魔物に憂う街・3
カシュー達は幸い、魔物のボスからは離れていた。
狙いはまず、デュー達に定められる。
「お前達は逃げろ!」
振りおろされた腕を剣で受け止め、デューが叫ぶ。
ミレニアとオグマは既に術の詠唱に入っていた。
「贄を食らうは地竜の顎、開け!」
「巻き起これ、氷結の旋風!」
下から突き上げる岩の槍と吹き荒れる氷の嵐が魔物を襲う。
「あたしも、……っと!?」
続けて攻撃しようとしたイシェルナを魔物の反撃が掠める。
咄嗟にかわしたものの防御した腕に傷を受けた。
「大丈夫か、イシェルナ!」
「へーきへーき、ちょっとビックリしたけど……さすがに簡単にはいかないわよね」
素早く前に出たオグマがナイフを投げ、魔物の追撃を妨げる。
その間にイシェルナは体勢を立て直し、傷を気功術で治した。
「一気にいくわよ、デュー君?」
「……わかってる」
イシェルナが目配せするとデューが剣の柄を握る手に力をこめる。
後ろではミレニア達がそれぞれに補助術をかけ、前衛二人の能力を高めた。
「いくぞ!」
「OK♪」
先に魔物に接近したのはイシェルナで、連続して拳を繰り出す。
「さっきの……お返しよんっ!」
踵落としで連撃を締めくくり、すかさず跳びすさるとデューが魔物の目の前まで駆け寄った。
「はぁい、バトンタッチ♪」
「任せろ!」
突撃しながら流れるように連続で斬りつけ、最後に斬り上げたところに、
「……雷光よ、迸れ!」
「爆ぜろ火の玉、メラメラじゃ!」
オグマとミレニアの術が炸裂し、魔物がうめき声をあげて倒れる。
カシュー達はそんな光景を、幻でも見るようにぼんやりと眺めていた。
「す……すごい……」
マカデミアがぽつりと呟くとカシューが我に返る。
「な、なかなかやるな! だが我らだって……」
ぐぅ。
「カシュー、オラぁ腹が減ったでガス~」
「む……」
一際大きなウォールの腹の虫に言葉を中断され、勢いを削がれたカシューは気まずそうに押し黙る。
そのままくるりと出口に向かい、
「こ、今回の所は手柄を譲ってやろう! ではさらばだ!!」
「あ、待ってよカシュー!」
先程治癒術をかけて貰ったお陰か、風のように軽やかに去っていった。
二度目の遭遇だったデュー達は驚きもしないが、初めてこの三人のノリを体験したオグマは呆然としていて、
「な……なんだったんだ?」
「漆黒のなんちゃらとかいう旅芸人トリオじゃよ」
「速攻で嘘を教えるな」
さらりと嘘を言うミレニアにすぐさまシュクルがツッコミを入れた。