見守りし者・4
マンジュの宿は他とは一風違った趣で、ミレニアは前回の宿泊ですっかりここが気に入ったようだ。
他の大陸では見られない畳という床の寝心地、匂い。
そして美しい風景を楽しみながら入る露天風呂の心地よさは極上だ。
と、一通りくつろいだ後、デューの姿が見えないことに気付いた彼女は宿を抜け出した。
ここの住人は変わった装束を着ているが、ここではデュー達の方が異質。
探すのはそれほど難しくなく、色づいた葉が舞い落ちる木の下で、少年の姿はすぐに見つかった。
「おーいデュー、もう具合はよいのかの?」
「……なんだ、ミレニアか」
大丈夫だってさっきも言ったんだけどな、とすかしているところは先程とは違って本当に大丈夫なようだ。
「なんだとはなんじゃ、珍しく調子が悪そうだったから気になったんじゃよ」
「珍しく……そんなに普段は気にならないか?」
藍鉄の瞳が意外そうに瞬くと、ミレニアはうむ、と返す。
「デューはどちらかと言えば気にする側じゃからの。あちこちよく見て気ぃ使っとるイメージじゃ」
「……」
よく見ているのはどちらなのか、と言いかけて口から出たのは違うものだった。
「そのオレは、本当に本来のオレなんだろうか」
「どういう意味じゃ?」
「記憶喪失になる前のオレは今とはぜんぜん違う性格だったりするんじゃないか、もしそうなら記憶が戻ったら今のオレはどうなるんだ……とか」
目の前の少女に拾われて、“デュー”という名前をつけられて、もう何ヵ月になるだろう。
すっかり馴染んだ生活と、仲間。
とんでもない事件が起きてしまっている現在のこの状況はお世辞にも良いとは言えないが、仲間といるのは好きだし、彼らのことを大事に思っている。
などと頭を抱えていると、
「……はーーーーーーっ」
盛大過ぎるほどに息を吐く少女が、デューの顔を上げさせた。
「な、なんだよそのでっけえ溜め息……」
「デューはむずかしいこと考えるのー。そんなの、デューがしたいようにするしかないじゃろ」
ガツンと頭を叩かれたような、そんな気分だった。
「記憶喪失のことはよくわからんが、いきなり別人にゃならんと思うがのう。空っぽならともかく、今のデューにも新しい記憶が積み重なって、ちゃんと物事を考えて動いとるじゃろ?」
「ミレニア……」
「それでもなんかあったら、わしらが何とかする。仲間じゃからの!」
何とかなる根拠はないくせに、胸を張って宣言するミレニアが頼もしく見えて、妙に可笑しくてデューは思わず吹き出した。
「ふ、そうだな。頼りにしてるぜ、名付け主」
「大船どんぶらこなのじゃ♪」
前を向いた少年の脳裏に、先刻聴こえた声が思い出される。
『貴方には“宿命”をあげるわ。名前も過去も全てなくしたその目で、この世界を見てらっしゃい』
声の主、目的……現時点ではまだまだわからないことが多すぎる、そんな中で……
「さて、それじゃ戻るか」
デューの足取りはしっかりと、仲間のもとへと歩き出した。