquerade  作者: 万十朗
第一部
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あたたかな村・1

 記憶喪失の少年・デューと彼を拾った少女ミレニア。

 二人は旅仕度を整えると山小屋を発った。


 道中は魔物との遭遇もあったが、デューは大剣を振るい難なく撃退していく。


「……記憶がないと言う割にいい動きじゃの。身体が覚えてる、とかいう奴か?」

「かもな。お前も戦い慣れてるようだったが。」


 チラリ、とデューはミレニアの手元を見やる。

 彼女が手にしている短いバトンのような武器は戦闘時には鞭になる。先端の錘に刃がついており非力な者でもダメージを与えられるが扱いには慣れが必要だ。

 と言っても、大概はデューの後方から術で支援していたのだが。


「ふふん、今時の女は自分の身も守れなくてはの!」

「そう、か……」

「……まぁ、山小屋と村を往復しとればいつも平穏無事とは限らんのじゃ」


 ほれ、とミレニアが前方を指し示す。

 つられて見れば頑丈そうな木の柵に囲まれた村の入口が視界に映る。


「着いたぞ、シブースト村じゃ」


―山間の村シブースト―


 小さな村ではあるが、素朴であたたかな雰囲気が溢れている。


「知り合いの一人もいればいいのう、デュー」

「ああ……」


 言いながら入口に向かって歩いていくと、門を守る兵士がこちらに気付いた。


「おっ、ミレニアちゃん。そっちの子は? 彼氏?」

「記憶喪失とか言うとるのを拾ったんじゃ。おぬし知らんかの?」

「記憶喪失、ねぇ……」


 門番の男はデューをまじまじと見つめるが、やがて眉間に皺を寄せて首を傾げた。


「ごめんな、俺にはわからないや」

「……そうか」

「力になれなくてごめんな」


 俯くデューの背中をばしばしと叩くミレニア。


「そう気を落とすな、きっと手掛かりは見つかる」

「根拠はあるのか?」

「ないがの。じゃが誰にも知られず生きとる人間などおらんじゃろ」


 ミレニアに手を引かれて、デューも村に足を踏み入れる。


「こんにちは、ミレニアちゃん」

「おお、今日も元気そうじゃの」


 手掛かりを探すため村中に声をかけて回るミレニアに対する村人達の反応はどれも明るく朗らかだ。


(慕われているんだな……)


 彼女の人柄が成せるのか、などとぼんやり傍観していたデューだったが、


「うわぁぁぁんミレニアお姉ちゃぁぁぁぁんっ!!」

「っ!?」


 突然の体当たり(辛うじて躱したが)によって思考は中断された。


「カネル、どうしたんじゃ?」

「うっうっ、ミレニアお姉ちゃん……シナモンが、シナモンがっ……」


 デューを通り越してミレニアに飛びついた少年、カネルは泣きじゃくっていて要領を得ない。

 ミレニアはそんな彼の頭をよしよしと撫でた。


「泣いてるだけじゃわからんぞ?……おぬしはわんぱくで強い子じゃと普段から豪語しておったじゃないか」

「う……うん」


 カネルは涙が零れる目をごしごし擦り、話し始めた。


「おれ……村はずれの森でシナモンと遊んでたんだ」

「あそこは危ないから近付くなと言われとらんかったか?」

「ご、ごめんなさい……」


 言いつけを破った事を素直に認め、しおらしく謝るカネル。

 だが今はそれよりも。


「シナモン、っていうのは?」

「この子の双子のきょうだいじゃよ。いつも仲良しなんじゃ」

「そいつが今いないという事は……村外れの森とやらに置き去りにされたのか?」


 デューの言葉にカネルはビクリと身を竦ませる。


「さ……最初は森の中に入らずに入口近くで遊んでたんだ……けど、……」


 幼子は青ざめた顔で震えながら語る。


「おれが、……まものも出てこないからって、シナモンの手を引っ張って……少し奥に進んだんだ。そしたら……」

「魔物に会ってしまったと?」

「……声が聞こえた。急にこわくなって逃げたんだけど……気が付いたらシナモンがいなくて……っ」


 とうとう泣き出してしまったカネルの肩にそっと手を置くと、ミレニアは微笑みかける。


「泣くな。強い子なんじゃろ?……後で二人揃って叱ってやるからおぬしはここで待っておれ」

「ミレニアお姉ちゃん、森に行くの?……怖いまものがいるよ?」

「大丈夫じゃカネル。お姉ちゃんはすっごく強いんじゃよ」


 その表情は安心させるように、頼もしく。

 そして彼女の足は村の外へと向かう。


「……一刻を争う、急ぐぞ」

「ほぅ、ついて来てくれるのか?」

「あんな話を聞かされて、お前一人で行かせるほどオレは薄情じゃない……らしい」


 デューもまた、ミレニアについて歩き出す。


「案内しろ、その森に」

「なんじゃ、道もわからんくせに偉そうに」


 そうして小さくなっていく二人の背中を、カネルはいつまでも見つめていた。

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