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Tales of masquerade  作者: 万十朗
第二部
118/455

混沌の王城・2

 マーブラム城に足を運ぶのは数回目になるが、正面から城内に入るのはデューには初めてのことだった。


 人気のない入り口を不審に思いつつ歩いていくと、手入れが行き届いた内部も閑散と静まり返っていて、ここが本当に中央大陸のさらに中心地となる城なのかと疑問がよぎる。


「我々があっさり入れたのもそうだが……騎士も使用人もいないというのはおかしいな。無用心過ぎる」


 年齢性別出で立ちとどれをとっても統一性のないデュー達は、有り体に言ってしまえば怪しい集団だ。

 そうでなくても、全く何のチェックもなしに王が住まう城にこうも簡単に入れるものだろうか。


「ぬー、揃って遠足にでも行ったのかのう?」

「んな訳なかろう……ああほら、噂をすればちゃんと騎士もいるではないか」


 ミレニアの推測を一蹴すると、シュクルは正面からやってくる騎士の男を尻尾で指し示した。


……だが、


「……姿勢が悪いな」


 オグマの呟きに一同は目を丸くし、彼を振り返った。


「は?」

「ああ、いや“騎士たるもの清く正しく美しく。背筋を曲げた見苦しい姿で騎士を名乗るな!”とよく言われたものでな」


 言われてみればその男の足取りは重く覚束なく、背筋もだらしなく丸め手にした槍にもたれかかるようにしていた。

 元は同じく騎士だったオグマの話が今でも通るなら、明らかに様子がおかしい。


「具合でも悪いのでしょうか?」

「ふむ……君、大丈夫か?」


 歩み寄りながら声をかけると、騎士は俯いたまま低く呻いた。


「……に、」


 じわり、と滲み出す黒い影が、生き物のように蠢く。

 咄嗟に一歩飛び退いたオグマの肩を、騎士の槍が掠めた。


「王の間に、誰も通すな」

「ッ!」


 瞬間、デューの肩に留まっていたクズキリが慌てて羽ばたいて、甲高く鳴いた。


「……王の時とよく似ている、だと?」

「うへぇ、何、どういう事なんです!?」


 混乱するリュナンをよそにフィノの歌うような詠唱が強い光を生み出し、騎士の目を眩ませる。

 直接攻撃はせず、視界を奪って動きを止める手段に出たようだ。


「今です!」

「すまないっ!」


 彼女の目配せに応じたオグマが素早く懐に身を滑らせ、当て身で昏倒させて終了。

 倒れた騎士から離れていく影の化け物は、宿主を失うと溶けるように消えてしまった。


「とりつかれていただけか……フィノのお陰で、手荒な真似をしないで済んだ」

「シュクル君、王様の時と似ている、って言ったんですよね? そしてこの騎士さん……もしかして、城内には他にもとりつかれた人が?」

「そうだとしたら、この不気味さもわかるわね……気を付けて進まないと。とりつかれているだけなら、あんまり乱暴はしたくないものね」


 やむを得ない場合は仕方ないけど、と付け足すイシェルナに呆れて一瞥をくれたデューは、ふいに視線をガトーに貰った蛍煌石の腕輪に落とす。


「……なぁオグマ、人に向けて撃ったらいけないこいつを使ったら、距離があっても気絶させられるかな」


 腕輪の石にマナをこめれば、衝撃を伴う光線が発射される。

 以前、オグマに教えて貰ったことだ。


「しょ、少年、発想が恐ろしいんだけど……」

「だっていちいちこうやるより早いし、うまくいけば外傷も最小限に抑えられるだろ? ほら穏便だ。オレ、ナイスアイディア」


 淡々とそんなことを述べる少年の末恐ろしさを感じて、リュナンは言葉を失った口元を引き攣らせる。


「そうだな、威力を調節すれば出来なくもない」

「旦那まで!」

「ただし、さっきみたいにとりつかれているとわかった場合だな。なんでもない相手に撃ったらダメだぞ」

「わかってるって。じゃ、進もう」


 本当にわかっているのだろうか、揚々たる後ろ姿に不安を覚えるリュナンであった。

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