ミクニと永遠の大窟
サクヤの本体が完全に溶けてしまうのを見届けると、私は陽の光を求めて地上に歩き出た。
展望台に向かってゆっくりと階段を登る。
大窟を一望するその場所に到着すると、どぉんという大きな音が地底から鳴り響き、一気に熱気が上ってきた。暗かった大窟の底から、真っ赤な炎の柱が立ち上る。大窟が、燃えているのだ。
私は、その炎が大窟の全てを焼き付くすのを、ぼんやりと見つめていた。その熱風は、かつてヤン達を弔う時のように、何度も何度も私の顔を撫でた。
気配を感じて振り向くと、そこにはイブキが立っていた。
私は、初代と共に、長い戦いを人知れず続けてきたイブキを称える言葉をかけようとして、その異変に気づいた。
私の足からは、サクヤの糸が、なくなっていた。その代わりに、自分自身がかつて移動に使用した鎖が、まるで囚人のように伸びていたのだ。
その鎖がどこに結びついているのか、私には心当たりがあった。それは、大窟の最深部、ソヨウの眠る場所に違いなかった。
(ソヨウ――生きてるの?)
心の中で呼び掛けた瞬間、私の全身に、どくんと衝撃が走った。急に血液が強く流れ込んだかのように、目の奥が熱くなり、私は目に手を当てて、その場に座り込む。
すると、暗くなった視界の代わりに、研ぎ澄まされた五感が、大窟の最深部に眠るソヨウの嘆きを正確に捕らえた。
そして、これまで感じたことのない何かが、鎖をたどって私の元に逆流してくるのを感じた。私の心に空いたままだった大きな穴が、まるでワインが注がれるように満たされて潤っていく。私はその恍惚に、意識を失いかけた。
それを味わうようにゆっくりと指を唇に当てると、私は薄く微笑む。
――はっきりと、解った。
大窟という場所の、次なる主が、他ならぬ自分自身であることを。先に巣くっていた邪魔者と、それに敵対する勢力を同時に滅ぼした私は、空になった玉座に座る権利を有したのだ。
それは、初代がその身命を賭して倒した大窟の怪物が、私の中で復活を遂げ、目覚めた瞬間だった。
私は、あらゆる大窟の人々の運命を巻き込み、自分の目的を達した。ソヨウの魂は、私と共に、永遠にこの大窟で生きていくのだ。
――もう、私は、孤独ではない。
イブキは、私のその表情を見て、満足げに微笑んだ。
大窟は、まるで私のことを拒むかのように、激しく炎を上げ続ける。
しかし、それは私にとっては希望の光に等しい。
ソヨウは長い長い時間をかけて、私に絶好の餌場を作ってくれることだろう。
――その穴は、巨大で深い。
地底大窟は永遠にその口を開けて、次なる獲物を誘っているのだ。
〈完〉




