若き力・2
入り組んだ迷宮、といっても基本的には下を目指して行けばいつかはマナの源泉に近付いていく。
そして進むにつれてあの不気味な黒い魔物達の数が増えていったのも、目的地が近いことを表していた。
「って、まっすぐマナスポットを目指してみたけど、こっちでいいんですかね?」
今さらながらリュナンが疑問を挙げると、オグマが立ち止まり目を閉じた。
「ここに来てモラセス王が何をするつもりかはわからないが、アラザン霊峰のマナスポットは有名だ。わざわざ王都から訪れた目的としては、可能性が高いと思う……それに、」
「それに?」
「誰かが、呼んでいるような気がする……こっちだ、って」
壁に左手を置き、意識を集中させているように見えるその姿は彼を呼ぶ声に耳を傾けているのだろうか。
他の仲間には何も聴こえていないが、この状況でオグマが嘘を言っているとも、根拠のないものに縋っているとも思えない。
「オグマは火の精霊には好かれないかもしれんが、ここではモテモテみたいじゃのう」
「どうだろうな……だが、ここまで強く惹かれる感覚は、初めて……?」
しばらく歩いていると細く長い道は終わり、突き当たりの広間らしき場所に出た。
ここが迷宮の終着点なのだろうか、ミレニアの持つ魔方針が強い反応を示している。
そして、その先には……
「――ッ!」
マーブラム城でのことが思い出されてか、カッセが赤銅を見開き、身を強張らせる。
「ふむ、ここまで辿り着いたとはな」
酷く落ち着き払った低音が反響する。
長い白髪に山羊のような髭、切れ長の赤い目は初めてまみえた時のモラセス王そのものだが、ここまでの道程で戦った異形と同じ色をした翼を生やし、皮膚の何割かもその表皮に覆われ、行方知れずになる前よりも魔物と同化が進んでいるようだった。
「モラセス王……」
「それに、その奥にいるのは……」
王と対峙している大型の獣に一行の注目が集まる。
大柄なモラセスでもやや見上げる形になる獣の毛並みは艶やかに輝いて、静かな佇まいは神々しさすらおぼえる。
魔物とは明らかに違う気配は、漠然とした感覚でそれが聖依獣なのだと悟らせた。
「……もうここには用はない。さらばだ」
「あっ……!」
デュー達が聖依獣に気を取られている隙に、モラセスは翼を羽ばたかせ、障害物もなく上へと通じている迷宮の中央部を抜けて飛び去っていってしまった。
「くそ、ようやく追いついたと思ったのに……」
「……人間、と聖依獣が共にいるのか」
焦りを顕にして髪を掻き乱すデューに、凪いだ水面のような声が語りかける。
(!? なんだ、どうして既視感がある……?)
少年を見下ろす聖依獣の瞳に鋭さはないが奥まで見透かされていると錯覚させ、心臓の鼓動を速めた。
「シュクルもカッセもオレ達の仲間だ。それより……モラセス王と何の話をしていたのか、聞かせてくれないか?」
「それは構わぬが……どうやら招かれざる来客がいるようだ」
獣が長い尾を動かすと、デュー達を取り囲むようにしてマナを喰らう魔物が現れる。
「……近頃このマナスポットを食い荒らしている連中だ」
「知っておる。話はこいつらを片付けてから、じゃの!」
ミレニアの指先から炎が舞い遊び、荒々しく形を変えた。