黒魔女は迎えられたい
だから時間通りに更新しろって
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邂逅するのは、紅の魔女――ローザ。焔のように赤いその髪を揺らしながら、彼女はミーシャへとどこか艶やかな笑みを浮かべた。まるで、今まで出会えなかった何かとようやく再開を果たしたような、恍惚の表情。
その細められた瞳から覗く視線に、ミーシャは首に刃物を当てられたような気配を感じ取り、震えた唇を開く。
「ど……、ど……」
「……ど?」
「ド畜生ゴミカスクソ魔女……」
「…………」
…………。
「ん? あの、えっ? すいません、私何かして……」
「ついに見つけたわ、この忌まわしき悪趣味魔女めっ! よくも私の頭にあんなヘンテコなネコミミつけてくれたわねっ! あの時の屈辱を忘れるもんですか! ここで成敗してくれるわ!」
「は? え、と……?」
「りっくん、ごー! あいつをめちゃくちゃにしてやりなさいっ!」
「御意ッ……!」
ミーシャが指を突き出した瞬間、後ろに控えていたフェンリルが地面を強く蹴る。そして全身に逆立つ毛並みを騒がせたかと思うと、自らの躰を駆け抜ける疾風へと変えた。
一迅の風と化した嵐の獣が、ローザの首元を目掛けて牙を光らせる。前から吹き抜けるその殺気にローザは動ずることもせず、向かう突風を睨みつけながらゆっくりと右腕を前に向ける
瞬間、ミーシャの視界を一面の火炎が遮った。
「ぶおわああ!! こなくそおおおおおお!!」
突然襲い掛かる熱の壁に、ミーシャが喉の奥から野太い悲鳴を上げる。思わずふさいだ腕の隙間から抜ける熱風がミーシャの髪をばさばさと揺らし、その後ろで吹き飛ばされたフェンリルがべち、と情けなく地面に打ち付けられた。
「くぅん」
「あーーりっくん!! 畜生このまっかっか女めっ! よくもうちの可愛いりっくんを!!」
「いやその……正当防衛?」
ガラガラ声で叫ぶミーシャに、ローザがはて、と首を傾げる。勝手にイキり散らして暴言吐きながら殺人に走った犯罪スレスレの黒魔女は、うぐぐと悶えながらも自らの手に黒い杖を取り出そうと魔力を込めた。
「クッッソテメー……! こうなったら、みんなでこいつを……」
と、黒い杖を取り出そうとしたミーシャの前に、ふわり、と優しい風が吹く。
次の瞬間、視界を埋め尽くしたのは穢れの無い純白だった。
「あ、アイリス?」
「アイリス……」
白い花びらがミーシャの背中から流れて、青い空へと舞い上がる。何度も目にした、転移の白魔法。後ずさるミーシャの背中を、同時に運ばれてきたウイスティが優しく支えた。
困惑したような黒の魔女の視線と、待ち焦がれていたような紅の魔女の視線が白の魔女へ重なる。その四つの金の瞳に映るアイリスは、ミーシャを守るように手で制しながらその薄い唇を開いた。
「ごきげんよう、ローザ。貴女に会えるこの日を、ずっと待っていたわ」
「ええ、アイリス。私もです……ずっと、ずっとあなたを待っておりました……」
二人の間に沈黙が流れる。視線は一切の動きを見せず、どこか遠くから見つめ合っているよう。その裏には言葉だけでは表せないような、ぐちゃぐちゃとした得体の知れない感情が秘められているような、そんな気がした。
やがてひとつの風が吹き、アイリスとローザの髪を揺らす。静寂は溶けるように消えてゆき、先に言葉を切り出したのはローザからだった。
「アイリス、私の屋敷に場所を移しませんか? 見たところ、本日のお宿もまだ決まっていないご様子……でしたら、空いているお部屋をいくつかお貸しいたします」
周囲に目を配らせながら、ローザがそんなことを口にする。その言葉に、アイリスは冷たい視線を送ったまま閉じていた口を開く。
「あらあら、やけに準備がいいのね?」
「ふふ、あなた方が来ると聞いて居てもたっても居られませんでしたもの。それにノールドを統括する者として、そして夜会の主催者として、主賓であるあなた達をお迎えしないわけにはいきませんから」
「主賓だって? 私たちが?」
そう不審がって疑問を口にしたウイスティに、ローザが目を向けた。
「もちろんです、ウイスティリア様。黒魔法を研究する第一人者であるあなた。私の友人であり、白魔法を極めた白魔女のアイリス。そして稀代の黒魔法の使い手である、黒魔女のミーシャ様……今宵の夜会は、とても満ち足りたものになりそうです」
「しゅひんっ」
突然名前が挙がったことに食いついたミーシャが、瞳をきらきらと輝かせながらローザに問いかける。
「主賓って、パーティーの主役ってことだよね?」
「もちろんですよ、ミーシャ様」
「ってことは、皆から黒魔法を認めて貰えたってこと?」
「ええ。今回はそのための夜会です。ですから、黒魔法の素晴らしさを私達に伝えて頂ければ、と」
「美味しいものもいっぱい出る?」
「はい。ノールドでも最高級の食材を、それはもうたんまりと」
「うぇっへへ、へへへ……主賓……」
口の端からヨダレを垂らすミーシャの両肩に手を乗せて、ウイスティが口を尖らせる。
「……主賓、ねえ。あなたと何もつながりのない私達が、いきなり」
「そんなことはありません。あなた達はアイリスの友達なのでしょう? それなら、最高級のおもてなしで迎えなければいけませんからね」
「そんなもんかね?」
「ええ。少なくとも、私の中では」
にっこりと目を細めているローザに、ウイスティはどこか浮つくような違和感を覚えた。蜘蛛の糸に指先で触れたような、そんな感覚。流れる妙な雰囲気を乱雑にかき消すように、ローザは再びアイリスへと口を開く。
「では、話はここまでに。しばらく揺れますので、どうかお許しを……」
その瞬間、紅の花びらがミーシャ達を包み込む。
ふわりとした浮遊感を感じたのは、ローザの吊り上がったような笑みが、花びらに溶けてからだった。
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ミーシャ達が次に立っていたのは、紅に染まった荘厳な屋敷の前の前だった。
壁を埋め尽くすのは、薄暗くも照り付けるような薔薇の色。華々しさを感じさせながらも荘厳な雰囲気を見せつけるその豪邸は、見上げるほどに大きく、青空を背にしてミーシャの眼前に佇んでいる。
「でっか……」
「アホじゃね……?」
「ミーシャ様方、こちらへどうぞ。お部屋をご紹介してから昼食も用意させていただきます」
あんぐりと口を開けたままのミーシャとウイスティに、門へ手をかけたローザが声をかける。アイリスの方はもう見慣れているのかはたまた興味がないのか、激しく自己主張をしている屋敷には目もくれずにミーシャの後を歩いて門の中へと足を踏み入れた。
これまた広い庭に敷かれた石畳を歩き、ミーシャが問いかける。
「このお屋敷、全部ローザさんの?」
「はい。と言っても、私一人ではなく使用人や抱えている魔女との共用ですね。どちらかと言えば大家さんと言った方がよいのでしょうか……?」
「いや私らに訊かれても困るよ……」
「ふふ、それもそうでした」
くすりと笑うローザを先頭に、ミーシャが再び問いかける。
「抱えている魔女、って?」
「そうですね……ひとことで表すなら、弟子でしょうか」
口元に手を当てながら、ローザは恥ずかしそうに笑う。
「数年前から私の研究した魔法を教えているんです。といっても私はあまり魔法が得意ではないですし、私は他人に教えるよりも自分ひとりで研究する方が性に合っているのですけれど」
「ほえー」
「でも、私としては研究の成果を試してくれるのでとても助かっています。家事や研究を手伝ってくれたりもして、いい子たちなんですよ。このあとご紹介いたしますので、どうか仲良くしてあげてくださいね?」
そう話を続けているローザの歩みが屋敷の前で止まり。固く閉ざされたその扉に手を触れる。ミーシャの目の前に荘厳として立ちはだかっていた扉は、ぎぎぎ、と古びた音を立てて開かれた。
そうしてミーシャ達を出迎えたのは、紅と金の交錯だった。
視界を埋め尽くす紅と、シャンデリアから降り注ぐ黄金の色。ミーシャが勝手に寄生している屋敷と同じ広さでありながら、豪華絢爛なその雰囲気に、ミーシャは呑まれたまま固まっていた。帰ったら掃除でもしようかなとかそんな事を思っていた。
そんなどうでもいい思考を巡らせているミーシャの前を、ローザが歩む。その凛とした佇まいはどこか惹かれるようであり、ローザの纏う雰囲気にぴたりと合てはまるようだった。
「ジオラ、ソフィー。お客様がいらっしゃいましたよ。研究室から出てきてくださいね」
「はーい」
「いー」
そんな間の抜けたような声と共に、ローザの両脇に淡い紫の花びらが舞う。ひゅぅ、と風がミーシャの頬を撫でると、そこには三角帽子を被った、二人の少女が立っていた。
瞳の色は、それぞれが紅と蒼。かたや昏い深淵を映したようで、もう一つは突き抜けるような蒼天を映したよう。それ以外はまるで鏡に映したように瓜二つであり、それぞれの瞳の色と白を基調としたローブに短めのスカート。髪の色はどちらも銀であり、十六、七ほどの背丈もほとんど同じで、頭の上にはふんぞり返るように大きな三角帽子が乗せられていた。
深めに被った帽子の調子を整えて、二人は同時にローザへと声をかける。
「おかえり師匠、やけに早かったねー」
「……おか、えり。ししょ」
紅の瞳の少女に続くように、蒼の瞳の少女が小さく呟く。その様子は対照的であり、紅い方の少女の後ろに蒼い少女が付いていくような、そんな雰囲気がミーシャには感ぜられた。
「はい、ただいま。それよりもほら。今朝お話をしたでしょう? お客様に挨拶を」
「はーい」
「いー」
ローザがそうミーシャ達の方を手で示すと、二人はとてとてと絨毯を辿ってゆき、先頭に立つミーシャの前でその足を止めた。
「おっすー! そっちが噂の黒魔女ちゃん?」
「ねえちゃ……初対面に、それはしつれい……」
「そうよ! 私が! 今回の魔女の夜会の! 主賓の! 偉大なる! 黒魔女のミーシャよ!!」
「うわすっごいテンション高い」
「…………びっくり、した」
胸を張りすぎてほとんどのけぞるような姿勢で豪語するミーシャに、二人が少しだけ引いた。ミーシャは自分から喋りすぎてコミュニケーションが取れない方のコミュ障だった。
笑いすぎて少し喉が痛くなってきたミーシャをよそに、二人がそれぞれ口を開く。
「私は紅魔女の一番弟子、記魔女のグラジオラ! 気軽にジオラちゃん、って呼んでね!」
「……ソフィーは、夢魔女のジプソフィー……そふぃー、がいい……」
「アイリス様も、ウイスティリア様も師匠から話は聞いているわ! 二人とも遠い所からご苦労さま! 今日と明日はよろしくね!」
「よろ……し、く……」
そう言葉を終えたジオラとソフィーを見計らったかのように、ローザが二人へと声をかけた。
「ではジオラ、ソフィー、今朝話したようにミーシャ様方をお部屋へ案内してください。私はその間にお昼ご飯の準備をしておきます。出来上がったら呼びますね」
はーい、いー、と続く声を背に受けて、ローザが花びらに包まれる。姿を消したローザを後にして、ジオラとソフィーは後ろに手を回しながら、そろそろ腰が痛くなってきたミーシャに驚き、少し躊躇いながらも声をかけた。
「えっと……ミーシャ様? お部屋へご案内……」
「いいわよ! 黒魔女の私にふさわしい立派なお部屋なんでしょうね!」
「たぶん」
「それじゃあ案内よろしく! ふっふっふ、今から夜会が楽しみになってきたわ!」
ルンルン気分でジオラとソフィーの後をミーシャがついていく。そんな彼女の背中を見つめながら、ウイスティは険しい表情を浮かべながら、ふと隣を歩き出すアイリスに問いかけた。
「なあ、アイリス」
「どうしたの?」
「……ちょっと、話が出来すぎじゃない? 別に私達は一緒に来る予定もなかったでしょ? それなのにあの子たち、まるで私達が同時に来るような口ぶりだったし……何か、おかしくないか?」
「そう、かもね」
口元に手を当てて、深刻な表情でウイスティが考え込む。そんなウイスティに呆れるようにアイリスがため息を吐いて、彼女の方へ振り向いた。
「ウイスティ、あなたの悪い癖よ。考える時間はまだあるわ」
「そうかな……」
「それに、《《今のところは》》歓迎されているみたいだし。あの子たちも別に騙そうとしているわけではないみたい。今はとりあえず彼女たちに従っておきましょう」
「……だ、ね。そうだ。考えるのは後でいくらでも、できる……」
そう会話を交わし、ウイスティとアイリスが紅の絨毯を歩む。一方は未だ不安そうに、もう一方はまるで覚悟がついたようにで、二人は前を行く白と黒の少女の後ろを歩んでいった。
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「ねーまだー?」
「もう少しだから……ってそれ、二分前に聞いたよ?」
「せっかち……」
「まったく、こっちは偉大なる黒魔女なのよ? 今回の夜会の主賓なのよ?」
「黒魔女ならこれくらい我慢できるでしょー」
「むぅー……仕方ないわね」
「……ちょろ」
大体ミーシャの扱い方が分かってきたジオラとソフィーを先頭に、ミーシャ達が長い廊下を歩いてゆく。案内を始めてから五分ほどしか時間が経っていないが、ミーシャの顔は気だるげで退屈さがにじみ出ている。ミーシャは知恵の輪を解こうとして三回くらいであきらめるタイプの黒魔女であった。
後ろ手を組みながらミーシャが周囲の景色へ目を向けようと思ったが、見えるのは赤と金の色彩と、一定の感覚で設置された窓からの街並みだけ。いくらか続くその景観に、ミーシャがふと前を歩く二人へと声をかけた。
「てかさー、このお屋敷むちゃくちゃ広くない? こんなところにあなた達だけで住んでるの?」
「んー、全部ってわけじゃないよ? 部屋はいっぱいあるけどほとんど研究室だし」
「……ししょーが、いっぱいお部屋使うから。私達とか、使用人さんが住んでるのは、お屋敷のはじっこ……」
「二人で共同部屋だしね……」
「べっども、いっしょ……」
しょんぼりと言うジオラとソフィーを見る限り、どうやら生活環境はあまり良くないらしい。そう話を続けているうちに、二人は廊下の突き当りにたてられた、大きなドアの前で足を止める。
「はい、ここ! 一部屋しかないけど、このお屋敷の中で一番広い部屋だから大丈夫! お布団も三つあるし、その他に何か必要だったらまた私達に言ってね!」
「……ここのお屋敷は、北館と、南館でわかれてて、ミーシャさまたちが今いるのは……南館の、二階……」
「分からなかったらそこらへんにいる使用人さんに訊けばなんとかなるよ。今は明日の夜会の準備であんまりいないけど、夜になったらまた出てくると思うから」
「あら、ご丁寧にありがとうね」
「大切な師匠のお客さんだもん、当然だよ! ね、ソフィー」
「……うん……ししょーの、ともだち……」
ジオラとソフィーの尊敬とも取れるような視線が、アイリスへと向けられる。その赤と青の瞳にアイリスが少しだけ口を噤んだが、それを隠すようにウイスティが横へ割り込んだ。
「とりあえず私カバン置いていいかな? 荷物が多いの私だけみたいだし」
「はいはーい! じゃ、さっそくごあんなーい!」
そんなジオラの高い声と共に、きぃ、と扉が開けられる。
室内は走り回れそうなほどに広く、椅子やテーブルを始めとしたいかにも高級そうな家具が並んでいる。ドアを抜けて左手、北館の方にはどうやって入れたのか疑問に思うような天蓋付きのベッドが三つ。さらにその奥はテラスにつながっており、そこからは色とりどりの花が咲き乱れる中庭が覗いてる。
「おー……」
「広い……」
ドアの前で立ちすくみながら、ミーシャとウイスティがそんな声を漏らした。
「いやはや、こんなとこに泊まれるなんて思わなかったよ。半ば旅行気分だね」
「そう言ってくれて嬉しいわ! ここね、私とソフィーがいっしょになって準備したの!」
「ねえちゃ、そういうのは言わないやくそく……」
「あ、はは……でも凄いよ。ありがと」
わちゃわちゃと話すジオラとソフィーに、ウイスティが少し呆気に取られながら笑う。一見すれば彼女たちが何か企んでいるような風には見えないし、この振る舞いにそういった意志も見られない。ジオラとソフィー達に対するウイスティの心配は、空回りのようにすら思えるようだった。
では、先ほどの杞憂は何だったのか――と思いふけるウイスティの思考を、その叫び声がかき消した。
「うおー! ベッドふかふか!! だーいぶ! いえーい!!」
「ミーシャちゃん、そんなに跳ねると危ないわ」
「だいじょーぶだいじょーぶ! ほらほら、空中一回転もできンぶひゅッ」
「あらあら埋まったわ」
ベッドに逆さまで突き刺さったミーシャに、アイリスが困ったように頬に手を当てる。ミーシャは運動があまり得意ではない黒魔女だった。最近は筋肉痛が二日遅れでやってくるようになった。
根菜を収穫する感じでアイリスがミーシャをベッドから引き抜くと、目をぐるぐると回しながらミーシャがベッドの上へと寝転がる。
「……く、屈辱よ……紅の魔女、まさかここまでやるなんて……」
「まだなんも、してない……」
「まだ何も? 冗談じゃないわ!あの魔女、私にヘンテコなネコミミ付けたのよ! 今まで忘れてたけど!」
「そんなこと忘れてたの……?」
魔女にとって猫の耳を付けられるのは侮辱に等しい行為である。自らの師匠がそんな事をするだろうか、とソフィーはギャーギャー騒ぐミーシャへ、半ば疑いの目を向けた。残りの半分は自分に猫耳を付けられたことすら忘れる黒魔女への呆れた視線だった。
そんなベッドの上でぷんすか怒ったままのミーシャへ、どこからか戻ってきたジオラが声をかける。
「ミーシャ様方、ご飯の用意ができたってー」
「ごはん! じゃあそこにもローザはいるのね! すぐ行くわよすぐ!」
「え、あ、そんなにお腹空いてたの? てか待ってよミーシャ様! 一人で食堂行けるのー!?」
ジオラの報告を受けたミーシャが、ほとんど転がるようにベッドから抜け出して廊下へ走り出す。そんな突飛なミーシャの行動に驚きながらも、ジオラが慌ててその後を追った。
まるで嵐のように去っていった黒魔女に対して、ソフィーが我慢できないように小さく震えて一言。
「……うるっさ…………」
「ホントにね」
「ごめんなさいね、ミーシャちゃんがあんなので」
遠くから聞こえてくるどたばたとした音に、アイリスが困ったようにため息を吐いた。
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