魔物に憂う街・4
フォンダンシティに戻ると、先に洞窟を出たカシュー達が広めたのか魔物が退治された事は町中に知られていた。
「あーあ、俺が倒そうと思ったのに……誰だか知らねぇが先を越されたぜ」
大袈裟に残念がるのは最初街に着いた時に声をかけてきた男。
自慢の大斧も振るう事なくだらりと下がった手に握られていた。
「……デュー君、言わないの? 魔物を退治したのは自分だって」
イシェルナがそう尋ねれば、デューはぷいと顔を背ける。
「……別に。オレは手柄や力を誇示したい訳じゃない。そもそも一人で倒した訳でもないしな」
「素直じゃないの~」
ホントは嬉しいくせに、とミレニアは内心で付け足した。
「だが、街の人達を助けられて良かったな」
「先程のことといい……貴様はとことんお人好しだな。何の得にもならぬだろう」
シュクルの言葉にオグマはしばし考え込むと、
「……そうだな、この目で蛍煌石を見られただけでも得だと言えないか?」
極めて真面目な顔でそう答えた。
呆れ果てた様子のシュクルにイシェルナはクスッと笑う。
「そうね……確かにアレは綺麗だったわね☆」
「うむ……本で読んだり加工された形でなら見た事あるが、ああいった状態を見るのはわしも初めてじゃ」
ミレニアも同意して笑う。
「けど洞窟で汚れちゃったわね。早くお風呂に入りましょ~」
「ほら、シュクルも行くのじゃ♪」
「うぉっ!? こら、放せ小娘っ!!」
女子達はシュクルを抱きあげると、宿屋へ走って行った。
残されたデューはチラリとオグマに視線を移す。
「……で、成り行きでここまで来たけどオグマはどうするんだ? 岩が取り除かれるのをここで待つ、という手もあるぞ」
「デュー……」
オグマの住む家があるアトミゼの山は先日落石で道を塞がれ、彼は帰れなくなってしまった。
なかば無理矢理連れて来られてしまったが、山から一番近いこの街で復旧を待つのが本来なら普通だろう。
「私は……迷惑でなければ、このままもう少し君達といさせて欲しい」
「それは勿論構わないが……いいのか?」
このまま静かに暮らしたいのではないのか、と無言のまなざしで尋ねる。
オグマの水浅葱の瞳が僅かに瞬いたが、
「……ああ」
はっきりとそう返ってきたので、デューはそれ以上何も言わない事にした。
「オレ達も行こう。なんだかどっと疲れた」
「そうだな」
賑やかな女性陣とは対照的な雰囲気で、彼等もまた宿へと向かうのであった。